4 王アルカサル
騎士団長アウルスに連れられた城の中は、今まで見たこともない豪華なつくりだった。
噴水の中庭、咲き乱れる花々、高そうな彫刻の数々、天井のシャンデリア、真っ赤なじゅうたん、あまりの豪華さと美しさに言葉を失ってしまう。
優華は、目の前に見えるものが現実とはまだ思えなく、きょろきょろとあたりを見回しながら進んでいった。
これって、美術館とかじゃないよね?まさかドッキリカメラとか?
実感が沸かない中、騎士団長アウルスに連れられて、長い絨毯の先には扉がいくつかあり、何部屋か通ったあと、大きな広い部屋へと出た。
その広い部屋は、今まで通った部屋より、かなり豪華なつくりだった。
壁紙は重厚な模様、天井には美しい絵が描かれ、床は細かい模様が描かれたタイルになっている。
その部屋の中央の奥には、ひとつだけ立派なイスがあった。そこに座っていたのは、細身で髪は銀色で蒼い目のきれいな顔立ちの男性だった。両脇に兵士らしきものが控えており、白い服を身にまとい、マントも白で、その服装が、よりいっそう銀色の髪を際立たせていた。
銀色の髪の男性を見た優華は、言葉を失った。
この人!さっき頭に浮かんだ銀髪男前!忘れないとか言ってた人!どうしてその人がここに??
銀髪の男性は、優華を見るなり、表情を一瞬に変えて、にこやかに微笑んだ。
「姫、息災であったか・・・・」
『きょとん』としている優華にかけより、今にも抱きつきそうになる勢いで、それを必死で抑えて、手を後ろに下げた。
その様子を見ていた周りの城のものたちがみな、「クスっ」と笑い出し、銀髪のその男は、急に恥ずかしくなったのか、焦って咳払いをした。
騎士団長アウルスが銀髪の男の耳元でなにやら話している。どうやら優華を城に連れて来たまでの状況を説明しているようだ。
「そうか・・・そなたは元の世界に戻るときに記憶をなくし、その記憶がまだ戻っておらぬのだな」
蒼い目が、切なそうな、悲しそうな、そして遠いところを見ていた。
この人、どうしてそんな悲しい目をしているの?
「我は、この世界の王、アルカサルだ。そなたは覚えておるまいが、以前もこの世界にきたことがあるのだ」
ええ??王さま!王さまって・・・一番偉い人だよね・・・?
そんな王様って、こんなに簡単に会えるものなの?だって、日本で言ったら総理大臣とか天皇じゃない!
どうしてそんな人が私に対して、そんな悲しそうな、愛おしそうな目で見るの?
「僭越ながら、王様。先ほど以前の姫様の記憶が一瞬戻られたときがございました。記憶を完全に戻られるのも、時間の問題かと・・・」
騎士団長アウルスの話を聞いた途端、先ほどのさみしげな表情は一気に消えた王。
「うむ。そうだな。」
少し笑顔になり、騎士団長の言葉に納得していた。
「ご帰還心よりおめでとうございます」
ひとりの小さな可愛らしい女の子が優華にの元に走って、小さな花束を優華に手渡した。
「・・・謁見中であるぞ」
その様子を見ていた騎士団長アウルスは眉間にしわをよせたため、他の城のものたち達が慌てていた。
「申し訳ありません、この子は以前からお話に聞いていた聖霊姫様と会えるのを楽しみしていたものでして・・・」
優華は、騎士団長アウルスをじっと見つめ、アウルスの口に自身の手をあて、凛とした表情になった。
「アウルス、この子の気持ちをそんな風にしたらいけないわ」
優華はかがんで、女の子の目線になり、にこやかに微笑んだ。
「ありがとう。とてもきれいね」
そして、その花束の1輪をとり、何やら人語ではない言葉を発した。
『聖なる花たちよ、その華麗な姿を我に示せ』
その一輪の花びらに口づけをし、天井に投げると、天井から雪のように降る花びらが舞い降りてきた。
その場は、一瞬にして花畑のようになり、ひらひらと舞う花びらがとても美しい光景になった。
「すごいーーお花がふってきたよ~!」
女の子はキャーキャー言いながら、天井を見上げて、花びらを拾おうとしていた。
「姫様~ステキです」
城のものたちまで、花びらを手にとって、大騒ぎをしている。
「粋なことを、姫様らしい」
騎士団長アウルスは微笑みながら、おちてくる花びらを眺めて、
「姫よ。記憶がもどったのか?」
そう王に声をかけられ、「はっ」と我に返った優華。
優華が我に返ったと途端に、天井から降っていた花びらは、ぴたっと止まってしまった。
なに?なんなの??
私いま、なにしゃべったの?
今の人間の言葉じゃない言葉を発したよね?私はどうなってるの?
優華は自身が知らない言葉を発した、その行動が自身で受け入れられないでいた。
「そうか、そのように一瞬で元に戻ってしまうのだな。」
優華の様子を見ていた王はやはりさみしそうで、悲しそうな目をむける。
「ごめんなさい。私混乱していて、何がなんだかわからなくて・・・」
私は、多重人格だったの??
困り果てて、混乱している優華を見ていた王は、ひとつの提案をした。
「姫よ、魔法使い『ゴトボルク』と会ってみるがよい、姫の疑問も少しは軽くなるであろう」
マントをひるがえし、王はその場を去ってしまった。
魔法使いって、魔法使いって、映画とかアニメとかにあるあれだよね?
魔法使いって、杖で唱えて便利なことができるっていう。
冗談とかじゃないよね・・・?
優華は、大好きな映画にでていたある魔法使いを思い出し、頭に思い浮かべていた。