第四話 蒼太と冬子
放課後の図書室。
外で部活をしている生徒たちの声が聞こえる他は、本をめくる音以外は聞こえてこない。
彼女『北川冬子』は、特に用事がない時はいつも図書室へとやってきていた。この学校の図書室は広大で、ちょっとした市営の図書館くらいの規模だったため、蔵書量も他の学校に比べて多かった。
ぱらり、ぱらりとページが捲られていく。
「あ……」
そう小さな声をあげた理由は、自分と同じように頻繁にここを利用している生徒がやってきたのが見えたからだった。
「お前も来てたのか」
そう声をかけてきたのはクラスメイトの『近衛蒼太』だった。
別段お互い何か特別な感情があるわけではなかったが、図書室でよく見かけるクラスメイトということで軽い挨拶程度は交わすようになっていた。
「えぇ、近衛君も来たのね」
抑揚のない声色で彼に言葉を返す。
「あぁ、それじゃあな」
たったこれだけ、いつも一言二言しか交わさなかったが、同じ趣味の人間がクラスメイトにいるというのはお互いどこか心地よかった。
いつも二人は離れた席でそれぞれが気に入った本を読んでいる。
例えば、冬子は恋愛小説や偉人を取り上げた本。はたまた、○○語録といったような名言集など色々な本を読んでいる。
例えば、蒼太は冒険小説や推理小説などわくわくする物語を選ぶことが多かった。
それぞれの読む本のジャンルは被っていなかったが、ある日冬子は一つの案を思いついた。蒼太が読んだ本を追って読んでみよう、と。
ただの思い付きだったが、今まで手を出したことのないジャンルの本を読むのも悪くないと日頃から思っており、そのとっかかりとしてクラスメイトが気に入っている本から読んでみるというのも面白いと思ったためだった。
一つのシリーズにあたりをつけて、そこから読み始めてみる。元々本のジャンルに関して雑食系だった彼女は、抵抗なく物語に入り込むことができ、一気にそのシリーズを読破してしまう。
今日読んでいる本も以前に蒼太が借りたのを見かけた本であり、御多分に漏れずこの本も面白かった。
いつか彼と本の内容について語り合いたい。そんな気持ちを抱えつつも、いつも一緒にいる大輝以外の男子とのコミュニケーションの機会がほとんどのない彼女は口にすることができずにいた。だから……。
「お、それ読んでるのか。俺も読んだけど面白かったよ、その作者の続編もお勧めだからまだ読んでなかったら試してみろ」
そんな蒼太からの言葉にそっと微笑む冬子だった。
お読み頂きありがとうございます。
再召喚された勇者は一般人として生きていく? 出版一周年記念で上げてみましたー! 第四段!
とりあえず、これで終わりとなります。
異世界ではなく、地球にいたころの蒼太と勇者四人の話でしたが、
楽しんで頂けたら幸いです。
もし、反応が良いようであれば、
また短いショートストーリー企画を検討しようかと思います……。