42 帰還
雄也が王の部屋に入室してから、長い沈黙が続いた。
雄也は目線をはずし、王は雄也から目線を外さないでいたため、二人の間に何とも言えない微妙な空気が流れていた。
そんな重い空気の中、王は口を開いて、たどたどしく話しかけた。
「・・・剣を・・・騎士から・・・習っているようだな・・・」
「え?あ、はい。」
「騎士団長が、筋が良いと誉めていた。」
なぜ、剣を習っている事を話題に出したのか、雄也には分からないでいた。
そして、どこか悲しげな、切なそうな表情でみつめられて、雄也はどうしたらいいのか戸惑っていた。
いったい王様は、オレに何を言ったかったのか・・・。
王の執務室を後にし、自室へと帰る道すがら、雄也は理解できない王の対応に疑問をつのらせていた。
優華達が気付くと、そこは見慣れた城の中庭だった。
噴水があり、花が咲き乱れて、離れて1ヶ月ほどしか経過していなかったが、優華にはとても懐かしく感じた。
「ここって、・・・お城だよね?」
「そうです。さすが、聖竜ですね。1度にこの地に大人数を移動させるとは。」
「ホントねー。魔力が相当ないと、こんな芸当はできないわー。」
「あいつ・・・優華の事を伴侶とか言いやがって!」
「なーにまだ怒ってるの?」
「当然だ!今度会ったら覚えておけよ!」
「ハイハイ、聖竜の息子にまた会えるとは思えないけどねー」
いつもの『守り人』のやり取りに、優華はなぜか心地よく、城に帰還しという安心感もあってか、クスクスと笑みがこぼれた。
「帰還したと、王に報告します。」
カバリュオは、『守り人』と騎士達を残して、足早にその場を去って、すぐに姿が見えなくなった。
他の騎士達は、何が起こったか、把握できずに、口々に「どうなった?」「何が起こった」とお互いの顔を見合わせていた。周りの風景はなぜか見知ったところで、城に帰還したのだと実感するまで、しばしの時間がかかった。
行きはあんなに苦労したのに、帰りは一瞬なんて。
まるでド○えもんのドコデモドアみたい。
ああ!でも、やっとお城に帰ってこれたんだ!
今日は、ゆっくりお風呂につかろー。エルフの村を出てから、ずっとお風呂に入れなくて、布で身体をふくか、水あびだもん。やっぱり、日本人は温かい湯につからないとね。
優華は、『守り人』と騎士たちに挨拶し、自身の部屋へうきうきと戻っていった。
モンソンは、まだ困惑気味のサルバティエラに目線を向けて、話しかけた。
「サルバティエラ、騎士長にはうまく言っとくから、早く両親のところにいけよ」
「モンソン・・・」
「おいおい、そんな顔するなよ~。出発前は、急だったから家には戻ってないだろう?親父さん、お袋さんを安心させてやれよ」
「・・・すまん!」
サルバティエラは、その場から早々に走り出し、足早に自身の家へと向かった。
モンソンは、サルバティエラが両親をどんなに大切にしているか、また両親も娘の事をいつも案じている事をよく知っていた。
以前、珍しく酒に酔ったサルバティエラを自宅まで送って行ったことがあった。その時に会った両親は、善良そのものを絵に描いたような人物だった。夜が遅いからと、泊まっていくよう何度も諭されたが、騎士の寮へ帰宅すると、振り切り、丁重に断ったのだった。
オレの両親が、サルバティエラみたいな親父さん、お袋さんだったら、違った人生だったのかもな。
サルバティエラが見えなくなるまで、モンソンは考え深そうに見送っていた。
そういえば、聖竜が、古の国の王の子孫がいると言っていたが、アレはオレの事だろう。
優華ちゃんの『伴侶』の話題で周りは、気にしていなかったようで・・・正直・・・助かった。
・・・いろいろ、詮索されるのは、めんどいからな。
もう親父とは関わりない他人だが、今でも古の栄光にすがって、生きている奴はいるからな。そんな奴らを、よく思わない輩が、城の騎士達には多くいるだろうし、面倒ごとに巻き込まれるとやっかいだ。
モンソンは考え事をしながら、第5の騎士長へ、旅の帰還報告へと出向いたのだった。
「はあ~~気持ちいい~~」
優華は自身の部屋で、湯船につりながら、両手を上にあげて、久しぶりの入浴を喜んでいた。
そういえば、去り際にセイクリッドが・・・
「優華、我はそなたをあきらめた訳ではない。気が変わったら、いつでも我の名を呼べ。すぐ駆けつける。」
気持ちは、ありがたいけど、まだ結婚とか想像できないし、セイクリッドを呼ぶことはないと思う。
はあ、なんか身体より、気持ち的に疲れちゃったよ。
どーして付き合う前に、いきなり『結婚』なのよ~~。私には、元の世界には、彼氏がいるのに。
入浴後、素早くいつもの白いワンピースに着替えて、一樹と雄也のいる部屋へと、赴いた。
「雄也ひさしぶりー!」
「優華!どこも怪我とかしてないか?」
「だいじょぶ。優秀な騎士と守り人がいたもの。」
「あれ??、一樹も確かこっちの世界に戻ってるって、聞いたけど?」
「・・ああ。一緒に戻ったけどな・・・」
部屋には一樹の姿はなく、雄也だけだった。
一樹がこの世界に戻り、以前、町で知り合った冒険者と早速ダンジョンへ行くために、『魔法』の特訓をし、周りが驚くぐらい早いスピードで上達し、早々にダンジョンへと旅立ったとか。
さすが、一樹・・・。
その行動力は見習わないと。
城にいると、何をしでかすか分からないため、王が好きにするよう許しを出し、騎士達は心底ほっとした
という事は優華には内緒にしておいた。
「あれ?雄也、筋肉ついて、なんだか日焼けもしてるみたい。」
以前別れをした時より、日に焼けて、筋肉質になり、どこか逞しくなった雄也。
「あ、ああ。騎士の訓練場で剣を習ってるからな。」
「ええ?雄也が剣を?ええ?ぷぷ。なんか変な感じ。」
「なにが変だよ。」
「だって、雄也が剣で、一樹が魔法で、私が癒しの力でしょ?パーティー組むつもりなのかなーって」
『剣を習ったのは、優華を守るためだ。』
その場で、そうはっきり言えたら、どんなにいいかと雄也は思った。
以前、玉座の間で優華を助ける事ができず、そんな自分が歯がゆかった。もうあんな思いはしたくない、この手で守りたいと強く思い、剣を習いはじめたのだった。
そんな雄也の気持ちなど、まったく知る由もない優華は、久しぶりに会えた再会で嬉々として、笑顔を絶やさないでいた。
この気持ちを思い切って、打ち明けられたらと、何度も思ったが、自身より大変な思いをしてるであろう時に、胸の内をさらけ出すのはできないでいた。
「それより、聖竜に会えたのか?」
「うーん。会えたような。会えなかったような?」
「ような?ってなんだよ?」
「姿は見れなかったのよね。でも声は聞こえて、話はしたんだけど。残念ながら、恩恵は受けれなかった。あんなに苦労して、ようやくたどりついたのに、でも、サルバティエラさんとモンソンおじさんと知り合えて、仲良くなれたし、残念な事ばかりじゃなかったかな。城の外の世界を見れたし、エルフの村に行けたのがすごく貴重な体験だった。」
「そうか、」
雄也は、旅の間、安否を心配していたが、楽しそうに話をする優華の姿を見て、安堵していた。
その夜、優華は就寝しようと身支度していると、王から呼び出しがかかり、執務室へと赴いた。モンソンは、扉の前で待機し、手を振って見送ってくれた。
王様に会いに行くだけなのに、モンソンおじさんは心配性だなー。これからも、私についてくるのかな?
「久しぶりだ。息災であったか?」
約1ヶ月ぶりに会う王は、にっこりと微笑み、いつもの美形が3割り増しに優華には見えていた。
久しぶりに見るけど、相変わらず王様は美しいよね!
「はい。すごく優秀な騎士達ばかりで、特にカバリュオさんとサルバティエラさんとモンソンおじさんには道中とても助けられました!」
「モンソンおじさん?」
「あ・・・えっと・・・あだ名みたいなもので。」
「そのモンソンとは、騎士の誓いを交わしたそうだな。」
「あ、はい。正直、よく分かんないんですけど。それって、とてもすごい事なのでしょうか?」
「姫は、何やら他人事のようだな。」
「あ、すいません。正直ぴんとこなくて。」
「誓いというものは、神聖なものであり、この世界の王であっても『誓いをするな』と阻む事はできぬ」
「え?そんなすごい事?」
「そうだ。誓いをかわした相手を守る事に関して、力が増すと言われている。」
「ええ!そうなんだ・・・。たとえばモンソンおじさんなら剣の腕前がさらに磨きがかかるということか・・・確かにすごい!!」
「しかし、神聖な誓いをやぶった者は、世界から天罰が下されると言われている。何が起きるかはわからぬが、恐ろしい事が起きるとされている。それゆえ、安易に誓いというのは、かわされる事ではない。」
ほえーモンソンおじさんは、思い切った事をしたんだ。
なるほど、だからサルバティエラさんが目を見開いて驚いたのが納得できる。
でも、どうして私なんかに誓いを立てたのかな?
いくら力が増すと言われても、やぶった時のリスクの方が大きくねえ?
あとで、モンソンおじさんにはその辺のところを聞いておかなくちゃ。
王の前で、『うーん』と悩む姿が、いつもの優華の様子であったため、王の顔から笑みがこぼれていた。
「すまぬな。帰還し、疲れているところ。姫の顔無事な顔が見れて、安堵した。」
「いえいえ!こちらこそ、王様と久しぶりにお話できて、よかったです。ああ!そういえば旅の途中。」
「なんだ?」
「不思議な夢をみたんです。私とそっくりな人が『私であって、私ではない』ってなぞなぞみたいな事言って、意味が今でも分からなくて。」
優華の言葉を聞き、王の表情はガラリと変わった。
仕事が忙しくなってきました。次回を掲載後、休載しようと思います。