7 紅い髪の剣士ストラヴィン
優華が知らない天井を見上げていた。
昨日起こったとこが、夢であったような気持ちになった。
しかし、この天井はどう見ても知らない天井だった。
「姫さま、目覚められましたか?」
メイドのひとりが声をかけてきてた。
「湯浴みの用意ができております。お手伝いいたします。」
「あの自分で風呂には入れるので、ダイジョブです・・・」
浴槽は、白い陶器で、花模様が描かれていて、とても美しく、湯船には香りのよい花が浮かんでいた。
なんだか、ほんとに姫様になったような扱いだな。
いつもの私なら、この部屋の豪華さとこの浴槽で「きゃーきゃー」叫んで、『うっとり』としていただろうけど・・・素直に喜べないというか・・・。
入浴しながら、昨日あったことを思い浮かべていた。
騎士団長アウルスさん、王様・・・姫様・・・・
頭の中でどれもつながらなくて、さらに訳が分からなくなってしまった。
入浴後、メイドが用意していた着替えは、白いワンピースだった。
そのワンピースは飾りがなく、ふわーとした感じで襟はVネックになっていて、腰からゆるやかなラインになっており、ノースリーブでシンプルなもの。
普段かわいい服を好んで着ていた優華とは違う、少し大人ぽい服装だった。
「私は以前もこんな服を着ていたの?」
「そうですね、姫様は豪華なドレスなどをお勧めしても、まったく興味を示されなくて、そういった服を好んでおられたり、男性のような装いをされていました。」
少し思い出し笑いをしながら、メイドがうれしそうに答えた。
話を聞くと、ほんとに自分なのかと疑いたくなるぐらい別人のような話である。
昨日から何度も聞かされていた以前ここにきた『わたし』は、ほんとうに自分なのか。
この世界の人たちが勘違いしてるのはないだろうかと思い始めた。
メイドに髪を整えてもらっていると、バタバタと人が暴れているような激しい音が外から聞こえてきた。
「お待ちください!まだ姫様は」
「お待ちください!」
何人かの声と足跡がどんどんと近づいてきて
「失礼!姫!」
バン!とすごい勢いで優華の部屋の扉は開かれた。
紅い髪、紅いするどい眼、紅い鎧、紅いマントのがたいが良い20代ぐらいの男性だった。
「姫!」
後ろからおもいっきり抱きつかれ、ヒョイと持ち上げられた。
なにーーなにが起こっているの???
部屋にいたメイド達は、みな顔面蒼白で、おろおろしている。
そのまま持ち上げられた優華は、お姫様だっこをされてしまい、紅い男性の腕の中へ。
「さ、姫様。お連れいたします」
ええ?なに?これどうゆう状況??お姫様だっこ???
どこへ?どこへよ~~??どこに連れていくのよ??
お姫様だっこのため、紅い眼が、すぐ側にあって、落ち着かないんですけど。
紅い眼と眼があうと、うれしそうに笑うため、なぜだかこっちが照れてしまう。
通る廊下では、衛兵は困った様子で、何も言えないという微妙な空気が流れていた。
いったいこの人、何者なの??突然やってきて、いきなりお姫様だっこするし、あ!もしかしたら昨日王様が言っていた『守り人』??
騒ぎを聞きつけた優華の友人たちは、廊下に出て、男に拉致されている優華の姿を発見し、その後を追っていた。
優華がお姫様だっこをされてついたのは、昨日も来た玉座だった。
「あ、あの自分で歩けますので」
優華は、おずおずと目を逸らしながら言うと、紅い男性はため息をついた。
「はあ・・しばらくこのままでと言いたいとこですが、鬼の形相でこっちにやってくる方がいらっしゃるんで、仕方ありませんね」
ようやく地面に下ろされた優華は、紅い眼から開放されてほっとしていた。
男の人とあんな近くで眼が合うと、なんかどきどきしちゃうよう。
ふと、すごい冷たい視線を感じた優華は、昨日情熱的に抱きしめられた王が、すごい形相でこちらを睨んで、赤い男に詰め寄った。
「そなたは姫に対して、無礼ではないか!」
「どうも、王様。お久しぶりでございます。いやーどなたさまは、昨日姫に会っておられるようで、いいでしょうが。こっちは早く会いたくてやきもきして、転移魔法で速攻きたもんでねー。この思いを抑えられなかったというか~」
王の言葉など耳に入ってない様子でひらきなおって、王に嫌味たらたら!聞いている方が、ヒヤヒヤしてしまう。
ふたりの間で見えない火花が飛び散っているようで、誰も間に入れるような状態ではなかった。
「そなたが、いくら『守り人』とはいえ、無礼であるぞストラヴィン!!!」
あ、やっぱりこの人は昨日王が言っていた『守り人』なんだ。
ひえーーむっちゃ怒ってるよーー。
確かに王様に対して、言う言葉じゃないよう。
「はあ?人の上に立つ者が、そんな感情的になってよいのですか王様?うわさですがね、その王様とやらは昨日は姫に抱きつこうとしたとか・・・オレがやってることを攻められてもね?」
「だまれ!!だまれ!!その生意気な口、開けぬようにしてやる!」
二人はお互いに剣をさやから抜き、睨みあった。
王の剣は、普通の大きさだったが、紅い男性の剣は大振りで、普通の剣の大きさの3倍ぐらいのもの。重そうなそれを軽々と、持ち上げていた。
優華は、近くにいた騎士団長アウルスに助けを求めるが
「姫様の件になると、おふたりとも理性を失われて、いつもこのようにひと悶着あるのです。それにそれがしが・・・お二人を止めるほどの力はありません・・・」
ええーーそんな!!誰か止めてよ~~このままじゃあどっちかが怪我しちゃうよう。
「優華!だいじょぶなの?」
心配して、友人たちがかけよってきた。
「私はダイジョブなんだけどね・・・」
友人たちは、あたりの空気が凍り付いていることを察知し、今にも剣をまじえそうなふたりを見て、固まってしまった。