29 聖竜の旅2 魔物出現
女騎士サルバティエラと馬にのせてもらい、優華は女性の背中に揺れられてなんだか、新鮮だった。
「お名前・・・とてもいい名前ですよね。」
「え?え?え?」
「サルバティエラさんのお名前です。」
「あ。は、はい!父と母がつけてくれた名でして・・・」
「わーあ!いいですね!ステキなお名前です。」
サルバティエラは、自身の名前を誉められて、素直に嬉しかった。同僚の騎士達には、名前負けしていると散々からかわれていたからだ。父と母がつけてくれたこの名前を、少し誇りに思えた。
「えっと・・姫様。先ほど出立の時に歌われた歌声はとてもお上手でした!」
何をしゃべったらいいのかわからなかったサルバティエラは、思わず今朝の事を思い出した。
「そうですか?いきなり王様ってば、何か話せって言うので、焦りました。でも、みなさんに誉められて、恥ずかしかったけど、歌ってよかったです。あの歌は、私の世界ではある人が作ったんですが・・・うーん・・・話が長くなるので、夜にまたお話していいですか?」
「ええ!もちろんです!」
うんうん、男性だけだと思ってたけど、サルバティエラさんがいてくれて、とても嬉しい!
お城は、こんな身近に離せる女子っていなかったし、なんだか楽しくなってきた!
サルバティエラと和んで話をしていると、ある騎士が近づいてきた。
「姫様、はじめましてコイツと同じ第5部隊オルデンのモンソンです。」
「わおー同じ部隊の騎士さんなんですね。初めまして!」
「姫様、モンソンと口をきいてはいけません!馬鹿がうつっては大変です!」
「おいおいーー姫様にそれはないぜー。こいつちょー固くて、固くてカチンコチンに真面目すぎる奴ですが、剣の腕はなかなかで、姫様よろしくなー」
「不敬だぞ!モルソン!」
サルバティエラは怒っていたが、モンソンはまったく気にする様子でもなかった。
その様子を見ていた優華は、ふたりのやり取りに、くすくすと笑ってしまった。
うんうん。この人とは、気が合いそうだなー。
優華は気軽に話しかけてくれるモンソンが新鮮だった。今まで遠巻きに見られるか、なぜか相手が緊張して話づらかったり、警護をあまり使わず、普通に話しかけてもらえる事が嬉しかった。
到着した『遺跡』は、こちらも古びた建物でシダが生い茂っている。変わったことと言えば、以前の所より人の気配が少なかった。
もう一度『ルーラ』もとい、『転移魔法』で移動し、2度目の『魔法陣』そしてまた馬で移動をし、3度目の『転移魔法』で到着した『遺跡』の場所は、以前の場所とは違い、商人や冒険者の姿は皆無で、人の気配がしなかった。
あれ?どうしてこんなに雰囲気が違うの?最初の『転移魔法』の場所は賑やかだったのに。
先ほどよりだいぶ緊張のとれたサルバティエラに聞いてみると
「それはですね。こちらの周りには商人が行くような町や冒険者が行く『ダンジョン』がないため、普段あまり使われないのです。」
あ!そうか。だから今回の『転移魔法』は、馬も一緒に連れて行ったのね。ナルホド。
「それではこののち、森の入り口まで行きます。本日は入り口付近で野営をする行程となっています。」
カバリュオが言い終えたと同時だっか、人気のないはずの遺跡に突如息を切らした馬に乗った中年の男性が飛び込んで来た。
「騎士様!どうかお願いです!私の村が魔物に襲われて、どうか助けて下さい!」
中年の男性は、顔は青ざめて、小刻みに震え、汗がびっしょりで、『遺跡』の建物入り口のリダラの騎士に涙目で訴えている。
それを見ていたカバリュオが素早く反応し、入り口に走りより、その男性に問いただした。
「魔物は、このあたりには出没しないと聞いているが・・・どれぐらいの数だ?」
「ああ、騎士様。そうです。こんな事は初めてで。数は分かりません。急いで村を出たもので」
シヴァリエの騎士がその会話を聞いて、
「カバリュオ様、転移魔法を使ったとしても、騎士をこちらに派遣するまで時間がかかると思われます。我々で、魔物を!」
他の騎士も無言で顔を見合わせて、うなづいている。
カバリュオは、悩んだ。
こちらは騎士が総勢7人、しかも相手がどのような数か分らないまま動くのは危険だ。しかし、急を要し、村人の命が・・・。しかし・・・。
悩んだ末、リダラの騎士たちに何やら素早く指示をし、優華と『守り人』に目線を向けた。
「『守り人』の方とサルバティエラと姫様はこちらに残ってください。」
「えっ!しかし、某も魔物討伐に!」
第5部隊オルデンの普段の任務は、魔物の討伐だ。当たり前にサルバティエラも討伐に同行できると思っていた。
「到着した騎士達に状況を説明する者が必要だ。その者は、村までの案内をたのむ。」
サルバティエラは、魔物討伐という任務より、伝達係りになり、去って行く村人と騎士達をうらめしそうに見つめていた。
「伝達係りねーふーん。」
ニヤニヤしながら、ベンダーバールは何か考えていた。
「ベン!もちろん行くだろ?」
ストラヴィンもニヤニヤしてお互い顔を見合わせている。
ディークラールハイトは、はあーとため息をついて困った顔をしている。
い・・・いやな・・・嫌予感がしますが?まさかね?
「風よ。村の魔物の様子を・・・」
「え?今のって・・・」
優華には、ベンダーバールが話した言葉が理解できた。
しかしサルバティエラには、皆目分らなかった。どうやら、精霊の言葉を発しているということしか理解できなかった。
さっきのベンダーバールの言葉は、普通に日本語として、私には聞こえたけど、たぶん・・・普段とは違う言葉だったのかな?サルバティエラさんは、ぽかーんとしてるもの。
「風の精霊に魔物の様子をさぐってもらいに行ったのよー。あの頭の固い副騎士団長のやつーワタシたちが精霊魔法使えるのを忘れてんのねー」
副騎士団長と聞くと、ストラヴィンは眉を上げて不機嫌な顔になった。
「ふん!あの副騎士団長の奴、すかして、気に入らねえ。」
「あらー気が合うわねー!・・・・ふーん、けっこうやばいわね・・・でもこんな場所に・・・まあいいわーストラヴィン」
「おう!いくか?」
ストラヴィンは、まるで悪戯小僧のように笑い、腕をポキポキならし、準備運動をする。
えっとですね・・・えっとですね。まさか魔物退治に行くんですか?カバリュオさんに待っとくように言われませんでしたか?
「サルバティエラだっけ?アンタも行く?」
突如、ベンダーバールに思ってもみない事を言われて戸惑ってしまう。
騎士にとっては、上司の命令は絶対だ。しかも、真面目な堅物のサルバティエラにとっては、それは絶対に犯してはならない鉄壁の言葉だ。
しかし、今回は『オルデン』が得意とする魔物討伐。普段から魔物退治を主とするサルバティエラにとってみたら、こんな時に活躍できないのは我慢できない。
「い、い、行きます!!行かせてください!」
ええ?いっちゃうの?サルバティエラさんまで?
「はあ・・・どうせ止めても駄目ですよね・・・私もいきます。怪我された方がいるかもしれませんし」
ディークラールハイトはため息をついて、ヤレヤレと苦笑いをしている。
という事は・・・もちろん私もいく事になりますよね?
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ここは、雄也たちのいる世界。平凡な毎日が過ぎ去っていった。
しかし、雄也は平凡な日常ではなくなっていた。
「どうゆうことだよ?」
「だからー優華って子が行方不明って話だよ」
友人との何気ない携帯電話での会話だったが、その内容に耳を疑った。
優華は、大学の時からのグループぐるみで仲良くなった友人。最近は、会っていなかった。
「優華って子の彼氏の知り合いとオレの友人が友達な訳、そんで、聞いた話しによると、1ヶ月ほど前から行方不明で、今捜索願出してるらしい。」
それを聞いた雄也は目の前が真っ暗になった。
大学時代から思いを寄せていた相手が、まさか行方不明になっているとは。
その時、頭の中で靄がかかり、悲しげな表情の優華が浮かんだ。
・・・・なんだよこれ?
雄也はこの1ヶ月あまり、もやもやとした気持ちをずっとかかえていた。