僕は彼女に恋をした。
僕は彼女に恋をした。
ふわふわしたショートボブ、目鼻は整い、胸もそこそこある。
運動神経がよくて、性格はちょっと男勝り。
趣味は音楽を聴くことらしく、話していたのを聞く限りでは洋楽が好きらしい。
だから最近は僕も洋楽を聞くようにしている。
でも、僕が好きになったきっかけは、そこの何処にもない。
それは、数週間前の事だった。
梅雨が明けて、図書委員だった僕は本の陰干しをしていた。
雨も降らなくなったというのに、僕の心はこの重労働に曇り模様だった。
ジャンケンで負けて、一人で最後の本棚の本を干している時だ。
夕暮れ時、その日は夕日がとても綺麗だった。
蒸し蒸しとした部屋の中を、さらりと心地よい風が一つ過ぎる。
パラパラとページがめくれ、「黄昏時は、誰そ彼時とも云われ、幻想的な――」そんな描写が目に入る。
嗚呼、確かに幻想的だ。
窓際で、一人座って本を読んでいる。いつの間に居たのだろうか。
独り言を、聞かれやしなかっただろうか。そんな事より、僕の目は彼女に釘付けだった。
眼鏡をかけており、何時もとは違う雰囲気だが、恐らくは錦野 淼華、彼女だろう。
男勝りだと思ったその印象は、今は影も形もなかった。
ふと、疑問に思う。
――彼女は誰だろう。
いや、名前は知っているのだけれども。
何故か、そう思ってしまったのだ。
「――美しい」
つい、口が動く。
彼女はその言葉が聞こえたのだろうか、こちらを見ては、目が合った。
声が出ない。顔が、熱くなるのがわかる。
変じゃないだろうか。いや、目が合ったまま固まっているのだ、変な奴だと思われただろう。
でも、目が離せなかった。離したくなかった。
暫し沈黙が空間を包む。風でパラパラと紙が擦れる音だけが、不気味なほどに聞こえてくる。
何時間たっただろうか。
いや、数分かもしれない。
もしかすると、まだ数秒しかたっていないのかもしれない。
それでも、この時間が一生のように過ぎていくように感じられた。
部屋が徐々に暗くなっていく。
日が目に見えて沈んでいく。と、彼女から目が離れたことに気が付く。
もう一度彼女に目線を移すと、彼女も夕日を眺めていた。
「……たしかに、美しいな」
彼女はふっと笑い、こちらを見る。
いや、僕は夕日の事を言ったんじゃあない……んじゃあないかもしれない。
でも、この胸の高まりは、恐らくだが、幻想的な世界で生命を燃やす、彼女に向けられたものではないだろうか。
再認識すると、今までの行為が異様に恥ずかしくなってくる。
何か、弁明をせねば。
「あっ、いや、うん!ホント、綺麗だ……本当に……」
あぁ、これは、しまったな。
余計変な奴に思われたかもしれない。
「何だ、あんまり喋ったところを見ないからどんな奴かと思ったけど。面白い奴だな、君は」
そう笑いかけてくれる彼女は、さながら僕の心を奪い去る王子様のような……
って違う。そうじゃない。
でも、彼女が魅力的だというのは、変わりない。
「そ、そうかな……」
そんな当たり障りのない応答しか返せない。
さっき面白い奴だって言われたばかりだが、面白い返答なんて僕にはできるはずもなかった。
「面白いと言われたのに、面白い返答が出来ない……なんて思ってるだろ。
やっぱり面白い奴だ。思ったことがすぐに出る奴なんだな」
嘘だ。咄嗟に顔を隠してしまう。
そんなにわかりやすい奴なのだろうか、僕は。
そんな事一度も言われたことがないのに……。
彼女を見てみる。
くっくっくっと、笑いをこらえている。
不思議と、彼女に笑われても、腹が立たない。
寧ろ、彼女の笑顔が見れてうれしい、と思ってしまう。
そうか、うん、わかったぞ。
こんなの、漫画や小説だけのものかと思っていたが、本当にあるものなんだな。
そう、僕は。
僕は彼女に恋をした。
ふと思いついて書いてみた恋愛短編小説です。
話の流れがおかしかったりしても、大目に見てくださいまし。
次回:http://ncode.syosetu.com/n3412du/