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もう一度異世界へ  作者: 池田 真理奈
22/74

21 牢にふたたび一樹くん

優華は、心晴れ晴れと爽やかな朝を迎えていた。

優華の部屋には、小屋の中で、ごそごそと白い毛玉が動いている。昨日、王からもらったウサギだった。


テーブルの上には、見慣れない物が置いてあった。

それは、一輪の真っ赤な薔薇。


「わおーー美女と野獣みたい。誰だろう?」

首をひねって、頭に思い浮かべていたが、思いあたるはずもなく、小さな花瓶に薔薇を生けた。

素早く入浴し、服を整えて、これから朝食でも作ろうかと思ったとき

ディークラールハイトと伴って、1人の騎士が優華の部屋を訪れた。


「はじめまして、姫様。私は副騎士団長カバリュオと申します。」

端整な顔立ちに、すーと頭を下げる姿が美しい美青年に優華は驚いた。


すごい~~美青年!

隣にいるディーさんと並んでいると、ダブルで美しすぎる~~。ふたりとも見えない花をしょってるよ。

ここは宝塚ですか?それとも妖精の国ですか?乙女ゲームの世界ですか?

『きゃあー』ディーさんとこらぼったら、さぞかしステキなネタが描けるだろうなーぐふふ。


「姫??」

「あ、ごめんなさい!副団長さんってことは・・・カバリュオさんって、アウルスさんの部下ってことですか?」

「はい」

アウルスとは真逆のタイプだなーと優華は素直に思った。


「姫、大変申し上げにくいのですが・・・ご友人殿の件なのですが・・・」

「ええ?また一樹がなにか?」

「昨日、騎士の訓練場において、騎士たちにいきなり剣を振り回すという行動をされまして。」


ええ?騎士に剣を振り回す??頭おかしいんじゃないの?

相手は、プロですよ!プロ!日々訓練して、剣の腕を切磋琢磨してる方達ですよ!

一樹ーーーもう救いようがないなあ・・・ はあ・・・。


「詳細を詳しく周りにいた騎士たちに聞いたところ、その・・・」

副騎士団長カバリュオは、言葉を続けようとしたが、躊躇し、なぜかディークラールハイトに目配せをし、目配せされた方は苦笑いをしている。

優華は、その雰囲気を感じ取り、きっとよくない事だろうなあと嫌な予感しかしなかった。


「ごほん!え・・・騎士達が、ご友人殿にディークラールハイト様を女性と勘違いしている事を、指摘したのちに、いきなり剣を振り回したということです。」


ええーーーー!!何その理由!意味わかんないんですけど・・・。

そういえば、雄也がディーさんの事を女性と勘違いしてるって、言ってたよね・・・。すっかり忘れてた。

あっけにとられた優華は、考え込んだり、青ざめたり、固まったり。

その様子を見ていたディークラールハイトは、くるくる変わる優華の表情にクスクスと笑っている。

副騎士団長カバリュオは、そんな優華に少し驚いていたが、言葉を続けた。

「僭越ながら姫様、度重なって大変申し上げにくいのですが、ご友人殿のは、凶行により、牢に収監されております。」

「ああ!もうそんなの当然ですよ!!騎士さん達にさんざん迷惑かけたのだから、当たり前です。それより、私の友人の事では何度も大変ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。」


優華は、副騎士団長カバリュオに深々と頭を下げた。

副騎士団長カバリュオは、目を「ぱちくり」とさせていた。自身は反対に責められると思って来たのに、まさかの姫からの謝罪を受けるとは思ってもみなかったからだ。



ディークラールハイトと副騎士団長カバリュオは、優華との面談のあと、城の廊下を一緒に歩いていた。

「驚きましたか?」

「・・・はい。」

副騎士団長カバリュオは混乱していた。自身の事でもないのに、あれから何度も頭を下げられて、こちらが恐縮してしまうぐらいだった。

以前、第2部隊シヴァリエーレの騎士が、優華に報告に行ったときの、聞いた話をふと思い出した。

『友人の事で何度も頭を下げられたので、驚いたと。』あまり真剣にその話を聞いていなかったが、その報告に偽りはなかったのだと、改めて感心していた。


「私は、姫が以前こちらに来られた時は、遠くから顔を拝見したぐらいで。」

「そうですか。姫は、とても心根が優しく、くるくる表情を変えて、周りを温かくされる方ですよ。」

ディークラールハイトから優華の人となりを聞いて、珍しく女性に興味が沸いた。

カヴリュオはその容姿から、女性にはモテるが、人を寄せ付けないところがあり、寄ってくる女性たちをうとましく思っている。自分自身を飾らず、感情をさらけ出し、寄ってくる女性たちとは、まったく毛色の違う優華に少し興味が沸いたのだった。



その頃、雄也とさゆりに副騎士団長カバリュオから聞いた事情をすぐ話しに行くと、2人とも怒るどころか、あきれかえってしまった。

「アホだろ?」(雄也)

「馬鹿なの?」(さゆり)

やっぱりそうなるよね・・・。


「一樹に直接会いにいきましょう。知美の事も話さないといけないし。」

うんうんとさゆりの意見に雄也も優華も同意した。



優華達は、王の許可を得て、ようやく久しぶりに一樹と再会を果たすことができた。

しかし、ここは城の地下にある『牢』である。何かしら犯罪を犯したものが収監されるべきところ。

本来なら、この3人にはまったく関わりのない場所だった。


雄也とさゆりと優華の3人は、一樹の牢の前にいた。昨日は、騎士達に剣を振り回すという凶行を犯し、収監されている。

一樹は、元の世界にいた同じ人物と思えないぐらい豹変し、牢の中で暗い影をしょって、うずくまって、独り言をブツブツと唱えていた。

「おーい一樹生きてるか?おまえさーいったいどうした?」(雄也)

「へんじがない。ただのしかばねのようだ。」(一樹)

「意味ワカンネー・・・」(雄也)

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ・・・」(一樹)

「・・・早く元の世界に帰ったほうがいいわね」(さゆり)


優華達は、一樹が普通に会話できる状態ではないと悟り、重要なことだけ伝えることにした。

「魔方陣が準備できたら、引きこもっている知美を連れて、一樹も元の世界に戻るからね!」


優華が叫んで、3人とも牢から離れようとした時、一樹がしぼり出すように言葉を発した。


「・・・みんなは、ディーたんが、男って知っていたのか?」


今更ながらの質問に、3人は顔を見合わせて『「「うん」」』とうなづいた。


「オレだけかよーーー!!」

心の奥から叫んだ一樹の声は、牢の中で大きく響いた。

そんな様子を見ていた優華達は、やはり普通に会話できないと、一樹の牢から去っていった。


その夜遅く、ヒソヒソと小さい声が一樹の口から発していた。

「気持ちを伝えるのは言葉だけじゃないよ」

「そうだよ、ティファ!言葉だけじゃないんだ!!」

一樹が、優華たちが帰ったあと、ひとり事をつぶやいていたのは誰も知らない。



優華は、一樹のところから戻り、部屋で、腕を組んで、真剣に悩んでいた。足元には、白いウサギが毛づくろいしている。

この世界にはカレー粉はないみたいだし、味噌もないし、うーん・・・・。

いったい何を作ったらいいのか、もしくは何を作れるのかなあ。

その1時間後、優華は王の執務室にいた。


「王様、忙しいところすいません、どうしてもお願いがあるのですが。」

「今度はなんだ?ウサギをもっと増やしてほしいのか?」

クスっと笑顔で答えた。

「え?あーーそれは願ってもないことですが・・・今回は違います!城の調理場を貸して頂きたいのです!」

「調理場?」

また突拍子もない事をと思いながら、王は内心楽しんでいた。

「はい!この間から一樹のことでいっぱい迷惑かけた騎士さん達にお料理を用意したいのです。」

「ふむ。そういえば、姫は自分の食事は自分で作っているのだったな?」

「はい!それで、調理場をお借りしたいのと、食材を分けて頂きたいと思いまして、ダメですか?」

優華からのたのみならば、無碍にもできない。しかも、自身のためではなく友人の謝罪のためだと言う。

調理は優華自身で行うと言っており、調理場は城の食事に差し支えなければ問題はない。問題は、食材だけで、あとは反対する理由が見当たらない。

「ふむ、食材は何とかする。いったい何を作るのだ?」

「クリームシチューです!」



優華は、騎士の訓練場で食事を配っていた。

いつもの白いワンピースではなく、Tシャツにパンツ姿にエプロン、三角巾をかぶっている。

「いっぱいあるので、たくさん食べてくださいね!」

騎士達は、まさか・・・姫が自ら食事を作ってくれて、さらに給仕までしてくれるとは、夢にも思わなかったらしく、相当驚かれた。


騎士たちに出された食事は、「クリームシチュー」

この世界には、『牛乳』はあるが、それを使って調理するという事はなかった。牛乳は、飲むものであり、料理に使うことはなかったのだ。それを知った優華が、このメニューを思いついた。

牛乳を搾るときにできる上澄みの「生クリーム」も使われることなく、捨てていると知り、その「生クリーム」を分けてもらって、完成したのが今回のクリームシチューだった。


「うめえ~~」

「ほんとだ!」

「こんなの食べたことないな。」

ワイワイガヤガヤと、騎士達は口ぐちに褒めちぎっていた。

この世界は、シチューといえば、煮込んだ野菜に塩で味付けをするぐらいで、そこにルーをいれたり、なにかのソースを足すということがなかったので、牛乳と生クリームが入った「クリームシチュー」は珍しく、とても美味しかったようだ。


「あらー美味しそうなの食べてるわねー。」

「私も頂いて、いいですか?」

どこかで噂を聞きつけてきたのか、ベンダーバール、ディークラールハイト、ストラヴィンが現れた。

「もちろんです!」


ストラヴィンは姫のいつもの装いと違うことに気づき、まじまじと見て、顔を赤く染めていた。

「ストラヴィンたら~なにー赤くなってるのよー。姫がエプロン姿だからかしら?」

「ちげって!オレはもともとこんな顔だ!」

「やだー照れちゃってー」

相変わらず、ベンダーバールはストラヴィンをからかい、楽しんでいた。

ストラヴィンは、ベンダーバールの手合わせの件から、気性が少し穏やかになったと、世話するメイドから口々に言われている。ストラヴィンの中で、何かが少しづつ変化していることは、本人はまだ気づいていない。


優華は、自身が思った以上に「クリームシチュー」が評判だったことがとても嬉しくて、上機嫌だった。

そうだ!あとで、書庫にいるシェルフトさんと王様にも持っていこーと。



ひとりだけ、そんな優華をみつめる冷たい目線があった。

騎士団長の執務室から、様子を伺っていた副騎士団長カバリュオだった。

「私の命を預けられるお方なのか、じっくり見定めてもらう」

その言葉の真意は、分からなかった。




20話超えました。つたない文章にお付き合い頂き、ありがとうございます。

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