25 騎士の選出
「それって、私次第ってことですよね?」
優華は緊張して、厳しい表情になった。
精霊魔法の効果が約倍になるなんて、チーターみたいで、反則な気もするけど。
それだけ聖竜さんの「恩恵を受ける」ということは、なかなかできないってことだよね。
「・・・そうだな。姫にはこのような旅をさせるのは・・・酷だと罵ってくれてもよい。」
「そんな・・・がんばりますけど、私も、できなかった時はごめんなさいです。だから、おあいこです。お互い様です。フィフティー・フィフティーです。」
フィフティー・フィフティーの意味は分からなかったが、王は少し微笑み、優華の言葉に静かにうなづいた。
「それから」
まだ、これ以上何かあるの?王様ーー私もう、いっぱい、いっぱいなんですけど・・・。
聖竜さんの件だけで、頭の容量をすべて使い切りましたよ!
「約2週間後に姫の『お披露目』をと考えていたのだが、今回の聖竜の事もあり、延期しようと思っている。」
えっと、聖竜に・・・次は姫の『お披露目』ですか。ふむふむ・・・ふむふむ??
まって、おひろめってあれですか?みんなに『精霊姫様ですよーどうぞよろしくねー』ってやつですか?
はたまたは、町の中を行進して、市中引き回しの刑とか・・・。さらしもんになれーって事ですか?
「あ、あの・・・王様・・・それは拒否することは無理なのでしょうか?」
不思議そうに優華を見る王様に言葉を続けた。
「えっとですね、非常に人目にさらされるのは、断固拒否したく、あまり目立ちたくないといいますか。どちらかと言えば私は、『姫』というよりか『ドジッコメイド』的なのが、お似合いというか・・・木の影から、そっとのぞきたい的な・・・」
王は、要領を得ない優華の言葉に「ふふっ」と笑い出した。
「ならん、決定事項だ。日程は、聖竜の件から戻ってきてから、考えるとする。」
がーん。決定事項って、私に拒否権はないという事ですか?ひどいーーー!!ぶーぶー!!
「そう嫌な顔でするでない。この世界の住民が、みな楽しみにしていることだ。」
優華の表情で、感情を読み取った王は、苦笑いしながら諭した。
いあ、私には楽しみどころか、拷問なんですけど!候補者の選挙カーのように、にこやかに笑えませんから
しかも、見目麗しい人ならまだしも、このどこにでもいるような平凡なこの顔ですよ?
これをさらして、市中引き回しとか無理ですって・・・。
不満たらたらの優華を気にすることなく、王は話を続けた。
「聖竜の旅の同行の騎士の選別だが、カバリュオに行ってもらう事にする。いま騎士の中では、騎士団長につぐ、剣の腕前だ。同行する他の何人かは、騎士団長アウルスに一任している。」
その場の空気化していたカバリュオに向かって王は目配せをした。
あ、カバリュオさんいたのか・・・まったく気がつかなかったです。気配消してました?
「はっ!騎士団長が、同行の騎士を選出中であります。もう間もなく、王に報告に来られるかと」
「カバリュオ、すまぬが、姫の事をよろしく頼む。」
「御意!」
カバリュオは、表情はまったく崩していなかったが、不機嫌だった。
ますますこの姫様が分からなくなる。先程から見ていたが、上に立つ者としての発言とは思えん。さらに王に対しての不敬なもの言い、態度が気になる。
優華にいたっては、
この人は、そつがないく、スキがなくて、入り込めないというか。これ以上こっちに入ってくんなオーラだしてるし。この人と一緒に旅に行けるのかな?不安・・・。
お互いに苦手意識を感じていた事は、この時はまだ知らない。
一方、聖竜の旅への同行騎士の選出に関して、頭を悩めている騎士団長アウルス。
騎士団長の執務室で、頭をかきむしり、苛立ちをつのらせていた。
本音は、一番に自分自身が行きたいと思っているが、『黒い渦』の件から、騎士団をまとめる騎士団長としては、城を離れることはできない。
うーーん。やはり第1シヴァリエ隊から幾人か、第2カヴァリエーレ隊から幾人か、後は成長著しい者を今後の事を考えて、同行させるべきだろうな。
部屋をノックする者がいた。
「騎士団長 よろしいでしょうか?」
『またか』とアウルスはうんざりしていた。
「姫様と同行できる騎士を選出中であるとお聞きしました。ぜひその同行の騎士に加えて頂きたく!」
朝から同じセルフを何人目から聞かされただろうか?いいいかげん、王にすべての騎士を決めてもらいたいとまで思っていた。
「あーわかった。わかった。」
手を肩まで上げて振り、適当に追い返す。
こんな時に、カバリュオがいてくれたらと、上から目線で有無を言わせず、よってくる騎士を退出してくれたら楽だろうと考えていた。残念ながら、その本人は朝から不在で、明日からの聖竜の旅のため、王のところに行っている。
騎士団長は頭をかかえて、ため息を吐きながら、カバリュオが戻ってくるまで、待つことにした。
その頃の騎士の詰所では
「おい!まだ姫様に同行する騎士は決まっていないのか?」
「ああ、なんでも、王自ら名指した出世頭の副騎士団長カバリュオ様以外が、まだ決まっていないとか。」
「朝から、騎士団長のところに、同行させてほしいと、願い出ているものが大勢きてるらしいぜ。」
「まあオレら、第5部隊オルデンには関係ない話だなー」
その場にいた第5部隊の全員が激しく頷いた。
騎士団には、第1部隊~第5部隊までが存在し、第1が優等生ならば、第5は劣等生という具合になっている。世界に関わる重要なお役目は、第1かもしくは第2に課せられる事が当然で、第5までそんな重要な役目は回ってこない。
町からの通報で、魔物がでたという時は、城の魔法使いと同行し、排除する役目がほとんどである。
しかし、その変わり実践経験が他の部隊より多いため、まれに剣の天才的な腕の才能を開花させたものが、第1部隊に出世していくこともある。副騎士団長カバリュオは、元第5部隊オルデン出身で、この部隊の誇りとなっている。
「カバリュオただ今戻りました。」
その声を待ってましたと言わんばかりに、アウルスは勢いよく椅子から立ち上がった。
「・・・騎士団長、まだ決めかねておられるのですか?」
「そうなのだ。」
アウルスは、頭をぽりぽりかいた。
「・・・出発は、明日ですが?」
「分かっている!この選別した人員を指揮するのは、カバリュオ・・・お前自身だ。」
「はい。」
「お前の意見がほしい。第1部隊はこの2名、第2部隊はこの2名、あと2名の選別をどうするかで迷っている。」
「では、第5から2名を選出してはいかがでしょうか?実践経験が豊富にあり、今後成長著しい者を選別してはどうですか?」
「第5からか・・・」
アウルスは、第5という言葉に難色を示した。
「第5からとなると、異例な事ではありますが、これに関して言わせて頂ければ、心当たりの人材が2名おります。」
こちらは第5部隊オルデンの詰め所。
旅への同行など、自分たちには関係ないと思っている第5部隊の騎士達は、これからみんなで町へ繰り出して飲みに行こうと、陽気に騒いでいた。ところがそんな空気は一瞬にして、ある人物によって凍りついた。
その人物とは、騎士団長アウルスだった。
「第5部隊オルデンの騎士長はいるか?」
「はっ!ここに!」
「モンソン!サルバティエラ!両名を明日から聖竜の旅の同行者として任命された。明日は早朝より出発のため、旅支度を早急に整え、早めに就寝すること。以上である。」
騎士長は、アウルスからの指示書を受け取った。
信じられないと、騎士長はまじまじと指示書を眺めた。指示書には、王のサインがしっかりとされており、両名の騎士名の名前も記載されていた。
『「「まじかよ・・・」」』
みんなそれぞれの顔を見合わせて、指示書を見ても、実感が沸かないでいた。