やまない雨(5)
それから、彼と久しぶりに色んな話をした。
この図書館のこと、
好きな本や音楽、テレビ番組の話。
特に映画の話題は盛り上がった。
彼と私は、映画の趣味がよく合うようだった。
最近の距離感を一気に埋めるように、私達は、雨宿りの時間を有意義に過ごしたのだ。
どれくらいそうしていたのかは分からないけれど、しばらくすると、館長さんが私達に声をかけてきた。
「やみましたね、雨」
その声に誘われるようにして二人揃って窓に目をやると、暗かった風景には、いつの間にか、差し込む光があった。
「お二人でお話できましたか?」
優しく問う館長さん。
きっと、気を遣って私達二人にしてくれていたのだろう。
私と彼の間に生じていたぎこちなさを補修させるために。
「……はい。ありがとうございます」
スッキリした気分で答えることができた。
私の返事が、何に対してのお礼なのか、おそらく彼には分からないだろう。
そう思っていたのに、その彼も「ありがとうございました」と小さく頭を下げた。
……もしかしたら彼も、私と同じような気持ちでいたのだろうか。
本人に訊かないことには確かめようもないけれど、
そんな彼を、館長さんはとても優しい目で微笑んでいたのだった。
「では、お忘れ物はございませんね?」
ロビーまで見送ってくれた館長さんに、私は「大丈夫です」と答えてから、おずおずと、「また来てもいいですか?」と訊いてみた。
この図書館が招待制という事を思い出したからだ。
今日は偶然雨宿りさせてもらうことになったけれど、今度は、ちゃんと、来てみたかった。
館長さんとももっと話してみたかったし、”時の図書館” の中も色々見てみたかった。
「もちろんです。もしあなたの姿が見えたら、この扉を開いてお出迎えいたします」
館長さんの返事にホッとして、気持ちに余裕が生まれたのか、ふと見やった壁の砂時計の絵が視界を掠めたとき、私は微かな違和感を覚えた。
あれって、あんな絵だったっけ……?
「どうした?」
外に出ようとしていた彼が、立ち止まって私に声をかけた。
私は絵のことがちょっと気になったけれど、彼を待たせてまで今確認することでもない気がしたので、
「ううん、何でもない」と答えた。
絵のことは、今度来た時にちゃんと見ればいいかと思ったのだ。
「館長さん、ありがとうございました」
「お邪魔しました」
私達は揃って会釈すると、図書館を後にした。
「お二人とも、お気をつけてお帰りください」
優しく、丁寧に、微笑んでくれた館長さん。
館長さんはそのあとも、見えなくなるまでずっと、私達を見送ってくれていたのだった。