閑話 兵士たちの一日
今日は上野の兵士たちの一日を紹介する。
「全員準備はできたようだな。それじゃあ早朝訓練を始めるぜ。今日は一対一で勝負してもらう。自分と同等くらいだと思うメンバーを見つけて勝負するんだ。武器は剣や槍などの近接武器を使うことする。弓などの遠距離武器を使う奴も今回は近接戦闘でやってもらう。後、今日のメンバーは俺を抜いたら奇数になる。余った奴は俺との一対一になるからな」
剣八がそういった瞬間、そこにいる兵士たちが全速力でペアを作っていく。そこには上野の兵士も京四郎の兵士もない。京四郎の兵士たちも、この二ヶ月で剣八の恐ろしさは嫌というほど思い知ったのだ。確かに自分よりも強い人との訓練は練習になる。しかし、剣八と訓練をすれば必ずと言っていいほどボロボロにされるので皆嫌がるのだ。しかも剣八は相手をボロボロにはするが決して骨折などの休みが必要になるようなけがはさせない。そのため、剣八と戦った者はめちゃくちゃ疲れた体でその日の任務をこなさなければならないのである。
そして、その日剣八の生贄になってしまったのは一人の弓使いである。彼では近接戦闘ではどう頑張っても剣八には及ばない。それどころか、他の近接戦闘の使い手にも簡単にやられるのが落ちだろう。
「今日はお前か?」
剣八は落胆した様子である。彼は戦いが好きだが弱い者いじめは好きではない。これは訓練なのでいじめではないが、それでも自分よりも弱すぎる相手とは戦いたくなかった。ここにいる兵士たちは全員一対一では自分より弱いとはいえ、せめて普段から近接武器を使っている兵士と戦いたかったのだ。
「はい。今日の弓兵は奇数だったので」
こういう時、基本的に弓兵は弓兵同士で戦う。弓兵は普段から弓の練習ばかりしているのである。近接戦闘で弓兵以外の兵士に勝てる弓兵は一握りしかいない。なのでこういった互角の状態での一対一の時は、近接戦闘でも弓兵以外と互角にやれる一握りを除いては、全員が弓兵同士で組むのである。今日は残念ながらその弓兵がいなかったので、彼が余ってしまったのである。
「しかしそれだとやりがいがないな」
「自分が隊長とやっても力の差がありすぎて、自分はともかく隊長にとっては得るものが全くないと考えます」
この弓兵だって剣八と戦いたくはない。ましてや自分の苦手な近接戦闘で近接戦闘が得意かつ上野最強の剣八とだ。彼は自分が余ってしまったと気づいたときはものすごく絶望したものである。今からでも何とかしてこの戦いを避けられないか考えているところだ。剣八は普段は気のいい兄ちゃんだし、年下から同世代、それに年上の兵士たちも尊敬されているのだが、こと戦闘となると恐ろしいのである。その戦闘力が味方であるのは頼もしい限りだが、訓練とはいえそれが敵に回った瞬間は、訓練だから殺されないとはわかってはいても恐ろしいのである。
「それもそうだな。まったく…格上と戦って強くなろうという気骨のある奴はここにはいないのか。俺が兵士になりたての頃はとにかく強い先輩たちとやりあっていたというのに」
剣八は残念そうな顔をする。しかし、剣八と彼らとではまた事情が違う。剣八は確かに兵士になりたてのころから強い人たちと進んで戦っていたが、彼は天性の才能とセンス、そして頑丈な体を持っていた。剣八は兵士になりたてのころからその才能を遺憾なく発揮し、最初から格上相手でも勝負にはなっていた。しかもこの国には彼より才能がある兵士はおらず、兵士になってわずか三年でこの国最強と呼ばれるまでになった。わずか三年でこの国最強になっていまだに成長中の剣八と、彼に才能で負けている上に経験も浅い若手、もしくは彼に抜かれてからもう数年と経っている上に才能でも負けていてどんどん差がついているベテランが勝てるわけがないのだ。
いつか勝てると思って挑んでいた剣八と、絶対勝てんわと思って戦いを挑むしかない者ではモチベーションが違う。しかも訓練は訓練だがほぼ確実にボコボコにされるのだ。なかなか戦う気が出ないのもわかる。
「そういえば弓兵は今何人いる?」
「弓兵ですか?今参加している弓兵は五人です」
「五人か…よしわかった。ならその五人対俺だ。五対一ならまだ勝負になるだろう」
剣八のその言葉を聞いた瞬間、残り四人の弓兵たちが一斉に青ざめた顔をした。
「「「「いや我々は」」」」
「よし来い!五対一で勝負するぞ!!」
この後五対一で勝負した弓兵たちはボロボロにやられ、早朝訓練後の朝食時にはかすかに血の味がしたという。




