6 フェラーリ
視力もないのに
ハンドル握って
徐行の蛇行で
ふらふらと
路肩の車に
吸い寄せられてく
貴方の運転
11万ドルの
試乗車を
傷モノに
してなるものかと
ハンドルを
たまらず支えた
助手席の僕
フェラーリなんか
借りた挙句に
狂気の沙汰とは
このことだけど
やおら貴方は
制止も聞かず
ギア上げて
アクセル踏んで
ごみ溜めの
コンテナかわして
声張り上げた
「真っすぐなんて
退屈千万!
右か?左か?
曲がってみるから
教えろチャーリー!
ハンドルを
いつ切ればいい?」
拒否権なんか
あるはずもない
命令に
2度ばかり
死に物狂いの
絶叫ナビが
奏功して
昼下がりの
ブルックリンで
命知らずの
カーレース
運転手は
得意満面
ご機嫌だった
でも中佐
誰かさんの
急ハンドルに
なす術もなく
振り回されて
助手席の
背もたれに
へばりついてた
僕が言うのも
何だけど
中佐
貴方が
あのとき出した
気違い沙汰の
あのスピード
本当に
爽快だった?
気が晴れた?
息も絶え絶え
顔ひきつった
僕が横目で
見てた限りじゃ
あの雄叫びも
してやったりの
高笑いも
やぶれかぶれの
刹那の快感
生きるのに
疲れた果ての
虚仮脅し
そんなふうにしか
見えなくて
天国行きと
背中合わせの
耐久レースに
へたばりながら
誰かさんの
浮かれようが
切なくて
胸疼いてた
どこからともなく
現れて
ピタリと後ろに
せっついて来た
パトカーの
サイレンの音
もし
あの音が
聞こえなかったら
中佐
貴方は
あのまま僕を
道連れに
或いは
やけのヤンパチで
あの世に向かって
アクセル踏んだ?