16 それぞれの思い
イラストレーターのバカロット様に描いて頂いたラフ画を一番下にアップしています。
ストラヴィンは、今朝起きた出来事で心を乱していた。
それからというものの、その時の情景が頭から離れず、ちらちらと何度も横切って、イライラしてしまう。
気持ちがもやもやし、いつまでもすっきりしないのだ。
「ああーーーーーくそーーー!」
髪をくしゃくしゃと手でいじる。
優華に抱きつかれたところをそっとさわってみる。細い腕、背中で受けた胸の感触、少し震えていた身体。
思い出すと、心臓が高なり、優華の顔が目について離れない。
以前、異世界にきていた優華に対しては、「敬愛」という感情だった。記憶を失った優華との間に、「敬愛」とは違う感情がストラヴィンの中に芽生えつつあり、戸惑っている。
「ああ!わけわかんねーーー!!」
ストラヴィンは、もやもやする気持ちを抑えきれず、立ち上がり、あるところへ向かった。
ストラヴィンが向かったのは、城の中にある騎士の訓練場。
城の中に存在してると思えないほどの広さをもち、乗馬・剣術・槍術が訓練できるよう、さまざまな武器が揃えられており、1日中利用できるようになっている。
騎士は、第1から第5までの部隊が所属しており、その中でも「第1シヴァリエ隊」は、精鋭揃いのため、騎士の中の騎士と呼ばれ、町を歩けば民衆から尊敬の眼差しをむけられる。
騎士になるには、5年間の厳しい見習い研修期間を終え、その後は試験があり、その難関をくぐりぬけたものだけが『騎士』として認められる。剣の腕前だけでなく、人徳も問われるため、強いからというだけで騎士にはなれない。
そんな騎士たちが普段訓練する場で、ストラヴィンはひとりで大剣を振り回し、素振りを行っていた。
もやもやする霧がかかった気持ちを晴れ晴れとするために・・・。
「おい・・・ストラヴィン様が来られているぞ?」
「ほんとだ」
「相変わらずスキがない動きだなー」
「おい、誰かお手合わせさしてもらえよ」
『「「無理」」』
その場にいた騎士の全員が、声を揃えて答えた。
ストラヴィンは、通常の剣より3倍はある大きさの剣を軽々と、持ち上げて、ブンブンと振り回している。
剣の腕前は、腕力だけでなく、相手の動きに素早く対応し、圧倒的に打ちのめしてしまうのだ
ストラヴィンと剣を交えることができるのは、『守り人』と王ぐらいと言われている。
優華と中庭で別れたのち、ディークラールハイトは、城の廊下でベンダーバールと遭遇する。
「あら~姫とふたりっきりはもうおしまい?」
「妖精の話をしたら、ぜひご覧になりたいとのことで、中庭にお連れしただけですよ。」
「違和感なのよね・・・」
「?・・・何がですか?」
ベンダーバールの主語が抜けていたため、首をかしげる。
「姫のことよーそれも嫌な違和感じゃないのよ」
「ああ、そうですね」
優華の名前がでると、ディークラールハイトは納得した。
「以前の姫って、スキがなかったわー」
「今の姫は、スキがありすぎて、守ってあげたくなるような。不思議な気持ちになりますね。」
「それ!ディー分かってるじゃないーそうなのよー」
「先程、姫が自分にはメイドはいらない。自分のことは自分でするからと。」
「ええ?いらないって、あのドジッコさんがだいじょぶかしら?」
「うーん、どうでしょうか・・・先程も転倒され、あやうく怪我するところでした」
そう言いながら、ディークラールハイトは先程の優華のとのやりとりを思い出し、クスクスと笑い出した。
「珍しいこともあるもんねーディーが思い出し笑いなんて!」
優華の存在は、本人が気づかぬ内に『守り人』の中で少しづつ影響を及ぼしていた。
優華はその頃、王の執務室にいた。
突然の訪問で驚いた王だったが、優華からの初めての面会希望で、笑みを浮かべていた。
王自ら2回ほど優華の部屋を訪れたが、優華本人から王に会いに来るというだけで、心が躍っていた。
「王様、えっと、私は自分のことはなるべくしたいと思っています。メイドさん達はとてもよくして頂いて、大変申し訳ないのですが・・・お断りさせてください」
「それは、世話するものは、いらぬと言うのか?」
「はい、私のわがままでまったくメイドさんたちには非はありません。私のせいでメイドさんたちが職を失って、城を追い出されることがあると嫌なのです。」
「ふむ、分かった。姫がそう望むのならば、姫つきのメイド達は、よその部署へ回すこととする。」
「ああ!よかった。ありがとうございます王様!!」
優華は、今までずっと我慢していた事を吐き出せて、気持ちの重みがとれて笑顔になる。
「そんなに嬉しいことなのか?」
「はい!自分の事は自分でしたいです。お茶も自分でいれたいし!」
そんな事が嬉しいのかと、疑問に思った王だったが、優華からの初めての希望を叶えられて満足していた。
王は、優華からの頼みであれば、なるべく聞いてやりたいと思った。
「今度、王様が部屋に来られたら、ぜひお茶を飲んでいってください。」
王は、優華が自らいれてくれるお茶を今すぐ飲みたくなったが、『黒い渦事件』の調査報告書の指示に追われていたため、後日におあづけすることになった。
優華は、意気揚々と王の執務室を退出し、スキップで走り出した。
やったーー!これですっきりした!!
明日は、さゆりと雄也と一緒に知美のお見舞いにいってみよう。
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頭で描いていたストラヴィンそのままで思わず叫んでしまいました(笑)バカロット様ありがとうございます。