表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

やまない雨(5)




それから、彼と久しぶりに色んな話をした。


この図書館のこと、

好きな本や音楽、テレビ番組の話。

特に映画の話題は盛り上がった。

彼と私は、映画の趣味がよく合うようだった。


最近の距離感を一気に埋めるように、私達は、雨宿りの時間を有意義に過ごしたのだ。



どれくらいそうしていたのかは分からないけれど、しばらくすると、館長さんが私達に声をかけてきた。



「やみましたね、雨」


その声に誘われるようにして二人揃って窓に目をやると、暗かった風景には、いつの間にか、差し込む光があった。


「お二人でお話できましたか?」


優しく問う館長さん。

きっと、気を遣って私達二人にしてくれていたのだろう。

私と彼の間に生じていたぎこちなさを補修させるために。



「……はい。ありがとうございます」


スッキリした気分で答えることができた。


私の返事が、何に対してのお礼なのか、おそらく彼には分からないだろう。

そう思っていたのに、その彼も「ありがとうございました」と小さく頭を下げた。


……もしかしたら彼も、私と同じような気持ちでいたのだろうか。



本人に訊かないことには確かめようもないけれど、

そんな彼を、館長さんはとても優しい目で微笑んでいたのだった。





「では、お忘れ物はございませんね?」



ロビーまで見送ってくれた館長さんに、私は「大丈夫です」と答えてから、おずおずと、「また来てもいいですか?」と訊いてみた。

この図書館が招待制という事を思い出したからだ。


今日は偶然雨宿りさせてもらうことになったけれど、今度は、ちゃんと、来てみたかった。

館長さんとももっと話してみたかったし、”時の図書館” の中も色々見てみたかった。



「もちろんです。もしあなたの姿が見えたら、この扉を開いてお出迎えいたします」


館長さんの返事にホッとして、気持ちに余裕が生まれたのか、ふと見やった壁の砂時計の絵が視界を掠めたとき、私は微かな違和感を覚えた。



あれって、あんな絵だったっけ……?




「どうした?」


外に出ようとしていた彼が、立ち止まって私に声をかけた。


私は絵のことがちょっと気になったけれど、彼を待たせてまで今確認することでもない気がしたので、


「ううん、何でもない」と答えた。


絵のことは、今度来た時にちゃんと見ればいいかと思ったのだ。



「館長さん、ありがとうございました」

「お邪魔しました」


私達は揃って会釈すると、図書館を後にした。



「お二人とも、お気をつけてお帰りください」


優しく、丁寧に、微笑んでくれた館長さん。



館長さんはそのあとも、見えなくなるまでずっと、私達を見送ってくれていたのだった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ