第一章 第1話 邂逅
【自然属性の魔法】
『四元素』や『五行』などの属性を合わせた物を指します。
火水風土氷雷木金光闇の10個が自然属性の基本です。
普通の魔法使いで2,3個でも使えれば上等、5個使えれば尊敬されます。
10個全部使う人は滅多にいません。……え、いる?アレは特別です。
使い方は攻撃や防御、補助など色々あります。
ただし、回復魔法は火、水、木、光にしかありませんし、使える人は限られます。
* * *
季節は5月頃。
ここは、ファンタジア王国の魔法学園。その中庭。広く、木が何本も生えている。
新入生がようやっと学園に慣れた頃。……まあ慣れていない人もいるかもしれないが。
生徒は誰1人としていなかった。おそらく授業中なのであろう。
薄い桃色の髪の毛を背中に伸ばした少女が中庭を横切っていた。
彼女は1-Aのルーナリア・ヴァンホーエン。授業が早く終わったので、学校内の図書館への道のりを進んでいた。
図書館へ行く目的は1つ。頼んでいた本が来たという連絡を貰ったので、その本を読むために急いでいた。
彼女は自分が未熟者かつ半端物だとわかっている。
自然属性の基本魔法をいくつも使用できる?ステージⅡ以上の魔法使いを倒せる?先代第9位を倒して十傑になれた?
だからなんだ。他の十傑には自分は勝てない。自分は未だにステージⅠだ。自分の『ジョーカー』すら使えない。
このままでは『目的』を果たせない。
だからこそ学ばなければならない。
だからこそ十傑になった。
図書館の禁書クラスのエリアに立ち入れるようにしたのだ。
強く、もっと強くなる為に。
ピシッ
妙な音が聞こえた。
何かがひび割れるような音が聞こえた。
「な……何だ?」
早歩きの足を止めたルーナリアが音源の方へ振り向く。そこには……、
普段と変わらぬ中庭の光景に罅が入っていた。
まるで、写真に亀裂が走っているかのように。
その亀裂は少しずつ、少しずつ広がっている。
———侵入者!?しかも時空魔法!?
時空魔法———時間と空間の魔法を指す。この二つは密接につながっている為、一緒にされることが多い———は使い手が少ない。一部の魔法を除き、適性があってもかなり複雑で、消費魔力が多いうえに危険なのだ。
ある程度普及している転移門———瞬間移動ができる装置。長距離を移動可能———には使用回数と移動限度があり、もはや生活必需品と言っても過言ではないアイテムボックス———ゲームでよくある色んな道具が入る袋———には容量限度がある(最高ランクの十数トン物が入る物は超々高級品。一般普及している小さな倉庫1つ分の容量でも結構高い)。
無論、ステージⅡ以上の魔法使いで空間系統の能力を使用できるものはいるだろう。それでもそうヒョイヒョイ移動できるものではないはずだ。
この学園は貴重な品が沢山ある。もしかしてそれが狙いだろうか?
広がりつつある亀裂に対して、ルーナリアがとった手段は迎撃準備だった。
すぐさま、自分の魔法発動補助装置(通称『発動機』)である左右の腕輪を構え、拘束の魔法を2種と幾つかの攻撃の魔法を同時に用意する(同時展開は結構難しい。右手と左手で別々の文字を書くような物)。
この時、警備員か風紀委員を呼ぶべきかとも思ったが、いつ侵入者が出てくるかわからないので余裕がなかったのである。
———自分は弱い。十傑最弱だろう。でも……それでもやらなきゃならない!
ピシッ……ピシッ……
亀裂がドンドン大きくなる。
ピシピシピシ……バキャッ!
遂に空間の亀裂が粉砕し、そこから人の拳が出てきた。血塗れの人の右手だった。
その右手が破れた空間の端を持つと、一拍遅れて現れた左手も空間の端を持った。
そして……
バキバキバキッ!
空間を引き裂いた。まるで新聞紙か発泡スチロールの板でも引き裂くかのように。
引き裂かれた空間がある程度の大きさになると、そこから人が出てきた。
その人が出ると空間は一瞬で修復される(修正力の効果)。
見るからに怪しい人物だった。
黒ずくめの服装。頭にはフードを被っている。
目深に被っているため、表情は伺えない。
暫く辺りをキョロキョロしている。
そして、急に顔を伏せ……、
「クククククク、遂に!遂に!遂に!遂に出れた!!!やっと!やっと!やっと!やっと帰ってこれた。アッハッハッハ……」
狂ったように笑い始めた。
本当に嬉しそうだった。
この時のルーナリアはまだ知らなかった。
この出会いが自分の運命を変えることになることを。
【ファンタジア王国】
この物語の主な舞台です。
本文でも少し述べられたと思いますが、地形が凄まじく変形したので、読者様が思い浮かべる世界地図は全く当てになりません。くっついたり、離れたり、捩じれたり、カット&ペーストされたりと滅茶苦茶のハチャメチャになってしまったので。
例を上げるのなら東京タワーの隣にエッフェル塔が立っているという状態になったそうですよ。
大陸国家であり、海に面しているので、海産物が取れ、主な輸入品にもなっています。
街並みは……そうですね、そんなに高い建物はありません。昭和の街並みを思い浮かべればいいかもしれません。因みにコンビニはありますよ。よかったですねー。
王国だけあって王様は勿論います。君主制で政治を行っていますが、王様の暴走を抑止するためのストッパー機能があります。
あ、そうそう、権力分立はしています。
していないと暴走しますからね。