3 盲導犬
(1)
10時と教えた
最終便で
今日じゅうに
寮に戻ると
頑なに
言い張るおまえに
ありゃ嘘だ
最終便は
実は9時でな
もう間に合わんと
明かしたときも
これから始まる
仰天ツアーの
中味をポロリと
漏らしたときも
チャーリー
おまえの
うろたえようは
いずれ劣らず
傑作だった
一流ホテル
高級料理
上等のワイン
兄貴の訪問
一夜の情事
ひとつ残らず
堪能してから
未練なく
この世と
おさらば
ホテルのベッドで
こめかみに銃を
ぶっ放す
出発前から
目論んでた
このツアーには
よくできた
盲導犬が
必要だから
飛行機の
便がないなら
泊まって行け
手伝ってくれと
腹割って
頼んでるのに
おまえときたら
驚天動地
しどろもどろで
取り付く島なし
鹿肉も
仔牛のグリルも
わざわざ勧めた
名物のパンも
喉には全く
通らんと見えて
せっかくの
フルコース
食わしてやった
甲斐もなかった
(2)
見ず知らずの
おまえが一緒じゃ
迷惑だろうって?
構うもんか
兄貴は俺が
行くのも知らん
そう丸め込んで
連れてった
感謝祭の日に
アポもなく
土産も持たず
リムジンで
兄貴の家に
入った途端
感じたろう?
見るからに
総スカンだと
兄貴 兄嫁
甥っ子 その嫁
とんと無沙汰の
弟も
誰一人
ニコリともせん
俺は全く
招かれざる客
まあ聞け
これには
訳がある
昔から
訪ねるたびに
女どもの
香りをおちょくり
甥っ子の
仕事を皮肉り
老けた兄貴を
あてこすり
テーブルに
ついたらついたで
楽しい会話も
あらばこそ
ウィット
ユーモア
散りばめて
俺が延々
猥談語る
女どもは
黙りこくるし
男どもは
ニヤリと笑う
目など見えんが
部屋の空気は
俺には判る
手に取るようだ
座が白けたのを
見計らっては
「誰もいない?」と
声かけるのも
また一興
その場しのぎに
しぶしぶ誰かが
取り繕う
これまた笑える
年に1度の
憂さ晴らしだった
昔から
うだつの上がらん
郷里の身内を
突然訪ねて
困らせるのが
おまけに今度は
生涯最後に
なるはずと来りゃ
感慨だって
ひとしおだ
とはいえ
長居は
無粋の極致
引き上げようかと
思った矢先
生意気な
甥っ子の奴
積年の恨み
とうとう腹に
据え兼ねたか
俺の昔の
不行状やら
自業自得で
盲いた理由を
洗いざらい
ぶちまけた
だけならまだしも
返す刀で
あてつけがましく
おまえに向かって
「チャッキー」と
俺の大事な
連れに向かって
「チャッキー」などと
1度目は
それでも静かに
警告したんだ
素直に
言うこと
聞いてりゃいいのに
それを
2度までも
「ふざけるな!
こいつの名前は
チャールズだ!」
言うが早いか
甥っ子の首
締め上げてた
ついでに顎も
砕きかけてた
軍隊で
鍛えた腕だ
この歳とは言え
ヤワな男の
1人や2人
ぶちのめすくらい
造作ない
「やめてください
お願い」と
何度も何度も
繰り返す
おまえの声で
我に返った
恥かかされた
おまえの代わりに
少々仇を
打つはずが
凶暴な
野犬さながら
晒した本性
いい歳して
小僧のおまえに
なだめられるほど
自制も効かない
血の気の多さ
身内じゅうから
総スカンなのも
腑に落ちるだろ?
奴らにじゃなく
チャーリー
おまえに
少々バツが
悪かった