86:休憩
広大な魔王の部屋。そこに張り巡らせた糸。その起点を外す。
漂う糸を操る。
気付かれないように、全ての方向から一度に囲めるように。
指が足りない。
もっと効率的に、クロもギルバートさんもサポートしなくては。
位置を指定しての魔法の発動まで集中ができない。
ギルバートさんには直接糸を繋いで魔法を発動する。クロは、大丈夫。
まだ足りない。魔眼を発動し全てを見る。
空気、魔素、糸、クロ、ギルバート、魔王ナベリウス、発動しようとする魔力の動きも見る。
まだ、もう少し。
クロが移動するための糸の巣は残す。ブレスを吐く為開きかけた口を閉じる。
大詰めだ。
操っていた糸を離し、土魔法で地中を進ませていた糸を掴み引く。
ギルバートさんの残撃が魔王を裂く。
「クロ!」
再生させないため、治癒力に勝る永続ダメージを与える。
まだ。
魔力が増大している。
最後。
先程離した糸を掴み、魔力を通す。
糸を引く。
魔力を絶つ糸を引く。
糸が一気に収縮する。
収縮によって通した魔力が圧縮され威力が増す。
糸が、炎を絶ち、魔王を絶つ。
静寂...
魔王のいた場所に巻物が落ちている。
それに、宝箱と脱出用転移魔法陣。
「終りだね」
「あっけないのお」
「面白かったのだ!」
狂乱の巻物。
鑑定する必要も無い。そのままだ。
宝箱:罠:死の嵐
「罠無いみたいなんで開けますね」
鑑定は無い設定なのでそう言う。罠は発動しないアンロックで開ける。
「?ローブ」
おっと、ひとつだけとは以外だ。
魔王の戦利品だし、罠も凄いのだった事を加味すると、とんでもない物の気がするけど...
「未鑑定品のローブがひとつだけみたいです。どうします?」
「ひとつだけなら、お嬢ちゃんがもらえばいい」
「我はどうせ装備出来ないからいらんのだ」
「いいんですか? 多分凄い装備だと思うんですけど」
「かまわぬ。既にこれを貰っているしの」
ギルバートが竜牙を掲げる。
「それに、楽しかったのじゃ」
ほっほっほと笑う。
密かに鑑定!
「魔王のローブ」
魔王のローブ:ALL100、状態異常耐性、専用装備
うん、これアウト。
そそくさとアイテムボックスにしまう。
(クロ君、あれ魔王のローブでした)
(なぬ! イカス! どんな効果があるのだ?)
(うーん、ステータスオール100と状態異常耐性、それに専用装備って出た)
(専用装備?)
(うん、専用装備っていうのは幾つかあるんだけど、ちょっと装備してみないと解らないね)
ファウストの書の知識だ。
(状態異常はいいな。リンが装備すれば我にも反映されるし!)
(まあ、けど。偽装できなければ装備は無理だけどね。魔王のローブとか街中で着れないし)
(むう)
(ま、最悪、迷宮内で着替えればいいよ)
(うむ!)
休憩タイム。
アイテムボックスからテーブルと椅子を出し。
お茶を出す。
「酒がいいのお」
「ごめんなさい。持ってないです」
お酒とか飲まないからなあ。あ、いや、たしか貰い物で...
「これでいいですか?」
「おお! 酒じゃ酒じゃ」
「魔人って、食事するんですか?」
「甘口じゃのお、じゃが旨い!」
「むぐむぐむぐ! 我と同じで基本要らんとおもうのだ! むぐむぐむぐ!」
肉串をむぐむぐしながらクロが代弁する。
「美味そうじゃ。わしも肉をくれんかの?」
「はいはい」
やはり、純粋じゃないと元の種族の習慣に引きずられる所があるのかな?
「持ち出した酒が切れてしまってのお。肉は倒した獣を焼いて喰っていたのじゃが」
「買出しとかすればいいんじゃないですか」
「これでは無理じゃろ」
紅い目でウィンクする。
「見た目は変わったから、わしじゃと気付かれない自身はあるんじゃがのお」
たしかに、別人だ。
「人が恋しい?」
「どうかのお...別れは済ませたつもりだったのじゃがの」
「こいつの性格ではもう人の街で暮らすのは無理だろ。強い奴と認識したとたん後先考えず暴走する。魔人になってから抑えが効かなくなってるだろ?」
確かに、生り立てだったとはいえ勢いで簡単に人を殺している。
「…………ほっほ。確かに、もう人とは暮らせぬの」
「…………」
「むぐむぐむぐ」
「…………」
「むぐむぐむぐ、リン、おかわりなのだ!」
「はいはい」
「じゃあ、これ」
偽りの宝石を渡す。
「なんじゃ?」
「認識阻害の装備です。赤い目を人だった頃の目の色に偽装します」
「ほっ!」
「リン、おかわりなのだ!」
「はいはい。それなら買出しくらいは出来るでしょ」
「ほっほ!」
「リン、ミルク飲みたいのだ!」
「はいはい」
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