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激突

「やはり相手の軍は山賊でした。他の者とも意見交換しましたが間違いありません」


「よかった。考えすぎであったか。もう戦の準備はできているな?兵士たちの様子はどうだ?」


 真之介だって馬鹿ではない。敵が不意を狙わず正面から来たと言っても、だからと言って自分たちが戦う準備ができるまで待ってもらえるとは限らないことは知っている。それに正面の敵が陽動であり、どこかに潜んでいる奴らが不意を突いて攻撃してくる可能性もあるのだ。


 真之介は兵士にもう一度敵を確認に行かせた後、他の兵士たちに戦の準備、及びある程度の戦術を伝えていたのだ。当然不意打ちもしっかり警戒させている。そもそも敵の数が討伐隊を大きく上回っているのだ。真之介には油断がない、というより油断のしようがないのだ。



「大丈夫です。ちゃんと後方から伏兵がくる可能性も視野に入れております」


「よかった。それにしても、上野の兵士たちは思ったよりも丁寧ですね。副隊長とはいえ年下の俺にちゃんと敬語を使ってくれるのですから」


 真之介は今回の隊だけでなく、上野の兵士たちの中での副隊長である。これは京四郎の兵士たちが上野に組み込まれたことにより、その調整のために副隊長が二人になったことが原因である。


 正直五十人前後の兵士なら隊長一人でもなんとかなるし、そうでなくとも副隊長を一人指名しておけば十分に事足りる。しかし、真之介は新たに入ってきたメンバーたちのリーダー格である上に、領主代理である京四郎からの信頼も厚い。そのため、京四郎と一緒に来た兵士枠で副隊長の椅子を用意されたのだ。


「うちは隊長があれですから粗野な者も多いと思われがちですが、そもそも隊長が上野に来たのは三年前です。上野の兵士たちはみな彼のことは尊敬しておりますが、口調まで毒されているのは若い者の一部だけです。

 我々のような中堅からベテランと呼ばれる兵士たちは、最初からそういう口調だったもの以外は以前の口調のままですし、以前の隊長は礼儀正しかったので、上の年齢の者はほとんどこういう口調ですよ。兵士は年齢じゃなくて実力の世界ですから。年齢とか関係なく、地位が上の者にはある程度丁寧に接しなくてはならないと先代から学びましたから」


「ああ。確か如月家出身で、今の国王の叔父にあたるとか。さすがにもういい年齢なので引退したと聞いています。剣八殿ほどの武勇はないが、それでも昔はかなり強かったとか」


 先代の上野の隊長は如月家で王位につけなかった者が務めていたのである。なんでもその者は王位を継げなかった後自分から上野の兵士として働くことを志願したらしく、先代国王も特に否定する理由がなかったから好きにさせたのだとか。今はさすがに年で引退してしまったのだが、それでも如月には戻らず上野で余生を楽しんでいるようだ。


「さすがに隊長に勝てる者はおらんでしょう。とそれより、敵が一度止まったようです。今は様子を見ていますが、これからどう出るでしょうか?」


「本当に山賊らしくないな。山賊なら問答無用で一斉にとびかかってくると考えていたのだが。まあいい。とにかく先に動くなと伝えておいてくれ。敵の動きが出たら逐一指示を出す。三十人しかいないからすぐ全員に声が届くからな」


「わかりましたそれでは…おっと、敵が動くようですね」


 前方の山賊の集団の中から、馬に乗った一人の男がゆっくりと前に出てきた。






「お前たち上野の兵士に次ぐ、今すぐ投降するなら命だけは助けてやる。こちらの狙いは上野をつぶすことだけだ。上野の兵士でいるつもりなら容赦しないぞ。命を奪われる覚悟をしてもらわねばならなくなるからな」


 前に出た男はそう言って討伐隊に忠告する。


「あいつは本当に山賊か?山賊があんなことするなんてなかなかないことだが」


 山賊は軍と遭遇したら迷わず逃げるか問答無用で襲いかかってくるかのどちらかだ。真之介たちが上野の兵士だとわかっているのにこんな忠告をしてくるなんてやっぱりおかしいのだ。


「返答がないということは戦うということでいいのだな。決して後悔はするなよ!」


 男はそう言って山賊たちのもとへ帰っていった。そしてそれと同時に敵の山賊たちが進軍してきた。


「総員構え!それでは作戦通りに進める。まずは陣形を整えると同時に、後ろの弓兵たちは矢を準備しておけ!」


 作戦会議の結果、討伐隊の指揮官は真之介に決まった。真之介は後方から全体の指揮、剣八は前線で思う存分暴れるという算段である。剣八としても真之介としてもお互いにこの方がやりやすいのだ。


「やっぱりおかしいだろ!あいつら、妙に連携が取れてやがる」


 山賊たちは一糸乱れぬとは言わないが、それでもある程度規律を保ったままで進軍してくる。


「しかもなんか数が多くないか?五十と聞いていたけど、その倍はいるような……」


「はい。見たところ百はいますね」


「「「「「「「「百!?」」」」」」」」


「ちょっと待て。五十より少しくらい多くてもたいして問題はないが、それが百ともなると完全に想定外だぞ。本当に百以上なのか?」


 討伐隊は敵の数が五十前後だと予想してきた。討伐隊も、五十前後なら倒せるだろうと考えられて編成されている。しかしそれが倍以上数ものとなると話が違ってくる。さすがに百は想定されていない。


「我らは総勢百五十の軍隊だ。これが高々三十程度のお前たちに倒せるかな?言っておくが、今更投降しても遅いぞ!」


 百五十人、それは領民兵を入れた上野の最大兵数とほぼ同じである。上野から徴兵できる領民兵はせいぜい百人くらいが限度である。つまり、あくまで数だけで言うなら上野全軍対その一部の兵士の戦いである。戦力差は五倍、普通に考えたら勝てるわけがない。

 

 敵が自分たちの五倍も数がいると聞いてしまい、討伐隊の士気も下がってしまった。あくまで敵が言っているだけだから本当に五倍いるかわからない。しかし、それでも敵がこちらよりもたくさんいるのが明らかだ。兵士たちの士気が下がるのも無理はない。


「百五十人か!いいねえ、それくらいハンデがないと俺には不足すぎるぜ!」


 剣八は自分たちの五倍以上もある敵に一人で突進していった。


「あの人は何を馬鹿なことを……いや、もしかしてそういうことか!」


 真之介は剣八の行動から何かを読み取り、そして討伐隊に向けて叫んだ。


「討伐隊よ、聞け!我らが隊長の剣八殿が敵にひるまず向かっていった。彼はこう言っている。たった五倍の山賊程度で自分たち上野の兵士たちを倒せるはずがない。数が多いだけの烏合の衆に恐れる必要はないと。

 もしそれでも恐れる者がいるならば、その時は自分にとって大切な人たちを思い出せ。我々兵士はその人たちを守るために存在しているのだ!そんな我々が、守るべき人もいないような山賊に負けるはずがない!」


「「「「「「「「うぉおおお」」」」」」」」


 兵士たちの士気が下がったのを感じ取って行われた隊長である剣八の突撃、そしてその意図をくみ取って兵士たちを鼓舞した真之介、この二人によって討伐隊は士気を高めた状態で、自分たちの五倍の数を誇る山賊たちの軍とぶつかり合った。

 


 


 










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