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討伐隊

「お前たち!上野周辺を荒らす山賊どもを駆逐する準備はできたか!?」


 討伐隊の人数は三十人。その中にはこの三十人を選びだした剣八と真之介もいる。剣八が京四郎に呼び出されてから三日、京四郎が事前に物資を準備していたことにより、決定からすぐに討伐隊の出動となった。


 そして出動から二日、ついに討伐隊は敵アジトに潜入するところである。


「しかしあの作戦で本当にいいのですか?」


 今回の副隊長である真之介は、隊長である剣八がたてた作戦に不安を感じているのである。


「大丈夫だろう。いつも俺たちが山賊討伐でしている作戦だからな」


「いつもこんな作戦を?道理で上野の山賊退治における被害が毎回少ないわけですね。剣八殿が上野に異動してから以前よりも山賊退治における兵士の被害がたくさん減ったのは知っていたいましたが、それにはこういうからくりがあったわけですか」


 上野の兵士の質はそこまで高いわけではない。決して低いとは言わないが、それでもお世辞にも高いとは言えない。質がそこまで高くない兵であり、なおかつその数は少ない。いくら山賊討伐という任務があっても、だからと言って上野を完全に空けることができない。もしものときのためにちゃんと警備を置く必要があるのだ。そうなってくると、上野の兵士の数では必然的に二十人くらいしか出せない。今回は京四郎の兵士たちが加わっているおかげで三十人だが、だとしても普通なら山賊退治は一苦労だ。当然犠牲だって多く出る。


 しかしここ上野に限っては、本来出るはずの犠牲と比べて実際の犠牲が驚くほど少ない。その理由は剣八が先頭でガンガン突き進むからだ。


 剣八はまるで竜巻のように敵を蹂躙して進む。後ろからついてくる兵士たちの役目は、その竜巻にあわなかったものか当たり所が良くて何とか生き残った者たちくらいである。剣八は敵の親玉を優先して狙いに行くので、その竜巻から運よく逃れることができる者はたくさんいる。しかし、剣八の脅威をまじかで見た山賊たちの士気は当然低い。ただでさえ練度の低い山賊が、その士気まで低下したらさすがに兵士たちには勝てない。おまけに兵士たちは剣八の奮闘を見て士気が上がっている。これで山賊が勝てるほうがおかしい。


 そして当然のごとく剣八も親玉を仕留めることに成功する。そうやっているから、剣八さえ負けなければ兵士たちの被害は少なくなるのだ。裏を返せば剣八がいなければやばいということでもあるが、それでも彼がいる限るは安泰である。


「まあそういうわけだ。残しておく兵士たちの指揮は任せるぞ。俺は先に行くからな」

 

 剣八は自分の得意な大剣二つの二刀流で先頭向かう。普通なら大剣を二つも同時に持つなんてできないし、ましてやそれをもって二刀流で戦うなんてできない。しかし、剣八はその大剣を二つ同時に操ることができる。普通の剣よりも重たくて大きい大剣で問題なく二刀流ができるのは、まさに剣八の驚異的な筋力によるものだろう。


「ちょっと待った。今回それは認められていません。今回あなたは後方で待機しておいてください」


 真之介が剣八を呼び止める。


「どうしてだ?いつもこうしているし、この方が犠牲が少なくていいだろ?」


 剣八は自分の作戦が通らなかったことに不思議そうな顔をする。


「確かにその方法だと兵士たちの犠牲は少なくなります。しかし、それだと上野の兵士たちは強くならないのではないでしょうか?確かに生身の相手との戦闘を経験することはできますが、相手はあなたという存在により完全に士気が下がっている相手です。そんな相手ばかりならいいですが、もし剣八殿と互角の敵が現れた場合には、上野の兵士たちはちゃんと戦えるでしょうか?あなたという武力に頼ってばかりでは強くなれませんし、もしそれと互角以上の相手が現れれば動揺して力が出せなくなる可能性もあります。なので、今回剣八殿は自分と一緒に後ろから指示を出したりする方にいてもらいます」


 今の上野の軍は剣八の武力を中心に組織されている。それは決して悪いことではないが、それだともし剣八が通用しない、もしくは病気などで戦に出れないとなった時に困ってしまう。なので、真之介は剣八があまり活躍しない場合でもちゃんと上野の兵士たちが機能するようにしたいのだ。そうすれば剣八に何かあった時も対応できる。確かに剣八中心のほうが強いが、真之介はそうでない場合の訓練もしておきたかったのだ。


「確かにそれは一理ある。俺をもしもの時のために控えさせては置くが、基本的には俺以外の者たちでやることでいい経験になるということだろう?それはいい。だが、それは今じゃないとだめか?」


 剣八も真之介の言いたいことはわかるし、自分でもいつか何とかしようと思っていた。しかし、それをするべきなのは今じゃないと考えていたのだ。


「なぜ今回はだめなのですか?」


「今回の山賊たちはいつもよりも数が多い。お前の言うことはもっともだが、それをするならもう少し規模の小さい山賊団でしないか?さすがに五十人もの山賊団相手にいつもと違う方法はとりたくない。曲がりなりにも今までの方法が今のところ一番強いのだからな。やるにしても自分たちよりも数が少ない山賊団との戦いでいいだろう。今回はさすがに五十人相手だからな。今一番効果的な方法で攻めようじゃないか。それになんだか嫌な予感もするしな」


「それもそうですね……しかし、それならそれで別の方法を提案します」


「別の方法?」


「はい、それは……」


「てっ、敵襲!敵襲だー!」


 討伐隊はまだ山に入っておらず、あくまで平地で作戦会議をしている段階だ。ここで敵襲が来るということは、山賊たちと平地で戦うということになる。


「敵襲だと!山賊が平地で、しかも真正面から攻めてくるだと!?」


 普通山賊が平地で真っ正面から仕掛けてくることは無い。そもそも山賊が山を降りるのは商人などの獲物を狙うためであり、基本的に平地にいることは無い。それに獲物を狙うときだって不意打ちするのが当然だ。それなのに討伐隊に真正面から向かってくるなんて普通あり得ない。

 山賊だってどうせ戦うなら平野より自分たちのホームである山にするはずである。自分たちが普段から住んでいる山のほうが討伐隊よりも地の利がある。実際討伐隊は普段から平野にいる。大和平野では確実に山でのほうが戦いにくいはずである。

 

 また、平野で戦うとなるとちゃんと指揮をしないといけない。もちろん山でも指揮をした方がいいのだが、山にいるときは木や川などの障害があるし、敵に襲撃を受ける側なのでいろいろなところに仲間を潜ませることができる。それに木が邪魔で陣形を組むことなどが難しく、それに加えて山は平野に比べれば視界もよくないので、兵士たち同士の連携が取りずらい。


 もしも討伐隊が今日から攻めようとしていることを知っているのだとすれば、山賊たちの判断はもっと不可解である。敵が攻めてくるのが分かっているなら、木や岩なりに隠れて不意を突いて矢を放つなりすればいい。まず敵に気づかれにくいように少数を配置する。奇襲が上手くいけばよし、上手くいかなくても数人くらいなら構わない。もしも無傷で突破されても結局本拠地にいる数で上回れるからだ。


 つまり山賊が山で戦うと、地の利がある上に敵の強みを一つ消すことができるのだ。それに、兵士たちは山を登って攻めてくるのだから当然それは坂になっている。傾斜のあるところで戦うときには、上にいるよりも下にいるほうが断然不利なのだ。そのほかにもたくさんの利点があり、もし敵が攻めてくることを知っているなら当然平野より山で迎え撃つほうが勝算がある。真之介と数名の聡明な兵士たちは、このタイミングでの敵襲と聞いて疑問を浮かべたのである。


「ちょっと待て!それはどこの敵襲だ!?」


 真之介は急に慌てた顔になる。襲撃してきたのが山賊でなかったらもっと厄介なことになるかも知れないからだ。


「どこと言われましても…このタイミングで来たということは山賊たちではないのですか?」


「本当にそうだったのか?しっかりと確認しろ。もしかしたら山賊どもとは違う可能性がある。そう思ってもう一回見てみるのだ」


 真之介にそう言われ、その兵士はもう一度、だんだん近づいてきている敵軍の様子を見に行く。


「どうした真之介?そんなに慌てし腐った顔をして。もしかして山賊退治が初めてとかか?」


「初めてではないし、そもそもそうだったならもう少し早くからこうなっていますよ。俺が気になっているのはそれが本当に山賊なのかです。もしかしたら敵国の可能性もありますから」


 討伐隊に向かってくる心当たりと言われれば敵国か山賊である。今来ているのが山賊ならばいい。しかしそうでないとしたら…真之介は自分と討伐隊の手には負えないかもしれないと思った。今は戦国乱世、いつ自分たちのいる場所が他国に襲われてもおかしくない。それに敵の行動が山賊らしくないことに真之介は疑問を抱いていたのだ。もしかしたら他国かもしれないと思うのも無理はない。


「それだと困るな。外交とかが絡んでくると思いっきり暴れられん」


「そういう問題じゃないでしょうに……」


 真之介は脳筋発言をする剣八を呆れた目で見ながら、どうか敵軍が目的の山賊でありますようにと祈った。



 





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