36 聖竜の旅9 花冠と子ども
優華は、ルミエールから少しの短時間の散歩程度ならばと、外出許可をもらった。
優華があまりにも何度も頼み込むため、ルミエールが根負けした形となったのは、言うまでもない。
ここ2日ばかり、ずーと布団と仲良しさんで、暇すぎて、うずうずしてたもの。
やっと外の空気が吸える!
ルミエールがこの村一番のとっておきの場所を教えてくれた。
そこは村の左側にある『花畑』
この村でしか咲かない珍しい花があると聞いて、楽しみにしていた。
木の宮殿を出て、白い橋を渡った。橋の下から川をのぞくと、水は透き通っていて、光がきらきらと反射している。白い橋は、美しい細かい細工がされ、まるで芸術作品のようだった。
きれーい。さすがエルフの村だけあって、どこを見渡しても、美しいなあ。
村の左側を目指して、
そこは、美しい花々が一面に咲き乱れた絵本の中のような場所だった。
「すごいーーーい」
優華はあまりの見目麗しい花々に声を上げていた。
色とりどりの花が咲いて、どの花も優華の世界で見たことはなく、この世界の城の中庭にもない花だった。
優華は、その中の白く小さく可愛らしい花が特に目に入った。
白い花はよく見ると、星の形をし、とても愛くるしいものだった。
よし、これで花冠を作ろう!
白い花を摘んで、優華の世界にある『シロツメグサ』の花冠を作ったときと同じように作ってみた。
ふと、優華はこちらをじーと見つめる視線に気づいた。
視線のある方に目を向けると、見知らぬ子どもが立っていた。
髪は銀色、眼が朱色でするどい目つきをし、端麗な姿だった。
花畑に立っていると、絵になるそんな子どもだった。
あれ?この子エルフじゃないんだ?だって、耳がとがってないもの。
でも、人間の子どもは「エルフ村」に入れないし・・・
あ。。。もしかして、『ハーフエルフ』かな?
きっとそうだ。だって、子どもなのにすっごくきれいな子なんだもん。
「おい!そこのお前」
突然その子どもが言葉を発した。キョロキョロ辺りを見回すと優華以外誰もいない。
誰の事言ってるのかな?おかしいなあ。
「お前だ!」
わ・・・わたしい??
「お前しかおらんではないか。」
はあ??お前??
「お前のその手にある花飾りを我に献上しろ。」
けんじょう?何この子、上から目線??
美しい子どもの口から発する物言いに腹を立てた優華は、一言言ってやろうと思った。
「今日初めて会ったのに、お前はないでしょう!私にも名前があるの!それに献上なんて言葉は、子どもが使うものじゃないよ。ほしかったら、欲しいと言えばいいのに」
その子どもは、優華の言葉に驚き、一瞬たじろいだと思ったが、その場から歩み寄り、近づいてきた。
「ふん。そなたの名前は?」
近くで見ると、紅い眼がルビーのようで吸い込まれそうだった。ストラヴィンも紅い眼をしているが、それとはまた違った魅力があった。
銀色の髪が風に揺れて、紅い眼に見つめられると言葉を失ってしまった。優華の胸ぐらいの身長の子どもであるが、なぜか近寄りがたい威厳を持ち合わせていた。
「どうした?早く名を申せ。」
子どもの言葉に我に返り、言葉を失ってしまった優華は、ようやく口を開くことができた。
「・・・優華。」
「優華か。我は、セイクリッド」
「セイクリッドかあ・・・かっこいい名前だね。」
「当然だ!」
優華の言葉に腕を組んで鼻息を荒くした。
うーん。そこ、威張るところですか?調子狂っちゃうな・・・。
この世界では会ったことのないタイプで、優華は戸惑っていた。『姫』と呼ばれ、意味もなく見知らぬ人から敬愛されるのが常だったからだ。
「えっと、欲しければ一緒に作ります?」
「我に作れと言うのか?」
「自分で作ると、愛着がわきますよ」
「ふん!では我に教えよ。」
うーん。この子、なぜこんな上から目線なの?
同じハーフエルフのディーさんとは偉い違いだ。
戸惑いながらも、優華はセイクリッドと花冠を一緒に作り、完成させた。
その花冠は、とても愛らしく、セイクリッドの銀髪によく映えるものだった。
「優華、花冠のお礼だ。受け取るがよい。」
セイクリッドは、自慢げにペンダントを手渡した。
それは、花の形をした白く可愛らしいものだった。
「うわーー、かわいい!ありがとう。セイクリッド」
「我を忘れぬように、いつも身につけよ。」
「うんうん。大切にするね。」
優華は顔を上げると、目の前にいたはずのセイクリッドが、いつの間にか姿が消えていた。
あれ?あれ??どこいったんだろう?おかしいなあ。
すると、一陣の風が吹いて、花畑をさわさわと揺らした。その風は心地よく、優華をまるで包み込むようなものだった。
すぐ辺りを探すが、セイクリッドの姿はどこにもなく、優華は頭をひねった。
いったい・・・どこいったのかな?不思議な子どもだったなあ。
セイクリッドと話していると気づいたけど・・・そういえば私、この世界に来てから、自分の名前を誰にも名乗ってなかった気がする。
周りが『姫』『姫』『姫』の大合唱するから、自分自身がいつの間にか『姫』っていう名前なのだと思い込んでたわ!
よし!決めた!これからは、『姫』じゃなくて、みんなには名前で呼んでもらうことにする!
私には、親が決めてくれた「優華」って名前をちゃんと呼んでもらおう!
優華は、そう固く心に誓ったのだった。
「長老、珍しい客人が遊びに来ていましたね。」
「ふむ。」
ルミエールは、白い長いひげを足までのばし、目は優しげな老人と向かい合っていた。
ここは、木の宮殿の中の一室。
「召還されし者・・・少し変わった娘です。」
自身の事を女神様と呼んで、キョトンとした顔を思い出し、ルミエールは『ふふっ』と笑ってしまう。
「ルミエール・・・そなたが笑うのは久方ぶりだな。王も、『守り人』も、召還されし者の『力』は、魔法だけではない事を、もっと学ばねばならん」
「それを、伝えてもよろしいのでは?」
「ふん、そんな簡単に分かってしまえば、面白くないからの」
老人は『にやり』と笑い、長い髭をなで、どこか楽しげだった。
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ここは、雄也達のいる世界。
今、雄也は宮崎県の祖父の弟が神主をしている神社に滞在していた。
滞在初日に友人の一樹から携帯に連絡があり、『今からそっちに行く』という切羽詰った言葉に疑問を感じていた。
『ライン』で所在地を送信すると、フェリー乗り場まで迎えに来てほしいと返信があったため、今そのフェリー待ちだった。
一樹の奴、ゲームとか趣味でお金使うから、車持つのは金のムダとか言ってたなあ。
さすがに、フェリー乗り場から2時間もタクシー乗ると、諭吉が3枚必要だからな。
フェリーは夜に出航し、早朝に宮崎に着く事になっている。
「お!こっちだ一樹!」
フェリーから降りてくる友人の姿をみつけ、自身の車に案内しようとしたが、一樹にいきなり腕をつかまれた。
「雄也・・・とにかく詳しい話は車でしよう。」
「あ・・・ああ。」
一樹のその眼は真剣なまなざしで、雄也を見据え、その様子にたじろぎ、急いで車へと向かった。
いったいどうしたっていうんだコイツ?
雄也は大学の頃から一樹を知っているが、こんなにも切羽詰った表情をするのは初めて見る。いつも冷静で、あまり取り乱したりすることはない一樹のこの様子に戸惑っていた。
雄也は、一樹を乗せて車を走り出すと、思いつめた表情で語り始めた。
「オレ、最近変な夢ばかり見るんだ。」
「夢?」
「それが、目が覚めると、ほとんど覚えてなくて・・・オレは、この世界から違うところに行かないと行けない気がして、気が急くけど、いったいどこに行ったらいいのかも分からない。この前居酒屋で、雄也が言った事が急に気になって、お前にどうしても会わないといけないと思ったんだ。確かに、もうひとり、確かにいたんだ!道路で倒れていたのは、4人だ。雄也、さゆり、知美、そして、オレ・・・でも、もうひとりいたんだ!」
「ちょ、落ち着けよ・・・居酒屋で会って、からそれから夢を見たって事か?」
かなり興奮気味の一樹に、戸惑っていたが、自身が感じている違和感と同じものを抱えている事に少しうれしく思っていた。
「そうだ、あれからなんだ。だから雄也が、何かの鍵になってんじゃないかなと思うんだ。」
「オレが・・・?」
自分自身が『鍵』と聞いて、困惑する雄也だった。
やっと涼しくなりましたね。今更ですが、古本で「指輪物語」の小説を購入しました。情景や表現力が素晴らしいです。