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突然できた許嫁を認めることはできない。

 暇な授業が終わり帰り支度をしているとポニーテールを揺らしながら俺に近づいてくる女生徒がいた。その、女生徒は、俺に声を掛けた。

「賢輔、帰ろう」

「あ、ごめん。これから人と会わなきゃいけないんだよ」

 睨まれるかたちで見下ろされ、少したじろぐ。たじろぎつつこうつけたす。

「俺は、まだ会ったことがないんだけどじいちゃんの知り合いの子らしいんだけど……」

「なんで、賢輔が会わないといけないのよ」

ネクタイを掴まれ締め上げられる。

「い、いやそうなん」

言い終わらないうちにさえぎられた。

「私も行く」

「はぁぁぁ?!」


 そんなわけで俺は、じいちゃんに指示された時間の少し前に待ち合わせ場所の学校近くの児童公園に来ていた。気まずい。とても気まずい。今すぐ、この場所から逃げ出したい。それは、これから会う相手が女の子だからじゃない。その相手は、俺の……。

「これから来る子ってどんな子なのよ」

「……俺の許嫁?らしいんだけど」

「許嫁ぇ?ちょっとどういうこと?賢輔は、私と付き合っているんだよね?」

『私』の部分を強調している。

そう。俺、狗神(いぬがみ) 賢輔は、大鳥 雛乃と付き合っている。事実、許嫁がいることすら昨晩じいちゃんに言われるまで知らなかったのだから仕方がない。ネクタイをきつく締めないでほしい。俺は、ギブアップをあげるため絞めているその手を軽く叩いた。

「だから、断るつもりできたんだよ」

「それならいいんだけど。ねぇ。あの子、知り合い?」

雛乃につられて顔を上げて見てみると女の子が大きく手を振りこっちに向かって走ってきている。その子がちょうど目の前にきたときに大胆に顔から転んだ。うわっ。痛そう。泣くだろうなと思ったら予想どおり顔が段々とゆがんでいき泣き出した。

 俺は、その女の子を立たせてやりスカートについた泥を落としてやっていると、黒いスーツに身を包んだ背の高い男が走ってきた。とっさに距離をとり両手を挙げる。いわゆる降参のポーズ。これで、白旗でも持っていれば、はち切れんばかりに振っていただろう。

「お嬢様。急に走り出すから転んでしまわれるのですよ」

黒ずくめの男は、俺に目線を向けてこう付け足した。

「もう、お会いになられたんですね」

「は?」

わけがわからずにいると、女の子が俺に腕を回しくっついてきた。

「この方は、許嫁の根古沢(ねこざわ) 美弥 様です。私は、お嬢様の付き人の猿島でございます。お見知りおきを」

とご丁寧にお辞儀をした。

「許嫁の相手って小学生?!」

雛乃が掴まれていないほうの腕をぐいっと引っ張った。口をとがらせむっとした顔で引っ張り返す。雛乃も雛乃で負けじと引っ張り返す。それでも賢輔、抜けません。抜けてたまるか。いや。この状況からいち抜けしたい。いい加減痛いので両手を挙げて、引っぺがした。

「いやいやいや。さすがに小学生は無理だって」

両手を付き出して全力で拒否する。

「でも、かわいい子じゃん」

もはやどっちの味方か分からない雛乃がそういうので俺は、思わず、

「可愛いけども」

「認めた」

「認めましたね」

「認めてくださいました!」

顔を赤らめ、両サイドに結ばれた髪の毛がウサギの耳のように跳ねた。

「だいいち俺には、付き合っている彼女がいるのでお断りします」

俺は、頭を下げる。

「今は、まだ無理でも結婚できるまでまだ5年あります!それまでに考えを直させていだだきます」

びしっと効果音でもついていそうな勢いで、小学生で許嫁な根古沢 美弥は、言った。

「でも、小学生は無理だって―――!」

俺は、公園の中心でそう叫んだ。



 うららかな陽気の中、俺は、通いなれた母校へと続く坂道を歩いていた。その道は、普段なら嫌気がさすが桜の咲いている季節は、この桜並木の道は壮観だ。やはり、花見がてら早めに家を出て正解だった。そこには、舞い散る桜の花びらに見蕩れている制服姿の女生徒がいた。   

 風になびく髪をおさえ俺と目が合ったその瞳にどこか懐かしさを覚えた。この学校の制服を着ているからもしかしたら校内で見かけた事があるのかもしれない。

「賢輔くん」

そう親しげに俺のことを呼ぶが、懐かしさを覚えただけで見知った顔ではなかった。目をつぶり、確かめるように口にした。

「あの時、賢輔君は言いました。小学生の許嫁は、無理だと。だからこうして16歳になるまで待ちました。さあ、結婚いたしましょう」

あの時、小学生だった少女は5年も経てば、高校生になるわけで、それは俺も当然、歳をとる。

そして、俺は今、母校の教師になっていた。

「だから、無理だってぇぇぇぇ」

桜舞い散る春の陽気の中心で、俺は叫んでいた。


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