2 NYへ
(1)
中佐
貴方は
口は悪いし
居丈高だし
人並みはずれて
ぶしつけ
無作法
ぶっきらぼう
人の神経
事あるごとに逆撫る
しかも全てが
確信犯だ
タチ悪すぎる
バイト志願の
学生に
「入れバカ者!
顔見せろ!」
こっちが黙れば
「死んじまったか?」
おっかなびっくり
一言返せば
待ってたように
「脳みそあるのか?」
間違いひとつ
正そうものなら
「へ理屈不要!
このクソがきめ!」
アルバイトなんか
こっちから
御免被る
はずだったのに
姪御さんの
たっての頼みで
しぶしぶ向かった
仕事の初日
「スーツケースに
軍服詰めろ
飛行機は4時
タクシーが来る」
抗う間もなく
問答無用の
NY行き
その付き添い
何から何まで
貴方のペースで
気が抜けない
質問できない
拒否もできない
ないない尽くしの
珍道中の
始まりだった
(2)
飛行機の
ファーストクラスは
もちろん
生まれて
初めてだったし
贅沢すぎて
落ち着かなかった
4~50分
でも一つだけ
鼻腔に残る
あの香りだけは
忘れない
イギリスのコロン
名は“ダフネ”
いや“フロリス”とか?
初対面の
スチュワーデスに
10年来の
情人よろしく
さらりと
“ダフネ”と
呼びかけた
中佐
貴方の
ドンファンぶり
どうして名前が
判るのかと
いぶかる僕に
---イギリス気取りで
コロンはフロリス
そのくせ喋れば
カリフォルニアの
訛り丸出し
自分のことを
垢抜けないとも
判っちゃいない
根っからの
田舎女は
まず間違いなく
“ダフネ”辺りの
名前なんだ---と
まことしやかに
教えてくれた
スチュワーデスと
コロンの名前
香りの主の
顔かたちなんか
これっぽっちも
覚えてないけど
上品で甘い
あの香り
“フロリス”よりも
“ダフネ”という名で
鼻腔が覚えた
あの香り
きっと一生
忘れない
(3)
ジャック・ダニエル
1杯そこらで
酔っぱらうほど
下戸じゃないはず
そう思いながら
聞いた講釈
フロリスの
残り香に酔う
中佐
貴方の
女性礼賛
女という
生き物
そのものへの賛美
その髪
唇
乳房
脚
脚の間に
至るまで
女性の
肢体を
微に入り
細にわたって愛でた
創造主でも
笑うだろうほど
貴方の賛辞は
真剣で
彫像の裸婦を
撫でながら
即興の詩でも
詠ずる如く
夢見心地で
崇め
讃えて
やめようとも
しなかった
周りの客にも
聞こえてるはず
隣の僕の
身にもなってと
顔の熱さが
気になったけど
不思議と
貴方の口ぶりに
卑猥や漁色の
嫌らしさはなく
それよりむしろ
語るも
野暮なる
女の妙味
興の向くまま
言葉にするなら
こうもなるかと
即詠即吟
そんな風情の
詩人に見えた
グラスは
いつしか
空になり
中佐
貴方の
世にも気儘な
官能の美学
自信に満ちた
その締めくくりは
---女こそ
この世の至高
遥かに劣るが
お次は
フェラーリ---
囃すも
茶化すも
手に負えないほど
突拍子もない
持論の結末
新米ホヤホヤの
付き添いは
打つ相槌を
みつけることさえ
諦めて
穴が開くほど
貴方の顔を
見つめてた