7 愚直な剣
(1)
練りに練った
計画どおり
宿願の
自決をしようと
軍人が
銃 目の前に
軍服に
身を包んでる
最中に
約束が違う
銃をよこせと
邪魔をしに来る
不届きな奴
「今すぐ出ていけ
さもなきゃ撃つ」と
胸倉つかんで
銃突きつけりゃ
「じゃあ今撃て」と
居直る阿呆
「盲いて以来
暗闇しかない
この俺に
この先
死ぬまで
何ができる?」
問うというより
当たり散らして
頃や良し
「死にたくなければ
今すぐ失せろ」と
最後通牒
突きつけりゃ
「ほんとは
貴方も
死にたくないはず」
あえぎあえぎ
それでも楯つく
小癪な小僧
その声に
ふと
思わず知らず
体じゅうの
力が抜けた
いつからか
つめてた息を
思わず知らず
大きく吐いた
「俺が生きてく
価値って何だ?
どうやって
生きていきゃいい?」
もう
脅すでもなく
すごむでもなく
半ばは
独り言だった
「タンゴの
リードは
天下一品!
間違えたって
足ぐらい
絡まったって
とにかく
踊りつづけてよ!」
涙声で
指南しおった
チャーリー
おまえは
指1本
触れもしないで
物の見事に
軍人の銃を
取り上げた
(2)
---友を売って
己を守るか
己を捨てて
友を守るか---
旅の道中
おまえはずっと
悩んでた
重苦しい
電話のやりとり
隠せど漏れる
深いため息
そばで
あれだけ
聞かされりゃ
眉間の皺や
青白い顔
見えない俺でも
手に取れた
「誰だって
我が身が可愛い
どうせ相棒は
吐いちまう
このままじゃ
おまえひとりが
犬死だ
くよくよ悩むな
吐いちまえ」
信義や友情
はたまた
実利や
自己防衛
人生の岐路に
思案投げ首
その憔悴を
見るに見かねて
俺は
さんざん
入れ知恵したが
おまえは
とうとう
聞く耳持たず
人の
死に路を
あれほど
しつこく
邪魔立てしといて
当の自分は
刑場に
死刑覚悟で
戻っていった
(3)
たとえ一時
曲がってでも
とにかく命を
長らえんとする
計算高い
剣があふれる
この世の中で
曲がって
我が身を
保たんよりは
折れるを覚悟で
真っすぐを
貫かんとする
愚直な剣
それが
おまえだ
軍人として
中佐とまで
呼ばれながら
人生の岐路で
信念の剣を
抜く勇気など
ついぞなかった
臆病者には
潔い
おまえが眩しく
羨ましい
見て見ぬふりは
どうにもできん
汲んでやるべき
情状あふれる
孤高の被告の
後ろ盾
僭越ながら
この老いぼれが
引き受けてやる
口の悪い
いや
弁の立つ
父親代理だ
うってつけだろ?
チャーリー
ふて腐れた
この盲人を
死の淵で
踏みとどまらせた
若造よ
斜に構えた
この廃人を
叱った小僧よ
聞こえるか?
あの
万雷の
拍手と歓声
満場の
聴衆が
おまえを
無罪と
裁いとる
…………………
フルール・ド・ロカイユ
チャーリー
おまえに
出逢ったおかげで
生き永らえて
この香に
出逢えた
<完>
最後までお付き合いいただき、本当に有難うございました。 懐拳