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訓練

「そこだ!そこで一斉に槍を突き出すんだ。違う!もっとタイミングを合わせて同時にやるんだ!」


 兵士たちが槍を使った訓練をしている。彼らは常備兵である。常備兵というのは、上野に直接雇われている兵士たちのことを言う。彼らはその武力を買われて国に雇われているので武力がないとやっていけない。そのため、彼らは常日頃からこのような訓練を欠かしていないのである。


「上野の訓練風景はこんな感じか。お前たちはこれを見てどう思う?」


 京四郎たちは今まさにその兵士たちの訓練風景を見ている。京四郎が上野を守る兵士たちの訓練を見てみたいと言って見学させてもらっているのだ。彼が連れてきた部下もその武力によって京四郎に雇われている者が多いので、上野にいる間は彼らもこの訓練に混ざることになる可能性が高い。


「そこまで悪くはないのでは?今仕事をしていてここにはいない人もいるでしょうし、これが上野の兵士のすべてではないと思いますが、個々の力では如月の兵士たちと比べて特段劣るということはありませんね」


 上野の兵士たちには上野各地での治安維持など、戦以外にも様々な仕事が与えられている。この訓練風景にいるのは、今日はそういった仕事が与えられていないメンバーである。それでもメンバーのうち半数はここにいる。まあ半数と言っても二十人くらいしかいないのだが。


「よく言うっすねー。おいらたちだってあの人たちと平均的なレベルはさほど変わらないっていうのに。それにおいらたちだって如月でちゃんと鍛えられたからここまで強くなったわけで、それがなければここの人たちより下でしょ」


「ぐっ、それは否定できん。否定はできんが、それでもこちらにはまだ()()()があるだろ?」


「確かにそうっすけど、それができるのはここにいる京四郎様の部下の中じゃおいらとおめえだけだろ。しかもそれだって京四郎様がいなければまだそこまで効果的じゃないし。やっぱりそれを使わなければ平均的なレベルではそう変わらないし、人数的に言ったら当然こっちの負けだろ。京四郎様の力なしならこっちの負けなんじゃないか?それにおいらのだって使い方次第で有効ではあるけどおめえの程戦闘向きじゃないしな」


「まあまあ落ち着け。俺たちはまだまだガキだ。元服こそしてこの国では大人扱いだが、()()俺の部下であるお前たちは、俺も含めてまだ誰も他国の基準で言うと成人していないんだ。経験もあって体もできている二十代三十代の男たちに普通にやって勝てなくてもしょうがないだろう。それで諦めてはいけないが、焦らず彼らの強さを認めることも大事だぞ」

 

 彼らはまだ十代前半。これからが伸び盛りであり、体ができてきて経験も積みどんどん強くなっていくのだ。今この時点で大人の兵士たちと互角というだけでも十分すごいのである。


「ほー。京四郎様、あなたの部下たちは私の部下たちよりも強いって言ってるんですか?それは楽しみだ。俺たちとしてはぜひお手合わせ願いたいのですが?」


 京四郎の前には、慣れない敬語を使っている大柄で強面の男がいる。


「あなたは確か、昨日の定例会議にもいた人だな?」


「ああ。その通りだ。俺は昨日軍務関連の議題を出したものであり、今の上野の軍事関連の最高責任者に当たる存在だ」


 彼は元々は如月で兵士をしていて、農村出身だがその生まれつき大きな体や戦闘センスなどの恵まれた能力を見込まれて、若くして一般兵から部将(部隊長)まで成り上がった。

 そこまではよかったのだが、彼は農村出身のこともあってか、言葉遣いがあまりになっていない。自分と同じ階級やそれより下の階級の人に対してはそれでもいい。しかし上の階級、それも国王などにも油断したらその口調が出てしまうのだ。そのせいでいろいろな波紋を呼んだが、それでも能力は高い。常に人手不足である如月では、そんな優秀な人物を始末するのはもちろん、一般兵に降格させるのももったいないという意見が出た。そこで、彼を上野の十一人会に入れ上野の兵士たちのトップにしたのだ。そうすれば上野には彼と同等の地位かその部下しかおらず、ここに来る彼より上の人間は領主代理くらいしかいない。

 

 領主代理には大きな権力があるが、国に直接選ばれた十一人会のメンバーを罷免する権利まではない。そうしておけば彼の能力を殺さなくてもいいということだ。もちろん上野に異動させたのは左遷の意味もあるのだが、彼は今のままじゃどの道如月ではやっていけないし、本人も如月より上野のほうがやりやすいと言って喜んでいるので、この異動は比較的スムーズに決まったのである。


 ちなみに彼は武士ではない。部将まで行けば武士になってもおかしくはないのだが、本人の性格の問題で武士になってはいない。というより、そもそも本人が武士になりたそうではないので、今のままでは彼が武士となることもないだろう。


「やっぱり大きいな。それにかなり強そうだ。如月で聞いた通りの人物像だな」


 彼は如月でいろいろやらかしてきてるので、この国では結構な有名人なのだ。


「あー、如月での俺の噂なんてどうせろくなもんじゃないだろう。?俺は一部のお偉いさんにはものすごく疎まれているからな。悪いうわさを流す奴はいてもいいうわさを流す奴はいねえだろう」


 彼はそう言って笑う。


「おい貴様、京四郎様に対する言葉遣いが成っていないのではないか?」


 京四郎はあまり気にしないが、それでも体裁というものはある。真之介はそのことを指摘しているのだ。


「あっそうだ。いやそうでした。うーん、やっぱりお偉いさんと話すのは難しいな。ここに来てからはまだそんな機会がなかったからつい忘れちまった。普段から使ってない弊害だな」


 彼は困ったような顔をしている。彼だって自分でも直そうとはしているのだが、残念ながら染みついた口調はなかなか抜けない。それに上野ではそういった口調でなくてもよいとされているので、上野に来てから三年、上野に来たばかりのころよりも農民の息子のころの口調に戻っているのだ。


「公の場でなければそれでもいいさ。俺の部下にだってあんたと同じ、もしかしたらそれ以上に口が悪いのがたくさんいるしな」


 京四郎はそう言って笑いながら自分の部下たちの方を見る。


「そりゃちげえねえ。おいらたちは根っからの悪ガキだからな」


「そうそう。俺たちだってあんな偉そうなやつらと一緒にされるくらいなら今のままの方がいいぜ」


「言えてる」


「「「「「「ワハハハハ」」」」」」


 京四郎の部下たちの大半が笑いだす。


「貴様ら!もう少しそれを直そうという心構えがないのか!?」


 この中でも数少ない良心である真之介が笑っている京四郎の部下たちをいさめる。


「そう言われてもな」


「根っから染みついたもんだし」


「おめえだっておいらたちと同じ口調にするのは難しいだろ」


「そもそもお前たちと同じ口調にする意味がないわ!」


「確かにそうだ。こりゃ一本取られたな」


「「「「「「ワハハハハ」」」」」」


「だからそこで笑うな!」


「まあこんな感じだからな。あんたの口調を一々気にしている場合じゃない」


「ワハハ。確かに、これでは俺の口調を気にしている場合ではないな。しかし不思議だ。定例会議では俺たちが聞いていたあんたの評判とは全然違うと思ったのだが、今こうしてみると評判通りだ。一体どれが本当のあんたなんだ?」


 会議で見せた聡明な姿、そして今ここで見せている彼らが事前に聞いていた噂通りの如月家らしからぬ姿、一体どの姿が本物なのか?彼、そして上野の民や他の十一人会のメンバーにとっても興味深いことである。


「どれがと言われてもな。あんたたちが聞いていた俺の噂がどんなものなのかはぜひとも聞いてみたいところだが、俺からするとどれも俺だ。それでも何かキャラ付けをしたいなら、俺のことを見て勝手にやってくれ」


「それはいいな!それでは勝手にさせてもらう。それで、俺が率いる兵士たちとの模擬戦はどうする?」


「そうだなあ。率いているのはあんたかもしれないが、俺が領主代理である間は俺の部下になるわけだしな。部下になる予定の兵士たちの力を見るためにも一度模擬戦とかしといた方がいいな」


「そうとなりゃ決定だ。おいお前ら!領主代理様の兵士たちとの模擬戦だ。全員気合い入れろよ!」


「「「「「「「「オォー!!」」」」」」」」


「おいらたちも気合入れていきましょうぜ」


「ああそうだな。こればっかりはお前の意見に同意する」


「みんな、京四郎様の兵として恥ずかしくないようにするよ」


「「「「「「オォー」」」」」」


 どちらの陣営も気合が入っている状態である。上野のほうは倍の人数がいるので、そこのところを踏まえていろいろルールの調整などもしながら、両陣営とも打ち合わせしたり体を温めたりして模擬戦に備えた。








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