18 一樹捜索隊
騎士たちが出立する城門は、優華が初めてこの城に来た時に使用したものとは違っており、町へ向かう際に利用するもう1つの城門だった。
これから人を探しに行くというよりか、戦争でも始めるじゃないかなーという雰囲気の騎士たち。そんな騎士たちを手を振りながら、見送る優華。友人ひとりのためにこんなにもたくさんの人がと、申し訳なかった。
「わざわざ姫様自らお見送りして下さっている。ご友人殿を一刻も早くお探しするぞ!」
騎士団長アウルスは、かなり大きい声を張り上げて、騎士たちの志気をを高めているようだった。
「はっ!」
騎士達は、胸に手をあててそれぞれ気合をいれている。
いや、そんなに気合いをいれなくても・・・ただ手をふってるだけなんですけど・・・。かなりひきぎみで・・・。この世界の人たちは、みんな私への『愛』が重すぎなんだよ。せいぜい私は、ドジッコメイドがお似合いなのに。
今の勢いだと、みつかった一樹は、騎士たちに何をされるか分からないなぁ
「姫に心配をかけたものは死刑!」とか言いかねない。アリエソーデコワイデス・・・。
一樹のことを心配になった優華だが、自業自得と気持ちを切り返していた。
ゴトボルクが以前話してたように、ここは私達の世界との常識と違うという言葉に、今更ながら実感していた。
騎士たちは、城門から町へ向かって出立し、あんなに騒がしかった城内は、静けさを取り戻していた。
雄也は静かになった城門で、ふたりに話はじめた。
「一樹の奴、こっちの世界来てから、性格変わったよな?」
優華とさゆりは無言でうなづいた。
一樹は、いつも冷静で、どちらかと言えば無口で、ゲームの事になると話が止まらなかった。しかし、この世界に来てから、以前の一樹より生き生きとして、生まれ変わったように行動的になっていた。
「しかも、一樹の奴・・・ディーさんの事、絶対女と勘違いしてるよな?」
ええ?確かにディーさんは、そのへんの女の人より、ずっと、ずっときれいですけど、まじですか?
一樹、だいじょぶかな・・・。
「オレさー、一樹と長い付き合いだったけど、あいつのことよく分かってたつもりだった。でも、この世界にきて、分からなくなった・・・」
「環境が変われば、人はそれに順応しようとして、変わっていくものよ。」
さゆりは、さっきの冷たい目線ではなく、いつもの表情にもどっていた。
「順応できない人もいるけど・・・」
そうポツリとつぶやいたさゆりの言葉の裏にある意味を、理解できないでいた優華は、不思議そうにさゆりを見ていた。
同じ場にいた雄也は、その言葉の意味を理解していたため、何か口にしてしまうと、気まずくなると思い、騎士たちが出立した城門を眺めていた。
ベンダーバールとディークラールハイトと優華達の5人で、優華の部屋で「一樹捜索隊」の報告を待っていた。
部屋の中をうろうろしていたら、ベンダーバールに諭されて、椅子に強制的に座らされるはめになった。「もうーードジッコ姫ってば、そんなウロウロしてたら、絶対転倒するから、じっとしてなさい!」
ハイっと大人しく座っていたら、雄也がつっこんできた。
「まさか、優華、この世界でもすでに転倒したのか?」
優華は、恥ずかしくて、無言でコクとうなづいた。
「ぷっあははーーー優華らしーー」
雄也が大笑いしているところに、すかさずベンダーバールが追い込みをかけた。
「転倒するのが特技ですって、聞いたときは驚いたわー。」
「ぶっ!確かにどこでも、何でもないとこでよく転ぶから、特技って言えるな!!」
「誰にもマネできない特技よねー」
「確かに!」
雄也は、お腹をかかえて大笑いして、ベンダーバールと意気投合している。
私だって、好きでこんな特技がある訳じゃないんですよーぶーと膨れてた。
優華が、ぶーと膨れていると、意外な来訪者が現れた。
「姫ーーー何度考えても、一樹殿の最後の字の意味がわかりません!」
いつも書庫や研究室にこもって、めったに姿を現さないシェルフトが突然部屋に入ってきた。
えっとそれって、手紙の顔文字のことだよね?あれって、別に特別な意味はないんだけどなあ・・・。
優華は、シェルフトが、いつもすました顔でいたため、焦っている表情を見るのは初めてだった。
えっと、どうやって説明したらいいのやら・・・?こっちには電話どころか、携帯なんてないだろうし、絵といえば・・・絵じゃないし・・・文字でもないし・・・?うーーーん。
優華は、頭をめぐらしても、シェルフトを納得させられる答えが浮かばなかった。
そうだ!
優華は『ニヤリ』と笑って、部屋にあった紙に、ある顔文字を描いた。
その顔文字を、不思議そうにベンダーバールとディークラールハイトはのぞきこんでいた。
二人には、その文字のような絵のようなものは、何であるか皆目分からないでいた。
さゆりと雄也は、そんな優華の行動を生暖かく見守っている。
「シェルフトさん、これ宿題です。これが分かれば色々教えてあげます」
「\^〇^/」
差し出したのは、紙いっぱいに描かれた優華の世界でいう「顔文字」だった。
それを手渡す優華を見ていた雄也は、笑いをこらえられずに、爆笑している。『守り人』のふたりは、意味がわからず、「ぽかーん」としていた。
手渡されたものを、シェルフトは「じー」と眺めて、独り言をブツブツつぶやいて、部屋を出ていった。
優華は、以前シェルフトの講義を長々と聞かされたお返しを、ようやくできたと満足していた。
雄也とさゆりは苦笑いをしながら、あいからわずだなーとあきれている。
べンダーバールが優華の耳元でコソコソと話しかけてきた。
「ねーねー姫、あれってワタシだけに意味をコッソリ教えてよー」
「ダメです~秘密です!」
「ケチねえー」
ベンダーバールより少しだけ優位に立てたようで、優華は嬉しくなり、にっこりと笑った。
そんな優華を可愛らしく思い、いつもの調子で口づけをしてしまいそうになったベンダーバールだった。
それにしても、あんなに姫!姫!と言っていたストラヴィンが、この場にいないことに、ベンダーバールは違和感を感じていた。
「ちょっと探りいれるかしら・・・」
ボソッとつぶやいた言葉は誰にも聞こえなかった。
しばらくすると、第2部隊のカヴァリエーレの騎士が優華の部屋を訪れた。
「姫!先程早馬が到着しまして、ご友人殿を無事捕獲したと知らせが入りました!」
さすが優秀な騎士さん達だ!みつけるのがはやいなあ~と関心していたが、騎士のある言葉にひっかかった。
『捕獲』???いま、『捕獲』って言ったよね?
『保護』じゃなくて?? 『捕獲』ですか・・・嫌な予感がてんこもり・・・するんですけど・・・。
騎士団長アウルスによると、一樹は城を出た後、初対面の「冒険者」の人と意気投合して、酒場でさんざん飲んだあと、他の店にもはしごをして、ふたりともひどく酔って、散々周りの人たちにくだを巻いて、飲み足りないと、寝ているお店の人を起こして、無理やり酒を出させた挙句、森の中で冒険者と仲良く寝ていたらしい。
報告を聞いて、一樹とは思えない行動に、優華たちは言葉を失っていた。固まっていた優華たちを追い討ちをかけるように騎士が言葉を発した。
「えー大変申し上げにくいのですが・・・ご友人殿を発見後に暴れた為、少々てこずりまして、牢へ収監しております」
はい??『保護』じゃなくて、そりゃあ『捕獲』だよ!どんだけ色んな人に迷惑かけてのよーー!!
優華達は、一樹が無事だったことを安心したが、報告内容が内容だっただけに、頭が痛くなったのは言うまでもなかった。
優華は、いいづらい事を報告してくれた騎士に対して頭を下げて謝罪し、反対に恐縮されて、お互いに頭を下げ続けるという、変なポーズになってしまった。
ベンダーバールとディークラールハイトはその様子を見て、くすくすと笑いだし、騎士を諭して、ふたりとも、優華の部屋から退出していった。
ふたりが部屋を出たあと、はあーと大きくため息をついて、牢に入っている一樹に会いに行こうか思案していると
「優華、ちょっといいか?」
雄也がいつもと違う真剣な眼差しで、優華をみつめた。
「あ、うん。どうしたの?」
いつもと違う雄也の雰囲気に、何か嫌な予感がした。