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5/7

5 タンゴ


(1)


鼻腔に感じた

人の気配を

尋ねたら


おまえは一言

「女性です」と


「独りのようだ」

「髪は茶色」と


年頃までは

言い淀んだが


おまえの声音の

上ずりようで

若い娘と

語るに落ちた


オグルビーの

石鹸だ


まちがいない

淡い清楚な

あの香り


香りの主は

きっと美人で

気立ても良い


チャーリー

おまえに

よくお似合いだ


俺の勘だが

保証する



(2)



ドナと言ったか

あの娘御は


にこやかに

相席を許し


礼儀正しく

受け答えをし


掛け合いもどきの

我らの口調に

声立てて

思わず笑った


上品で

物柔らかな

声だった


楽団の音が

聞こえたついでに

興が湧いて

タンゴに誘えば


頼もしいかな

脈はあるのに

惜しむらくは

尻込みしとる


「間違えるのが怖い」

と言って

気後れしとる


初々しくて

微笑ましいこと

この上ないと

言いたいが


待てよ

もう1人

近くにいたぞ

そんな輩が


チャーリー

おまえだ


ドナは

タンゴに


そして

おまえは

人付き合いの

とばっちりに


若いのにと

言うべきか

若いがゆえにと

言うべきか


揃いもそろって

怖気づいとる


いずれ

ピエロか

キューピッドか


一座の興に

この老いぼれが

率先垂範


Por una Cabeza?


旋律の明暗が

この世の禍福は

儘ならんものと

謳っとる


甘酸っぱくて

ほろ苦い


良い曲だ


さあドナ

踊ろう


---人生みたいに

ややこしくはない

タンゴは

いたって

単純なんだ


間違えたって

どうってことない


いやむしろ

間違えていい


足が絡んで

つんのめっていい


とにかく

踊りつづけりゃいい

それがタンゴさ---



(3)



彼女のことは

見てただろ?


ホールドこそ

おずおずと

怖がってたが


終わるころには

足の運びも

楽しげに

自分の意志で

ついてきた


その意気だ


その意気で

チャーリーと

踊ってみないか?


声にこそ

出さなかったが

年寄りの

嘘偽りない

激励だった


ところで

チャーリー


少しは俺も

見ててくれたか?


組んで歩こうが

8の字描こうが

回そうが

のけ反らせようが

勝手だが


左手は

何があっても

放すんじゃない


抱擁が

深いときなら

気づかんだろうが


体と体が

離れた日にゃ

2人の手と手は

唯一の糸

次に引き合う

よすがになるんだ


その手と手だけを

頼りにな


だから

放すな

左手だけは


君と踊れて

うれしいと

ついておいでと

手で語るんだ


乙なもんだろ?


そう考えりゃ

人生だって


タンゴと

大して

違いはないかも

しれんがな



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