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 時は少し遡る。これはまだ軍同士がぶつかる前の段階であり、一部の傭兵たちが裏切る直前を表したものである。


「なあ、今回の戦どう思う?なんか俺としてはあまり気乗りしないんだよな」


 彼は京次郎の軍にいる傭兵の一人である。どうやら彼は今回の戦争自体をあまり気に入っていないようである。


「それはお前が上野出身だからだろ?俺だってさすがに自分の故郷と戦争しろと言われたら気乗りしないだろうしな。お前の気持ちもわかるが、俺たちは傭兵なんだぞ。故郷とかにかかわらず戦争がなきゃやってけねえし、これが飯のタネなんだからな。お前が参加したのだって結局はそういうことだろ?」


「まあそれはそうだが」


 男の参加している傭兵団は依頼に対して全員が強制参加というわけではない。特に今回は自分たちの側が圧倒的に有利なので当然報酬も少ない。数人が参加しなくても十分に勝てる戦だし、参加する傭兵が少ないほうが分け前も大きくなるので、彼には参加しないという選択肢があったのだ。それでも今回参加したのは、この戦がほぼ確実に勝ち戦であること、そして今回の雇用は謀反を起こすときからなので拘束時間が長いことがあげられる。


 勝ち戦に参加すれば報酬が少なくても安全に仕事ができる可能性が高いし、状況によっては敵の大将をとって武功を上げられる可能性もある。勝ち戦であったとしても敵の大将格を打ち取れば当然追加報酬がもらえるのだ。そのため、傭兵たちの多くは京四郎の首を狙っている。

 また今回は拘束時間が長いので、今回の戦に参加しなければ当分活動することができない。傭兵団の仲間たちがいないのに自分一人に依頼が来ることは無い。それに最近ここいらでは傭兵の出番が少なかったのだ。今稼いでおかないと食い扶持が見つからないのである。


「俺たちは難しいことは考えずに目の前の戦に勝ちさえすればいいんだよ。それに今回だって百パーセント勝てるわけじゃねえ。油断は命取りになるぞ」


 傭兵はそう言って笑う。彼は口ではこう言っているが、実際は自分たちが勝つ未来を微塵も疑ってはいない。その心の中には油断や慢心が渦巻いているのである。


「そのとお……」


『ズバッ!』


 男が返事をしようとしたがそれがちゃんと行われることは無かった。彼は味方であるはずの傭兵に斬りつけられて絶命したからである。


「な!よくも仲間をやってくれたな!ぜってえ許さねえぞ!!」


 殺された男の仲間は裏切り者の傭兵に斬りかかる。裏切り者の排除というのもあったが、何より自分の仲間が目の前で殺されたのだ。傭兵とはいえ、いやむしろ傭兵だからこそ仲間同士の信頼は厚い。彼らが信じられるのは自分たちの傭兵団のメンバーだけであり、それ以外は信じないようにしているからである。彼らにとって他の傭兵団はあくまでライバルであり敵でもある。決して仲の良い仕事仲間などではない。雇い主だってあくまで利害関係にあるだけの存在である。

 

 彼らの仕事は金をもらって戦に出るという仕事だ。彼らにとっては自分たちの仲間以外の人間はいつでも敵になりえるのである。仲間以外を信頼しないのは、今は味方でもいつ敵として戦うことになってもおかしくないと知っているからである。そのため、それらとは違って常に味方であることが確約されている仲間同士ののきずなが自然と強くなっていくのである。


『ズバッ!』


 しかしその決意も無駄になった。他にもいる裏切り者の手によって、そいつもすぐに殺されてしまったのだから。


「おい一体どうなっている!裏切り者がたくさん混じりすぎているじゃないか!敵に買収でもされた傭兵団が何個かあるのか!?」


「助けてくれ!」


「これは安全な勝ち戦じゃなかったのかよ!?」


「どうしてこんなことに……」


 傭兵たちが悲鳴を上げてどんどんやられていく。こうなってしまってはもう手遅れである。こうなると彼らには自分の仲間の傭兵たち以外みんな敵に思えてくるのだ。傭兵たちのいる前線では混乱が起こり、本来は裏切り者ではない者たちまで殺しあってしまう始末である。


 伝令は報告に向かい、後方にいる浅井家の兵士たちも何とかその混乱を抑えようとするが、その策を実行するまでには至らなかった。なぜなら、混乱がこれから大きくなろうとしているタイミングで敵が攻めてきたからである。こうなってしまうと混乱がさらに大きくなってしまい、それを収めるのが難しい状態になってしまうのであった。





「お前たち準備はできたか?」


「はい。すでに敵をかく乱させるためのスパイを送り込んでおります。彼らもいつでも暴れる準備ができております」


「それでいい。これは我らが主である京四郎様が玉座に着くための戦いだ。それによってこの国は大きくなるのだから。我々も先々代のことは忘れて忠義を尽くすべきだろう。幸いにもその時の老人たちはもういない。我らに仕事と金を与えてくれた京四郎様への忠誠を見せるときだぞ!」


 彼らは京四郎が個人的に雇っている忍びたちである。以前説明したが、彼らは先々代に解雇されてから困っていたところを今になって京四郎に雇われたのだ。もちろん当時の京四郎には彼らを雇えるような資金はなかった。しかし、京四郎はある方法で彼らを雇ったのである。


 その方法とは、自分で商会を立ち上げて彼らをそこの従業員にすることである。彼らにはその鍛えた足で各地に商売をしに行ってもらい、そこで利益を得るだけでなく商人に扮することでその地で色々な情報を調べてもらうということもしてもらっていたのである。

 幸いなことに京四郎には商才があった。彼は自分が小遣いとしてもらえるわずかな資金と忍びを含めた自分の部下たち、そして超弱小国とはいえ一国の王子であるという立場を使い、徐々に資産を増やしていったのである。特に京四郎が上野の領主代理となってからはその権限も増え、忍びたちにお金が足りなくて払いきれていなかった給料もなんとか払いきれるようになったのである。


 京四郎はその商会によって資金と情報を手に入れる手段を持っていたのだ。彼が如月で起こった謀反を早くから知っていたのはそのためである。


「それでは行ってきます」


「ああ頼んだぞ。今回の戦はお前たちの働きにかかっていると言っても過言ではないからな」


 彼らの仕事は前線にいる傭兵たちに混ざって、両軍がぶつかり合う少し前に傭兵たちを殺して混乱を起こすことである。京四郎たちがその混乱を利用して敵の前線である傭兵たちをスムーズにつぶすための重要な作戦であり、序盤は彼らの働きによって左右されると言っても過言ではない。


 こうして行われた作戦はうまくいき、彼ら忍びは作戦完了の合図を京四郎の軍に送るのであった。





「京四郎様、まだ敵と交戦しないのですか?もう兵士たちの士気は十分ですよ」


「もう少し待て。まだ合図が来ていない」


「合図とは?」

 

 その時、敵の陣営から一本の火矢が飛んできた。


「合図が来た!これから攻めるぞ!」


 忍びたちの働きによって混乱を与えられた前線の傭兵たちは、真之介の能力によって強化された兵士たちに次々と殺されていったのである。


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