晩餐会
「それではうちの四男の京四郎が元服したことを祝して、乾杯!」
「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」
京四郎の元服を祝う晩餐会が始まった。晩餐会と言っても、参加人数はたかが知れている。この国は人口が少なく領土も狭いので、大名(国王以外の支配階級で、国から領地を与えられている者のことを言う)がいない。今日来ている武士(この世界では武士が武官的な役割はもちろん、文官的な役割も果たしていた)たちといった国に直接仕えている者たちはこの国の特権階級だが、それでも他の国の武士ほどではない。
この国の領土はすべて如月家の直轄領であり、如月家以外に領土を持っている者(つまりは大名)は存在しない。いわば超中央集権国家である。国内での国王の権力の強さだけでいったら、周辺国でもトップクラスである。というか、これほどまで小さい国だと強い権力を持つ者が複数いるとよくないことしか起きない。周りに自分たちより強い国ばかりひしめく状況だからこそ、権力を一点に絞りそれを強いリーダが行使することで生きながらえてきたのである。この国が内乱なんかしたら即終わりだ。他の国、というよりほかの国の大名にさえ本腰入れて攻められても終わりなのだから。
今回の晩餐会に集まっているのはこの国にいる数少ない武士である。しかし、この国では人口と同じく武士の数も少ないので、晩餐会にたくさん来すぎると国の守りや国の政務が滞ってしまう。そのため、ただでさえ少ない武士の中でもさらに一握りしか来ていないので、今回の晩餐会に参加する人数は二十人もいない寂しいものなのである。
この晩餐会には他国からの客人はいない。京四郎にとっては祖父に当たる薩摩の国の大名も、この晩餐会には呼ばれていない。この国の国力の小ささから、他国の客人を呼ぶというのはよっぽど頑張らないとできないのである。そのため、他国からの客人を呼ぶのは本当に呼ばなきゃしゃあないというときにしか呼ばないのだ。超弱小国でも一応国としての見栄があるから、他国にはかっこ悪いところを見せないものである。
「京四郎様も大きくなられましたな。家臣として誇らしく思いますぞ」
「元服おめでとうございます。これからは大人として扱わなければなりませんな」
「まだまだ皆さんに比べれば若輩者ですので、これからもぜひご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」
京四郎は自分の元服を祝う声に対してつつがなく対応していく。
「弟よ。よくぞ元服した。これで本格的な王位継承戦が始められるというものだ」
周りの大人たちよりも一回り大きな青年が京四郎に話しかけてくる。彼らは京四郎の実の兄である次男の京次郎である。
「はい京次郎兄さん。誰が父上の後を継ぐかはわかりませんが、お互い悔いの残らないようにだけはしたいですね」
京次郎は京四郎の言葉に対して笑みを浮かべる。
「それもそうだ。まあ安心しろ。俺が父上の後を継いでも、兄上ともどもお前たちを有効的に使ってやる。生かしてはやるのだから感謝しろよ」
「それは楽しみです。もしそうなった時は、せいぜい兄上の足を引っ張らないようにせねばなりませんね」
京次郎はその言葉にまた笑みを浮かべ、
「確かにその通りだ。まだ十三歳のくせによくわかっているではないか」と言って立ち去り、また別の参加者に話しかけに行った。
「あれは完全に自分が跡取りになると確信しているような態度でしたね」
京次郎がいなくなったのを見計らって、小次郎が京四郎に話を振る。
「それは当然だろう。少なくとも、今日王位継承レースのスタートに立ったばかりの俺よりはだいぶリードしていることは確実だ。それに、噂では他の二人の兄弟よりも優勢であると言われているからな」
この国の次期当主は生まれた順ではない。そこそこ大きくて安定している国ならば長子継承でも構わないのかもしれないが、この国のように不安定でいつ他国に責められるかもわからないような国では、先に生まれたという理由だけで長男を当主にすることは無い。長男が愚か者であった場合はもちろん、凡人であったとしてもこの国の状況ではすぐに滅びるのが落ちである。
この国が生き残るためには次期当主は優秀な者でなければならない。そのため、条件を満たした者ならだれでも王になれる可能性がある。
その王位継承戦に参加する条件は国王の正妻の男子であること。ただこの一点のみであり、その条件を満たすことができれば王位継承戦に参加できる。いや、参加しなければならないといった方が正しいか。
今回の王位継承戦に参加できるのは長男の京一郎、次男の京次郎、三男の京三郎、そして今日元服したばかりの四男京四郎である。この四人のうち、国王が優秀だと判断した者が次期国王の座を与えられるのである。
ただし、次期国王を選定するときには王位継承戦をする中で一番幼い子が元服をしてから三年後でなければいけないという決まりがある。そのため、あと三年間は次期国王が決まらないのだ。もちろん、国王が病気やけがで次期国王を正式に決める前に亡くなることは当然ある。そういった時のために国王は常に遺言書を準備し、そこにその時点での次期国王の名が常に書かれているのだ。そのため、継承戦が本格的に始まるのは今日からだが、実際はその前から継承戦が始まっているとも言える。
この国にとって、強いリーダと権力の集中は常に必須とされている。そのため、一度次期当主が決まってしまえば覆すことはその者が死なぬ限り不可能であり、この国では内部争いをしている余裕がないという理由から、継承戦においてライバルを蹴落とすだけならいざ知らず、それによって国に損害が生じた場合は、それを起こしたものは重罪となり王位継承権もなくなる。当然、国王と次期当主を殺した者は死刑だ。これは次期当主が早く王座に就きたくて国王を殺した場合も同じである。
「国王様はあの方を跡取りにするのでしょうか?」
「それはこれからの俺たちの行動と父上の気持ち次第だろう。跡取りが決まるまで最低でもあと三年は時間がある。そこでどう逆転するかわからんからな。もっとも、跡取りが決まるまでにこの国が滅亡しなければの話だが」
「ここには重臣の方がたくさんいます。そのようなことは冗談でもおっしゃらないでください」
「冗談ならどれだけよかったことか」
京四郎はそう言って自虐的に笑う。
「そうだとしてもです」
小次郎もさすがに苦笑いである。
その後も晩餐会はつつがなく進み、最後は国王からの締めの挨拶を残すだけになった。元服を祝う晩餐会の締めの挨拶は、元服した男子がこれからどんな仕事に就くかを国王が発表するものでもあり、京四郎とその家臣の小次郎にとっては重要なものである。
「それではこれで晩餐会をお開きとする。それで皆も気になっておるであろう京四郎の仕事だが、例年通りとりあえず三年間上野の統治を任せることとする。戦争などの非常事態にならない限りはこちらからは最低限の干渉しかしないので、上野にいる者たちの力も借りながらいろいろやってみるがいい」
「はっ!この京四郎、王命しかと承りました」
「うむ。それと、自分に付き従ってくれる家臣は好きなだけ連れて行ってもらって構わん。これも例年通りの決まり事だ」
「はい。それでは明日上野に出発いたします」
京四郎が明日出発できるのは、事前に彼が上野に行くということが知らされていたからである。そうでなければ、馬や荷物などの準備や自分と一緒に連れて行く者の選別などを一日で終わらせることなんてとてもできない。何日も前に自分が元服した日に上野に行くように晩餐会で言われると聞かされていたので、もうすでに一緒に行くメンバーの選定や向こうに行く準備は整えてあり、後は今日しっかり休んで明日出発するだけとなっているのだ。
「健闘を祈るぞ」
こうして京四郎は自分に付き従ってくれる兵士たちと共に上野へ行くこととなった。