魔法が使えるようになったけどお助けキャラはいない
自分の髪の毛が金色に光って入ることと、目の前でニュートン大先生が発見した万有引力の法則に従わない調子こいてる紙切れがあることにほずみはパニックを起こし奇声を発しながら手で持っていたチョコバナナクレープとスマホを宙にぶん投げた。
縁の視界に空に光る隕石の光の尾とチョコバナナクレープとスマホが交差する。
「うわわわわとりあえずお落ち着いてほずみちゃ、あああスマホ落ちちゃう、ストップストップ!!」
縁がそう言い終わるやいなや、眼前の友人と空中のチョコバナナクレープとスマホが完全停止した。そうして自分の視界がいやに銀色に眩しいことを意識して目が眩む。
ほずみがまるで蝋人形のように固まって入るのに驚愕しつつ、自身の後ろ髪を1房視界に持ってくると見慣れた自分の薄茶色の髪の毛がまばゆく銀色の光を放っている。
某教育系テレビ放送局の番組で仕入れた知識によれば、物が光を発するのにもそれに必要なエネルギーとか仕掛けがいるらしい。つまりタンパク質でできてる自分の髪の毛が自発的に発光するなんて絶対にありえないことなのだ。齢10歳の女児だが世の理のある程度は日本で生まれた瞬間に発生した教育の義務とやらのおかげで身についている。
しかしまだ女子小学生。もしかしたら不思議なことが現実に起こるかもなんて夢を見る気持ちは失っていない。だから思わず呟いた。
「魔法が・・・使えるようになってる?」
うそー!と急激に心がワクワクしてくる。今日から特別な力でワクワクするような毎日が始まるかもしれない可能性に胸を踊らせる。特別な自分になれた気がしてたまらない気持ちになってくる。
「ほずみちゃん!魔法が・・・!え、あ、ストップしたまま!?う、動けーっ」
「ダハァッッ!!しんどかった!!!!」
ベチャ、バキン!とチョコバナナクレープとスマホが落ちた。音からしてスマホは確実に画面が割れているはずだ。
「え、え、どうなってんの私たち!やばいー!!」
「ぜ、はっ息が・・・あとちょっと縁が遅かったら絶対死んでた、マジで死んでた!!」
「ごごごめぇぇんほずみちゃん!!」
「めっちゃ気をつけて。どちゃ苦しかった・・・いや私も気をつけないと、なんなのこれ一言で人間殺せるじゃん」
「あっ・・・・・」
縁はその一言でワクワクした気持ちが一気にドロドロした暗い気持ちに変わった。自分が魔法が使えるようになってることに浮かれてる間に目の前の親友は指一本どころか呼吸もできない状態になっていたのだ。慌てて言った「ストップ」のたった一言それだけで。
急に頭からさぁっと血の気が引く。
息を整えたほずみがゆったりとした動作で空中に留まっている紙切れをとる。それを訝しげに睨んだ。
「もう髪光ってないね」
「う、うんほずみちゃんも・・・」
二人の視線が交差したあと女性のつんざくような悲鳴が聞こえた。
びっくりして二人でそちらを見ると5歳くらいの男の子が空を飛んでいた。その髪の毛はオレンジに光っている。母親らしき女性は腰を抜かして泣き喚いていた。
他にも周囲に目を配ると髪が発光している人や叫んでいる人、魂が抜けたように目と口をあんぐり開けている人などがいて、アウトレットモールの中は異様な空気に包まれていた。
どうしたらいいのかわからない。ただ今起きた異常事態に二人の小学生はただただ漠然とした未来への不安を小さな胸に抱いた。