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元服

「汝、如月京四郎は今日をもって元服とし、これよりは我が如月家に連なる男子としてより一層の頑張りと、それによる如月家の繁栄を願うものとする」


 とある一室で、何人もの大人たちが真剣な表情で集まっている。


「はっ!わたくし如月京志郎は、如月家のためより一層研鑽を積んでいくことを誓います」


 その部屋の中央にいる少年が、部屋の中で一番豪華の服を着ている男に跪いて誓いを立てる。その様子に、周りの大人たちは満足そうにうなずく。


「うむ。それではこれをもって元服の議を終わりとする。京四郎も緊張したであろう。一度部屋に戻って休むといい。後でお前の元服を祝う晩餐会があるので、それにはちゃんと準備して参加するように」


「わかりました父上」


 そう言って少年はその部屋から出ていった。





「プハー、めちゃくちゃ息が詰まるよ。あんな儀式なんてどうせ形式上のものなんだから、もっと適当にやってしまえばいいのに」


 少年が部屋でくつろぐ姿は、さっきの緊張感のある姿とは全く別物である。


「そうはいきません。あなた様はここら一帯を治めている如月家の男子なのですから。王家の威厳のためにも正式な元服の議を行わなければなりません」


 京四郎よりも少し年上であろう少年が京四郎をたしなめる。小次郎は京四郎よりも三歳上の十五歳(元服の儀は十三歳になる年の決まった日にするので、京四郎はまだ正確には十二歳なのだ)である。小次郎の父親は国王である京四郎の父親の家臣の武士であり、京四郎と小次郎は年が近いこともあって幼いころから一緒に過ごしてきた。


 現在の小次郎はあくまで京四郎の家臣という立場ではあるが、二人は兄弟のように育ってきたので、京四郎は小次郎に対してはいろいろと本音をぶちまけることができるのである。


「小次郎は固すぎるよ。ここら一帯を治めていると言えば聞こえはいいかもしれないけど、うちが治めている領地なんて如月と上野の二つしかないんだから。人口だって二つ合わせても五千人くらいしかいないんだ。ここら一帯なんてそんな大層なもんじゃないよ。

 そもそも、十三で元服なんて伝統を守っている方がどうかしてるよ。昔はいろんなところでそういう伝統が守られていたらしいけど、今時十三で元服するところなんてここら辺じゃうちだけだよ。他は大体十八で元服、というか元服っていう言葉すら古いもんね。今はやりなのは十八で成人だよ」


「一万に届いていなくとも立派な領地ではないですか。それに、十三で元服というのはこの国の法律ですからしょうがないでしょう。私だって三年前に元服させられたのですから」


 彼らの住んでいるところは、代々如月家の治めている国である。この国の国力は非常に小さい。どれくらい小さいかと言うと、隣国の十分の一以下でしかない。これまで他国に従属したり同盟を組んだりなどして蝙蝠のように行動することで生き残ってきた国だ。この国の法律では十三で元服、つまり大人の仲間入りとされるので、京四郎は十三になる年の元服の日である今日、元服をして大人の仲間入りを果たしたのだ。

 

 昔はどこの国も十三で元服だったのだが、今は十三はまだ子供という認識が一般的で、ほとんどの国は十八から大人という認識だし、実際にそういう法律をとっている。


「そもそも何でいまだに国のままなんだか。とっととどこか国の大名にでもなればいいのに。うちの国力なら上手くいけば弱小だろうが大名くらいにはなれるんじゃないか?最悪でも武士ぐらいにはしてくれるだろう」


「そうしたらおそらく領地は一つになるでしょうけどね。小さいほうのもう一つの領地はとられるんじゃないですか?さすがに上野ではなく如月をとられることは無いでしょう。まあ、武士にされるなら話は別ですが、さすがにそこまでの冷遇はされないでしょう」


「それでもしょうがないだろう。それこそ越全国あたりにでも従属すればいいんじゃないか?向こうだって労せず戦力が増えるんだから文句はないだろう」


 京四郎は、人口千人くらいしかいない領地を渡して越全国の大名になれるのならばそれも悪くないと考える。それどころか、自国よりも国力がかなり上の越全国に守ってもらえるというのはとても心強く思えていた。


「それは無理かと。今の国王様は越前国ではなく薩摩国の大名の娘を正妻にしております。薩摩国の大名と結んでいる状態で越前国の大名になるのは難しいでしょう。二国は隣国で、争うことも少なくないライバル国でもありますから。ほぼ毎年のように小競り合いはありますしね」


 今の国王、つまり京四郎たちの父親は薩摩国の有力大名の娘と結婚している。そしてそこと同盟を結んでいるので、如月が簡単に越全国の支配下に入るわけにもいかないのだ。


「そもそもそれが舐められてるよな。俺たちが同盟を組んでいるのはあくまで大名であって薩摩国じゃないんだもんな」


 そう、彼らが同盟を組んでいるのはあくまで大名なのだ。つまり、何かあっても薩摩国本国の支援を受けられるわけではないのだ。何かあっても簡単に切り捨てられるだろう。


「それもしょうがないかと。薩摩国の総人口は十万人、我らとは歴然とした差があります。我々と結んでいる大名領だって人口だけならうちよりも多いですからね」


「その薩摩国ですら世間一般では小国扱いだもんな……まったく、うちの先祖はどうしてそんなに国でいることにこだわっているんだか。どう頑張っても周辺国に一息でつぶされるのが落ちだろう」


 薩摩国は小国である。それなのにうちはその小国の二十分の一くらいしか人口がいない上に、国土面積だって十分の一以下しかない。この国がそこいらの小国にすら簡単にひねられるであろうことは周知の事実である。この国が今まで滅ぼされなかったのは、弱いから無視されているということもあるのだ。もっと強かったら他国にもっと干渉されるだろうし、弱すぎればもっと圧力をかけられる。まさに絶妙の弱さである。


 そうは言っても、やはりこんな小国を支配下に置くことは難しくない。しかし、そうすれば隣国も黙っていない。かといってこの国は自ら他国に完全に組み込まれないのである。ここはそういった微妙なバランスから国として成り立っているのである。


「よいでないですか。それに、国王という響きは悪くないのではないですか?」


「そりゃ響きはな。ただ、あくまでお山の大将止まりだろう。むしろ薩摩国や越全国の大名のほうが裕福なんじゃないか?」


「まあまあ、愚痴を言っても何も始まりませんよ。というか、お山の大将というのはギャグですか?」


 この国は山を背にしている。山を背にしているから攻められにくいというのも生き残っている理由の一つだ。その山が鉱山などの有益な山なら狙われただろうが、その山は何の変哲もないどこにでもあるようなただの山だ。山の恵みがあるとはいっても、誰もその山を特別欲しいとは思わないのである。


「愚痴を言わなくても始まらなそうなんだが……「京四郎様、そろそろ晩餐会の時間です」ああ、今行く」


 部屋に女中が呼びに来た。これから京四郎の元服を祝う晩餐会が始まるようである。


「せめておいしいものがたくさん出ますように」


 京四郎が晩餐会の会場に向かう。晩餐会の参加者の一人である小次郎も京四郎の後を追った。











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