いろんな人
「えー、それヤバくないっ?」
「そんなことないよ、普通っしょ。」
学校に在籍する生徒の過半数が利用する、学校最大の生徒の憩いの場となっている食堂は、食器が出す音や人の声で賑わっていた。
そこに一際大きな音を立てて食事をする男が一人。
「いや〜ホントに助かったわ、ありがとな、女岸。」
次々と料理を勢いよく平らげ、皿を積み上げていく様に、見ているこっちの食欲が失せる気がした。
「あのー、えっと・・・・・・。」
クラスメイトなのに名前がわからなくて、どう話したらいいのかわからない。
自分の名前を覚えてくれてる手前余計に聞きづらい。
「んっ? ああ、俺館田 浩也。よろしく。」
こちらの様子を見て、自分から簡単に自己紹介をすると、また目の前の料理に手をつけ始めた。
「ごめんね、隣の席なのに名前覚えてなくて・・・・・・。」
「別に気にしてないよ、入学してそんなに経ってないのに覚えてる方が珍しくね?」
「いや、昔から僕地味だし、クラスメイトから名前なかなか覚えてもらえなかったから、なんだか変な感じして。」
自分で話し始めて、いじめられていた中学時代を思い出して、なんだかもっと食欲が無くなった。
「どうした? もう食わねーの? なんか悩み事でもあんのか?」
「いや、なんでもないよ。はははっ・・・・・・。」
「別に遠慮することないんだぜ? こうして飯一緒に食ってるんだし、もう友達みたいなもんなんだから。」
「うっうん、ありがとう。でも本当になんでもないから・・・・・・。」
友達か・・・・・・。みんなそうだ、簡単に友達って言うけど、ちょっと嫌なことがあったりすると、すぐに離れていく・・・・・・。言葉だけの友達関係なんて、知り合いの関係と大差なんてほとんどないんだ。
そう、人なんて、自分で利益があるかないかでしか関係が保てないんだ。
おおおぉぉぉっ。
突然食堂で歓声が上がった。
「見ろっ、あの席。ウチの学校屈指の美女三人が一緒の席で食事してるぞ。」
男子生徒が見ている方に目をやると、多くの取り巻きに囲まれたテーブルに向かい合うように座っていた。
「わぁー本当だ、三人とも揃ってるんなんて珍しい。ねえ、館田くん。」
「おっおう、そう・・・・・・だな・・・・・・。」
どこかよそよそしい様子の館田をよそに、周りの生徒たちが彼女たちの話をし始めた。
「俺は、あの赤くて長い髪のポニーテールで、俺達と同じ新一年の馬渡場 翔さんが好みかな。父親が軍人の偉い人で、イギリス人と日本人のハーフ。あの大きなリボンが可愛いよな。」
「新一年って言うなら、俺は守上 京華ちゃんかな。あの小柄で黒髪のショートヘアがいい。実家が古くから続く武道家の家系で、家族でこの国の王の警護を任されてるって話だぜ。」
「お前ら本当に男か? 俺は断然、二年の朱岳・ヘイム・ラミルダ先輩だ。見てみろ、ピンクがかって少しウェーブしてる髪。無口な性格なのに、ヘッドフォンと着崩した制服が際立たせているあのエロいワガママボディを。親はあの有名なセキュリティ会社SYUGAKUの社長で、ロシア人とのハーフで頭も良くて、もう堪らん!!」
「すごいよねぇ〜。僕もファンなんだけど、あの三人、雷神の一派って噂だし、告白する人少ないんだって。まぁあの雷神相手じゃ当然か。」
「いやっ・・・・・・、仮にそうだとしても、あいつらと雷神が付き合ってるとは限らないだろ。
変な見方されて、雷神も困ってると思うぜ俺は。」
そう言う館田は、さっきまでとは違い、顔色を悪くして席を立った。
「悪い、なんだか気分悪くて全然食えないわ。奢ってもらったのに悪いな。」
あれだけ食べて全然なんだ・・・・・・。それと奢りじゃないんだけど・・・・・・。
「そうだ、お詫びにこれやるよ。」
館田は制服の裏のポケットから、小さな紙を取り出した。
「何これ?」
「何か悩みができたらここを頼りな、きっと力になってくれると思うぜ。それじゃあ俺行くわ、また教室でな。」
紙を手渡すと、館田はどこかへ走って行ってしまった。