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そして、許嫁は女子高生に進化する。

 最後に会ったのはいつだったか。初めて会ったときから2年経ったころだったか、彼女のご両親が交通事故で亡くなったときのお葬式だ。必死に泣くのをこらえていたのが印象的だった。  

もっとも、その次の年にじいちゃんが亡くなっているのでこの話は、てっきり破談になっているものとばかり思っていた。

「破談になってなかったんだな」

「なっていませんよ」

させません。小さく呟いたあと、かばんから封筒を取り出し俺に渡してきた。目顔で促してきたので開けて中を確認してみる。

「達筆すぎだろ!」

社会科を教えている俺でさえ達筆すぎて読み取れなかった。

「賢輔を頼むと書いてあります」

その部分を指差すが。いまいち自分の名前以外、解らなかった。

「破談になっていないのは、わかったけど俺たちの関係は秘密だ」

「誰にも内緒なんて」

初めて会った時のように美弥は、顔を赤らめた。

 遠くでチャイムの音が聞こえてきた。俺は、現実に引き戻され、学校!と叫び美弥と一緒に駈け出した。

 新任早々、許嫁の美弥に再会するとは思ってもいなかった。入学式でほかの生徒に混ざって校長の話を聞いている美弥の姿があった。じっと見ていると俺の視線に気が付いたのか美弥と目が合った。小さく手をあげ手を振ってくる。その姿は、可愛いが誰が見ているかわからないのでやめるように釘を刺しておく必要があるな。そんなことを考えていた。あごを動かしちゃんと話を聞くように促すと不服そうな顔をした。

 今日は、入学式だけなので生徒たちはもうすでに下校している。今後の授業の準備をしていると元担任の綿貫が声を掛けてきた。話を聞いているとたぬき親父なのは昔から変わってはいないみたいだ。

狗神(いぬがみ)。今いいか?」

「はい」

「人間構築研究部って覚えているか?」

「あぁ。たしか俺が在学中もありましたね、そんな部。まだあったんですか?」

「そ。そこでおまえにその部の顧問になって欲しいんだよ。ま。顧問といっても特別なことするわけじゃないから難しく考えなくていいから頼むよ」

そんなめんどうくさそうな部活の顧問なんて正直、狙い下げだったが運動部の顧問と比べて楽そうだと脳内で瞬時に考えた結果。俺は、ふたつ返事で了承した。

 そんな部活の顧問になったからといってタヌキ親父の言うとおり紹介されたあと、特段なにかするわけでもなく瞬く間に半年が経った。

「賢輔くん。こんにちは」

名前を呼ばれ振り向くと美弥が立っていた。

「こら。学校では先生と呼びなさい。入学して半年経つけど学校には慣れたか?」

「はい。少ないですが友だちもできました」

この半年、校内で美弥の姿を見かけた事はあったが特別に親しい友人がいるわけではないようだった。かといって孤立しているわけではないらしい。そこで、俺は、美弥にこんな提案をしてみることにした。

「人間構築研究部?」

うどこかさん臭そうな目で俺を見た。

「人間構築研究部。通称、にんけん。主な活動内容は、生徒の悩み用談ってとこかな。人はひとりでは生きていけない。だから支え合っていきましょうってことだ。」

空中に人という文字を書いてみた。

「でもあれって、明らかに片方が寄りかかっていますよね」

美弥は、両手を使い人という文字を作った。

「支え合うって言いなさい。支え合うと。別に親友を作れというわけじゃない。親しい相手がいれば学園生活も変わるだろうし、その部に入れば変わるんじゃないか?」

「賢輔くんが入れと言うなら入りますよ」

「そうか。良かった」

これで、友人ができれば俺も安心できるし、恋人でもできれば許嫁の荷も下りるし万々歳だ。

「なら」

「却下」

「じゃあ」

「却下」

「まだなにも言っていませんのに」

美弥は、そっぽを向いて唇を尖らせた。

「どうせ、そいつらに俺とおまえが許嫁だと言うつもりだろう?」

「どうしてわかるのですか?」

「わからいでか」

当然のごとく、俺と美弥の関係は、お互いの家族しか知らない。言えるわけがない。ほかのやつにばれたら俺の教員生活が終わる。あとひとり誰か知っていたような気もするが気のせいだろう。

「部員は、ふたりしかいないし美弥と同学年だから気にすることない。この後、用事がないなら行ってみるか?でも急すぎるか」

「いいですよ。猿島には連絡しておけばいいですし」

美弥を連れてにんけんの部室に向かう。部室は、空き教室を使用していてノックをして中に入ると中には部員がいた。俺の後に続いた美弥の姿を見てふたりは、少し驚いたようだった。

「ちょっといいか。新しい部員だ。同じ1年の根古沢(ねこざわ) 美弥さん」

美弥は、よろしくお願いしますと付け加え頭を下げた。

「真面目そうなのがで、牛嶋 さくら。こっちの陰湿そうなのが、鼠原(ねずみはら) 宙太(ちゅうた)

「他に言い方ってものがあるでしょうよ。よろしく」

そうは言っているが、目線は本に向かったままである。

「よろしく」

牛嶋は、ぎこちないが笑顔を見せ頭を下げた。

「詳しいことは、ふたりに聞いてくれ。じゃあ、俺は戻るな」

ドアのところで美弥に呼び止められた。呼び止めたもののなにも言う気配もなかったので不思議に思っていると身をかがめると耳元で、

「ありがとうございます」

と言い教室に戻っていく。

職員室に戻ったあとも残った声色と吐息がくすぐったかった。

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[一言] 誤字報告 ・学校に離れたか→学校には慣れたか? ・わからいでか→解読不可能
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