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87:またね

管理迷宮事務所から緊急の呼び出しがきた。

「ウィリアムさん、お早うございます」

「サラ、今日は貴女の当番でしたか」

サラは市民街の冒険者ギルドのギルド長代理をしてもらっている。

ローランの冒険者ギルドの長として私が就任したが、まだ全てに手が回っていない。

特に市民街ギルドは荒くれ者が多いことから、実力の無い者が上に立つことを嫌う。事務能力に長けた者を市民街ギルドに送ったが三日で音をあげた。


その様な者達を纏められる存在。

嫌だといいつつ管理迷宮の最下層までこれる実力を持っている受付嬢はそういない。事実上このローランには二人しかいない。

ギルバートが居なくなり、ギルドを辞めたいと言っていた彼女に無理をいってやらせている。


歩きながら話す。

「どうしました?」

「はい、最近頻繁に起きる管理迷宮の鳴動ですが、いつもより鳴動時間が長く、その紅さも極めて鮮やかな鳴動が起きた後、管理迷宮から魔物が一切消えました」

魔物の消失。これは、例がある。しかし、まさか...

「…………どれくらい経ちますか」

「はい、大体になりますが、」

管理迷宮入り口が騒がしくなる。

「行きましょう」



管理迷宮の入り口を守っている兵に聞く。

「どうしました?」

「ギルド長、出口用の転移魔法陣が」

言われなくてもわかる。誰かが管理迷宮から脱出用転移魔法陣を使い出てきたのだ。


予想はつく。

誰かが迷宮の主を倒して、出てきたのだ。

迷宮から魔物が消える現象。不定期だが迷宮の主と呼べる魔王級の魔物が出現する事があり、これを討伐すると一定時間魔物が枯渇する。今はおそらくこの状態。


そして、このようなことを行える存在を知っている。

だが、今の迷宮の状態と出現していた魔獣の強さを考えるといくら強いといっても無傷で、いや無事でいられるものだろうか?

強さの底が知れないといっても彼女は後衛職だ、ソロでの攻略はどう考えても不可能。しかし、彼女の実力に対応できるものは今このローランには数えるほどしか存在しない。


テレスも同行したのだろうか?

「ウィリアム、どういうことです?」

「テレス!」

怒りとも不安とも取れる表情のテレスが私を睨む。

「貴方がリンちゃんをけしかけたのですか?」

「いえ、そういうわけでは」

「私を置いて行ったという事は、全滅の危険があったという事ではないのですか?」

おそらくそれもあるが、テレスが死ぬ可能性があるから声を掛けなかったのだろう。


まさか、気を使われたのか?


いや、それ以前に彼女はこのような無謀な事をする性格だったのか?




光が消える。




そこには、白いローブの少女と、壮年の男。ギル!?

「どーも、こんにちは」

にへら、と笑いながらこちらを見る彼女。

「リンちゃん!」

テレスが駆け出す。

「……ギルド長?」

サラが呆然と呟く。やはり、間違いない。周りを見るが気付いている者はいない。

笑いながらこちらを見る彼女の意図は、早く退場させてくださいか。

壮年の男を見ると、ニッ! と獰猛に笑う。懐かしい。

「サラ、そちらの冒険者を事務所へご案内してください」

「は、はい」


「リンさん。これはどういうことですか?」

「はい、これ」

巻物(スクロール)を差し出してくる。それは狂乱の巻物。

「なっ! これは」

「扱いはお任せしますけど、次は知りませんよ。今回は利害と言うか興味があったんで対応しましたけど。テレスさんを巻き込まなかった意味を理解してくださいね」

「……感謝します」

やはり、全滅の危険があったのか。でなければ、ギルを引っ張り出したりはしない。

そもそも、彼女はどうやってギルと連絡を取ったのか。我らギルドのみならず王国も居場所の特定が出来ていなかったギルバート。南の森に居るだろうと推測は出来ていたがそれ以上の特定はできなかった。

ギルに聞いても、何も話さないだろう。彼はそういう男だ。


テレスさんが、そばを離れない。

「リンちゃん」

それ以上は何も言わない。言葉を飲み込むテレスさん。

なぜ連れて行かなかったのか。負ける可能性があってそのまま消えてしまうつもりだったのか。なんで...

「テレス、我と魔王の壮絶な戦いを聞かせてやるのだ」

「クロちゃん」

「とっとと人のいない場所に移動して肉パーティーを開くのだ!」

肩を竦める。

「負けるつもりとか無かったですよ」

「テレスが足手纏いなだけだったのだ!」

「クロちゃん、」

ほっぺたをむにっとつねられるクロ。

「むぅ!」

テレスさんの手に抱きつき反撃を開始する。


歩き出す。

「リンさん」

ウィリアムさんが声を掛けてくる。

「偶然見つけたことにしておいて下さい。もう異変は起きません」

狂乱の巻物のことだ。表向きでいい。本当のことは私もギルバートさんも話さない。

魔王など存在しなかったのだ。ある冒険者が偶然拾った狂乱の巻物が今回の騒動の原因だったと言うだけ。




事務所ではなく出口へ向かう。勝手知ったる場所だ。

「ギルド長、なんで...」

サラが聞いてくる。何に対しての問いか。

「すまんの」

嫌だ嫌だといいながら、わしの無理に付き合ってくれたのお。

「戻ってきてください」

「わしはもう人を辞めてしまったのじゃ」

扉を開く。

「でも!」

「すまんのお」


いつもの傍若無人な笑みを残し去っていく。









ローラン学園:

授業風景を眺める。

既に引継ぎは終って、宮廷魔術師の人が皆の指導をしている。

「リン先生。見てください」

新しく光魔法を発動した生徒が嬉しそうに報告に来る。

「よかったねえ、その調子で頑張って」

「はい!」

活気がある。良い事だね。



「じゃあね」

声を掛ける。


「お疲れ様です」

「ありがとうございます」

「また明日、お願いします」

宮廷魔術師の人や生徒からの返事にひらひらと手を振る。

「…………」



学園長に挨拶をする。


先生達にも。


「リン先生!」

マウラさんだ。鋭いねえ。

「マウラさん。頑張ってね」

「……はい」

「冒険者になるんでしょ?」

「はい」

「じゃあ、また会えるかもね」

「はい!」



学園を後にする。



「んー、終ったね」

「うむ!」

「どうしよっかね」

「めいきゅ!」

「管理迷宮まだ弱い敵しか出ないらしいよ」

「むぅ、じゃ、肉!」

「はいはい、じゃあ、取り合えず街に行こうか」

「うむ!」

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