裏切られた気持ち
翌日の夕暮れ時、町から離れた港のコンテナターミナルの中。1つの金属音が混じった足音が、先にいる四人の人影に向かって歩を進めていた。
ガシャンッ。
立ち止まった足音と見慣れぬ銀色に輝く鎧に、眼鏡の少年と、いかにも人相の悪そうな三人組は、その姿を見て、固唾を飲んで少しの動揺を見せる。
「雷神・・・・・・。本当に僕のために来てくれたんだ・・・・・・。」
自分とは一生関わることは無かったであろう存在。こともあろうか、全く逆の存在であるとも言えよう弱く、小さな存在自分を助けるためだけに来たことに、驚きながらも自分自身の中にある嫌な感情を思い、固く拳を握った。
「おいおい、マジで雷神だよ。こんな奴の為に来るとかとんだお人好しだなぁ、騙されたとも知れねぇでよぉ。」
真ん中の男が笑い出すと、周りのコンテナの陰からぞろぞろと多数の男達が現れた。
「ごめんなさい雷神。僕・・・・・・。」
「どうした雷神? ビビっちまって声も出ねーのか? 残念だったなぁ、助けに来た生徒が、実はお前を陥れようする裏切り者だったなんてよぉ!」
退路は絶たれ、逃げ場はなく、多くの男達が武器を手に、雷神を討ち取る合図を今か今かと待つに至る時より1日と少し前。
時間は部室での話し合いに遡る。
「脅迫ですか・・・・・・。」
顎に手を当て、少し目線を下げて考え込む翔を見て、女岸は話を続ける。
「はい、中学の時からなんですが、今でもお金をよこせと毎日電話がかかって来たり、歩いてると行く先で待ち伏せされたり。」
「よくある話っすね。でもここなんかより警察とかに届けた方が良さそうっすけどね。」
「あまりおおごとにしたくなくて・・・・・・。それに今の高校生同士の問題は、事件として取り扱ってくれることも少なくなってるって聞きますし。」
カタカタとパソコンのキーボードを打つラミは、静かに口を開いた。
「守護者制度が始まって、それに乗じて悪さする人、たくさんいる・・・・・・。」
「発見された鉱石、その力を使って悪事を働く上で、法の穴を突いて好き勝手に暴れてるわけですか。どうしようもないですね。」
「それでも、今回の相手は高校に上がったばかりで息巻いてるだけの連中でしょ? だったら、雷神さんはいらないんじゃないですかね?」
「でも、リーダーの葉形は強いんです。並大抵の人達じゃ歯が立たないかも知れません。」
「安心しろよ女岸、雷神は来るさ。雷神はな、困ってる生徒がいればどんな理由があれ、必ず現れて守ってくれる、そんな人だからさ。」
「そうですね、その通りです。」
「そうっすね!」
「うん。」
「あっありがとうございます。とても心強いです。」
「このことは俺が責任を持って雷神に伝えておくから安心しな。」
この言葉を最後に、女岸は部室を後にした。
そして現在に至ることとなる。
「しっかし、お前さんもつくづく運のない奴だな雷神。こんなクズの助けようとしたばかりにこんな目にあっちまってよ。」
本当にそうだよな。なんの関係も無い奴助けようとしてこんな目にあってるんだ、きっと怒ってるに決まってる・・・・・・。雷神だけじゃない・・・・・・。館田くんや、助けようとしてくれた警護部の皆さん全員を裏切ったんだ僕は・・・・・・。もう後戻りできない。
「そんなことねーよ・・・・・・。だって俺は、俺自身の意思でここに来たんだからな・・・・・・。」
「えっ?」
最初に会った時とは違う砕けた喋り方。それと、ここ最近で一番聞いたであろう親しみのある声に、女岸は耳を疑った。
「そんな・・・・・・、でも、なんで君が・・・・・・。」
カチャッ。
鎧の仮面を取り、露わになった顔を見て女岸は驚愕した。
「館田くん・・・・・・。」
「おうっ! 助けに来たぜ、依頼人殿。」
目を大きく見開いて驚きを隠せない女岸に向かって、館田はこの上ない笑顔で答えた。