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春の定例会議2

「とまあこんな感じで普段定例会議を行っております。領主代理様から見てなにか不備などはございますか?」


 今回京四郎はこの会議で一切口出しをしていなかった。これは上野ではどのように意思決定をしているか知りたかったからである。制度としては知っていても実際に見るのとでは全然違う。また、この地で長く政治を行ってきた者たちの意見を聞いてみたかったということもある。京四郎はこの地にいたこともなければ、如月でこういった会議に参加したこともない。そのため、仮に気になることがあっても会議の様子に一切口を出さず見ていたのである。


「そうだなあ。まず一つ、以前ここは農業関連をすべて中央、つまりは今でいう俺とあなたたちとその部下で管理する、いわゆる大規模農業になっていたはずだが、なぜ今それをしていないんだ?」


 上野は第三王子が領主代理をしていたころ、つまり今から四年前まではすべての耕作地を上が管理し、農民たち全員に協力させてまさに一つになって農業を行っていたのだ。その政策は土地をたくさん持っている地主たち、特に大地主たちからの反発もあったのだが、第三王子は権力にものを言わせて無理やりそれを実行、その政策をめぐり色々騒動があったようだが、結果的に収穫量は伸びていたのだ。その政策を実行するに当たっていろいろあったようだが、結果的には収穫量を増やすことに成功していた政策をなぜやめたのか、京四郎は上野に来る前から気になっていたのだ。


「地主たちの反対があったのは知っていますね。彼はその反対を押し切るために、その政策がなされるのは三年だけということにして、地主たちにも十分すぎるほどの給与を与えていたのです。なので今は元の制度にもどっていて、土地で作る作物はその土地の所有者に任せ、我々はその収穫量に応じた税金を取るだけに戻っているのです」


「三年だけって……気持ちはわからないでもないがそれはどうなんだろうか?まあいいや。そういう事情があるならとりあえずわかったよ(そうなるとそれをするのは難しそうだ。今地主たちともめるといろいろ面倒だからな)」


 この国は王の権力が強い。しかし、それでいて超弱小国なのだ。地主たちが一丸になって反抗してきたらかなりまずいのである。地主というのは村の有力者でもある。そいつらを無理やり力で押さえつけるのはいろいろとまずいのである。


「はい。その政策が終わった後にちゃんと元の土地を渡しておきました。まあ、終わりごろには収穫量が依然と変わらなくなっていましたし、地主たちへのお金を払う量が多くて、国の収入は全然増えていませんでしたけどね」


「それはどういうことだ?収穫量が増えていたのではなかったのか?」


「京三郎様は農民たちへの給与を誰彼問わず一定にしていたのです。そのため、農民たちはやる気をなくしてしまったのです」


「それなら当然だな。アイディアは面白かったけど、欲をかきすぎたのと地主たちに配慮しすぎたことが問題だな。農民たちにだって収穫量に応じた待遇にしてやればよかっただろうに」


 農民たちだっていくら頑張ってももらえる量が増えないなら頑張らなくなるというものだ。人間とはいくら頑張っても無意味だと知れば諦めてしまう生き物である。それに自分たちが頑張るほど上が裕福になるのにそれが自分たちには一切還元されないということは、むしろ頑張った分だけ損であると言える。これでは農民たちのやる気がなくなるのも無理はない。


「まさにその通りです。さすが如月家、優秀でございます」


 会議に出ている者たちは少し驚いた顔をした。第四王子は聞いていたよりもずっと賢いのかもしれない、そう思い始めたのである。


「ああそれともう一個、上野に入るための税金はなくすから。もちろん身元をチェックしたりするのはやめないけど、上野に入るのに税金がいるという制度はやめるから」


「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」


 ここにいるメンバーは二人を除いて皆驚いている。街を通るにはそれだけで関税が必要だというのは常識であり、それをなくすというのはものすごく革新的であったからだ。


「税をなくしてもよいというのですか?」


「だってそうしないと人が来ないじゃん」


「しかし各地にある関所などの税は大きな収入源ですぞ」


 関所の税金はこの国にとって、というか他の国にとっても大きな財源の一つである。それをなくしてしまうというのは難しいのだ。


「いや関所のはなくさないよ。そもそも関所に関しては如月の管轄だからね。今の俺がどうこうできる話じゃない。ただ、この街に入るのに税金はとらないってこと」


 関所に関しては国の管轄であり、京四郎にそれをどうこうできる権限はない。彼が言っているのはあくまで上野に入るために払うべき税をなくすということだけである。


「それでは上野の財源だけが減ることになるのでは?」


「そもそもわざわざ上野に来る奴がそんなにいるか?お前たちは商人が来るとか移住希望者が来るとか言っているが、そんなのたかが知れてるだろ?それとも、上野には毎年何百人と人が来るのか?」


「いえ……外部から上野に来るような者は毎年百人といません」


「そりゃそうだろ。商人は品物が売れるところに来る。ならどんなところが商品が多く売れるか?簡単だ。人が多いところだよ。たった千人しかいない上野にわざわざ来ないだろ。

 民はどんなところに移り住んでくる?それも簡単だ。自分たちがより良い暮らしのできるところだ。良い暮らしができるということは民が裕福であるということだ。そして、その財産を強い兵士たちがちゃんと外敵から守ってくれるところだ。

 さてこの国はどうか。領土は狭く人口が少ない。確かに余っている土地はあるが、この人数と金ではそれを開墾する余裕もない。その上常備兵が五十にも満たず、他国から攻められたら終わりだ。そして、山賊たちにすら取られてもおかしくないほどだ。

 その上街に入るのに関税なんてかけてたら誰も来ないだろ。ここは素通りされるだけのところだ。関所にはいやいや通る人もいるが、わざわざ上野による人はほとんどいない。そんな街が活性化するわけがないだろ?」


「それは……はい」


「だったら別に上野に入るのに金はいらん。そうすれば商人などが以前よりも来てくれるかもしれん。人の行き来が増えれば領内も活性化する」


「しかし、商人たちから税を一銭も取らないというのですか?」


「いやそれはない。この政策が実行されるのと同時にうちの領内で市場を開く」


「市場ですか?それならすでに開かれておりますが」


「それを国主導で行うのだ。例えば商売はそこでしかしてはならんとかな。そうしてそこで商人たちが得た利益から何割かを税としてもらう。それなら上野にだってちゃんと税収が入ってくるだろう?それが旅人なら、関所を一つくらい儲けさせてやれ。こんな小さい領内に関所がいくつもあるのだ。一つくらいまけさせてやったっていいだろう?」


「まあどうせ関所の通行税は国に入るので上野には入りませんがね」


「まあそういうことだ。しかしな、俺はこうやって高説を垂れたはいいが、当然統治に関する経験が全くない。そこでだ。お前たちはこの案についてどう思う。経験豊富なあなたたちから、ぜひ忌憚のない意見を聞かせてもらいたい」


 そういって京四郎は周りの者たちを見た。


「面白いとは思います。しかし領主代理、このようなことをどうやって思いついたのですか?」


 これまでここではこんな意見が出たことがなかったのだ。京四郎がこれをどうやって思いついたのかということを彼らが知りたいと思うのも無理はない。実際彼らだって目からうろこの思いなのだから。


「なんか適当に考えていたら思いついた。と言いたいがそれは嘘だ。実はこれはうちから遠く離れている国の王が考えたらしい方法で、詳しくは知らないが、なんでもその王は国内の関所すらも撤廃したようなのだ。うちはその国とは状況が違うので全く同じにはできないが、それでも近いことはできそうだと思って真似しただけだ。別に俺が特別優れているとかじゃないよ」


「我々ですらまだ知らない情報を持っていて、それを上野流にアレンジしたことは十分優秀だと思うのですが……」


「何か言ったか?」


「いえ何でもありません。それで、その政策の施行は今すぐにでも?」


「まあ春はほかのことでも忙しいし、これを施行するにもいろいろと根回しとか準備もあるだろうから、夏までにできればいいかな。たださっきも言った通り俺はまだ経験が浅い。みんなは反対意見とかないか?もしくはもっとこうしたらいいとかの修正案でもいいけど」


 京四郎がそう聞くが、反対意見や修正案は出てこなかった。


「本当に遠慮はしなくていいんだがな……まあいい。とにかく反対意見がないならこれを推し進めるということで可決にするぞ。他は単純に上野への知識不足からくることだから、あまり身構えずに答えてくれ」


 京四郎が案を出したことで緊張感が張り詰めている空気を和らげるため、京四郎は笑いながら言った。


「それでは不甲斐ない身なれど、我々がご質問に答えさせていただきます」


「よろしく頼むよ」


 こうして京四郎からくる質問に答えながら、街や商人に関する税以外のことは例年通りいくことに決まった。






 





 

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