17 一樹くんどこですか?
前回に引き続き、キャラのラフ画が下にアップされています。
翌朝、優華は自身で身支度し、朝食を作った。
部屋にはミニキッチンがあり、簡単な調理なら可能だ。メイド達が昨日の内に、朝食の食材だけを用意してくれたようだ。久しぶりに自身で作る朝食は、鼻歌まじりでウキウキ気分になる。
「うーん、やっぱりメイドさん達に見られないで食事するっていいなーー」
両手をぐーんと伸ばし、異世界の「茶」を堪能していた。今日は騒がしいストラヴィンさんの足音が聞こえてこないし、メイドさん達の視線がないのでのびのびできるなぁ。
この数日間は、メイド達に見られながら食事するのは、慣れない優華にしてみれば落ち着かなかったのだ。
優華がのんびり朝食をとっていると、部屋をノックする者がいた。
「姫、ちょっといい?」
「あ、はい。どうぞー」
手をふりながら、朝早くから現れたのは、ベンダーバールだった。
部屋に入ると、いつもいるはずのメイド達の姿がないことに気づいたようだった。
「あら?メイド達は?」
「王様にたのんで、他のところに配置換えしてもらいました。メイドさん達が悪いのではないのですが・・・落ち着かなくて、自分の事は、自分でしたいので。あ!ベンダーバールさんお茶どうぞ」
カップをひとつ食器棚から取り出して、ポットの茶を注いぎ、ベンダーバールに椅子に座るよう促した。
「ふーん、王が許したのねー以外だわ。ありがとー姫のいれてくれたお茶は美味しいわー」
おかましゃんとはいえ、ベンダーバールさんは端正なきれいな顔してるし、しかも今日もバッチリメイクしてる。朝の光にあてられて、とっても絵になるなあと関心していた。
「ところで姫、昨日鬼のストラヴィンを抱きついて、止めたってホント?」
優華は思わず「ブッ」と紅茶を吹いてしまった。
「ゴホフォゴ・・・ど、どこでその事を??」
「やだーー吹いちゃって、城のみんなが知ってることよー」
ええーーー『守り人』の人だけじゃなく?城中??どんだけ噂好きの集まりなの!!
あの時は、確か部屋にはメイドさん達しかいなかったから・・・噂を流したのはメイドさん・・・
「えっと、なりゆきというか、あのままだと人を殺しそうだったので、思わず」
「ふーん、じゃあワタシも赤鬼になったら、姫が思わず抱きついて、止めてくれるのかしら?」
ベンダーバールは優華の顔に自身の顔を近づけてじーとみつめてきた。
か、顔が、近い・・・それは、『抱きついて』というお願いをされてるってコトデスカ・・・?
「ぷっぷ、やだー冗談よーー姫ったら、真面目な顔して、カワイイ~ほんと素直なんだから~」
ベンダーバールは、ケラケラと笑い出したかと思うと、優華のほっぺに『ちゅっ』と口づけをした。
またキスされたーーこれで2回目・・・優華は、顔を真っ赤にして固まっている。
「やだーー顔赤いわよーほんと姫って、食べちゃいたいわー」
「食べるって、私はお腹に脂身が多くて、美味しくないと思いますケド・・・?」
ベンダーバールは、優華の発言に目をぱちくりさせて固まって
「ぶっあははーーー!姫だめ、お腹が痛いわーーあはは」
机をばんばん叩いて、お腹をかかえて笑い転げてしまった。
はっ、食べるって、あーーーーーーーそうだよね。食べるって、男と女の関係ってやつですよね・・・またよく考えもせずに・・・また失言しちゃったよ。
優華が気づいた時には、時すでに遅し、昨日の「特技事件」以来から優華の素が、あらわになってしまった。
もう今更かしこまっても、手遅れだよね・・・はあとため息をついた。
「失礼します!」
笑い死にしそうなベンダーバールは、その声によって我に返り、来訪者に目を向けた。
来訪者は、甲冑を身にまとったキリっとした騎士だった。
「大変申し上げにくいのですが・・・姫のご友人の男性の方が、昨日の夜遅く、城を抜け出したようで・・・現在行方不明であります。申し訳ありません!」
騎士は、深々と頭を下げて優華に謝罪した。
はい?はい?はい?城を抜け出したのーーええ??
それって、それって、一樹のことだよね?雄也は、城から黙って出て行くなんて考えられないし。
「わたし、すぐに町へ行って、一樹のこと探して来ます!」
いてもたってもいられなくなり、探しに行こうとした優華は、ベンダーバールに手を引かれて、止められた。
「姫!町にはまだ1回しか行ってないのよね?」
コクコクコク(うなづく)
「じゃあ町の地図とか詳しくないのよね?」
コクコクコク(うなづく)
「町に行ったら迷子になる可能性大じゃない?」
コクコクコク(うなづく)
「だったら、城の騎士と兵士にまかせなさい。ドジッコの姫が行ったら、余計にややこしくなるわ」
返す言葉もありません・・・。ハイ・・・。シュンっとなっていると
「だいじょぶよーこの城の騎士は、とっても優秀よーね?」
報告してきた騎士にウインクをして、微笑んだ。
「は、はい!姫のご友人を必ずみつけてまいります!」
ベンダーバールのウインクに一瞬同様を見せた騎士だったが、何事もなかったように部屋をあとにした。
一樹を探すことはできないけど、せめて騎士たちのお見送りぐらいはと、城門目指すことにした。
城の城門の前には、数多くの騎士が集まって、ワイワイガヤガヤと騒がしかった。
騎士団長アウルスが優華をみつけて、声をかけてきた。
「姫、お見送りとは、恐悦です。今回は2部隊編成で、第1騎士部隊シヴァリエと第2騎士部隊カヴァリエーレも捜索に参加させていただきます」
騎士団長アウルスによると、第2部隊カヴァリエーレは、隠密行動や情報収集のために行動する部隊となっている。そのため、今回の一樹の捜索に向いていると判断し、第1、第2の部隊編成でということになったらしい。
うーん・・・すごく大げさになってる気がするけど、気のせいかなー。
いや・・・気のせいじゃないよ。
私たちの世界なら、成人男性が家を抜け出したとしても、こんな大騒ぎにならないもの。
認知症のおじいちゃんなら警察ってなるけど。
「あ!優華!」
さゆりと雄也が私の姿をみつけて、こっちに走り出してきた。
「一樹の奴、朝起きたらいなかったんだ。書庫とか探したけど、どこにも姿が見えなくて。しかし・・・すごい騒ぎになってるな・・・」
「うんうん」
「たかが、ゲームおたくのイタイのが城を出ただけなのに」
さゆりは、冷たい目でぼそっとつぶやいた。
さゆりはいつもこんな冷たい発言のするタイプじゃないのに、さすがに今回の件は、一樹に対してあきれたようだ。
朝からお祭り騒ぎ状態の城門、人を捜索するというより、戦にいきますという雰囲気に3人は、呆然としていた。
ディークラールハイトが呆然とした優華たちの姿をみつけて、申し訳なさそうに1枚の紙を手渡した。
「あの、このような紙が私の部屋の前に置いてあったのですが・・・おそらく姫のご友人が書かれたものかと・・・文字の最後に絵のような、暗号のものが描かれていまして、シェルにも解読できないと頭を悩ませていまして・・・」
その紙には、こう書いてあった。
『シェルフト師匠、ディーたん、ちょっと城を抜け出してきます。かならず戻るので、僕のことは探さないでね( ̄ー ̄)ニヤリッ 一樹より』
優華とさゆりと雄也はその内容を見た途端、一樹を殺してやろーとそれぞれに殺意が芽生えたのでした。
http://22238.mitemin.net/i256846/
騎士団長アウルスもイメージ通りでした。バカロット様ありがとうございます。