死にまくったおかげで、若干成長したそうです
━━色々あって、なぜかオークの群れと対峙しています。
「……テメェが『死の踊り手』か?」
俺を鬼の形相で睨みつけながら、1匹のオークが尋ねる。
腹の底によく響くその声を聞くと、今すぐここから逃げ出したくなってしまう。
無限コンティニューができると言っても、文字通り、死ぬほど痛いのだ。
「え、えぇと……人違いで━━」
そう言って誤魔化そうとした瞬間、俺の口が制御を失い、口腔を軽く噛み付ける。
その瞬間、鈍い痛みと共に視界が暗くなり……
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……あぁ、そうだ。
さっき言った色々について、順を追って説明する必要があるな。
それじゃ、まずはチロルとの最初の作戦会議について説明しないと。
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「いいか? 耳の穴かっぽじってよく聞けよぅ、タナカ。
タナカが異世界で安全に生きていくためには、たった1つのことを徹底すればいいんだよぅ!」
相変わらず可愛らしい顔で、チンピラのような暴言を吐く少女、チロル。
俺の専属サポーターと自称するこの少女。
口は悪いものの、職務には忠実なようだ。
なんてことない動作をするだけでコンティニューという苦行。
一般人の100倍以上の生きづらさを抱える俺に、アドバイスをしてくれるらしい。
……いや、サポーターなんだから当然と言えば当然なんだけどさ。
「……ごほん。一度しか言わないからよく聞けよぅ?」
咳払いまでして、何をもったいぶってるんだか。
「『当たらなければ、どうということはない』」
「……どうして某アニメの名言を知ってるわけ?」
俺の問いに、チロルは答えようとしない。
そっぽを向きながらも、頬は真っ赤になっており、意外と繊細な一面を思わせ━━
じゃなくて!
「あたるとか、あたらないとかそういう問題じゃねぇから!
日常生活を送るくらい、慎重に動けばなんとかなるだろ?」
「甘いっ!甘いんだよぅ、タナカ!
風が吹いたらタナカは死ぬんだよぅ!」
「 厚着すりゃあ良いだろ!もしくは……ひ、引きこもる、とか……」
「ダメ、ダメっ、ダメだよぅ!
タナカは『風の精霊の加護』を受けるべきなんだよぅ! ってか、受けろよぅ!」
駄々をこねる子どものような雰囲気で滅茶苦茶なことを言い出すチロル。
前言撤回。職務に忠実かは、かなり怪しい。
こいつは、本当に俺をサポートする気があるのか?
「……いや、そんなもん受けられるわけねぇだろ。
日常生活を送るだけでも、必死だってのに」
「大丈夫だよぅ!
すっごく簡単だから、チロルの指示に従ってみろよぅ!」
そんな滅茶苦茶な会話をしていると思ったら、急に視界が明るくなって━━
……はい、やって来ました!
俺が背伸びをして死んだ場所です。有無を言わせぬリスポーン!
いかにもファンタジーな空間。
━━つまり、エルフだの、ドワーフだのがそこら中にいる街中。
そんな場所に、俺は再び立っている。
子供の頃、ゲームで夢中になった光景がそこに広がってるんだ!
気分が良くなり、肩でも回したくなるが、死にたくないのでやめておく。
そう言えば、さっきチロルは「指示に従え」って言ってたけど……。
あいつの姿が見えないな。脳内に声が聞こえるわけでもないし。
あいつ、どうやって指示を出すつもりなんだ?
キョロキョロと辺りを見渡し、チロルの姿がないか確認していると……。
「タ、ナ、カ」
……なんだアレ?
立て札が引っ掻かれていき、文字がゆっくりと現れて……
「危ない!、建物、へ」
なんだよ、その雑な指示!
そう思った瞬間、やや強めの風が吹き、俺の視界は再び真っ暗になった。
絶対文句言ってやる……。
次に会うときは、絶対に文句を言ってやるからな!
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コミュニケーションがうまく取れず、コンティニューを繰り返すこと2000回……。
気がつくと俺は、大まかな風の流れを察知する能力を身につけていた。
どうやら、過酷な環境が俺を成長させたらしい。
そしてそれは、チロルにとっても同じことだった。
念力によって木々を引っ掻くことで、俺に指示を与えようと奮闘していたチロルは……。
気がつくと、念力による脳内への語りかけをマスターしていた。
━━こうして、俺たち2人による、死にゲー的な冒険が始まったのだ。