84:ナベリウス4
意思の疎通が出来るのかな?
「あのー」
「…………」
「ちょっといいですかー?」
「…………」
「少しお話ししたいんですけど」
「……ヒトノコヨ、ワレラニカタリアウコトナドアルノカ?」
「えっと、今この迷宮で起きている異変の事とか」
「ワレヲホフレバコタエハデヨウ」
「ですよねー」
答えてくれました。もしかして魔王さまって優しい?
(リン、話し合う余地はないという意味だと思うぞ)
(え、そうなの? 葬れば解決するってことじゃないの?)
(むう、そうとも取れるな。まあ、どのみち殺ることに変わりはないのだろ?)
(ま、そういうことになるね)
それは、
満たされた器から溢れ出るように、
ゆるゆると、黒く、暗く、濃厚な、濃密な、殺気が溢れ出る。
魔王からではない。
「たまらぬのお」
暗く嗤っている。
「人の頃、斬った奴とは格が違う。カカッ! それに、対等に殺りあえるこの体、たまらぬ」
いやあ、ギルバートさん。突き抜けているなあ。
「滅びるまで、殺り合おう、のお」
「ワレラノケンゾクガ、ナゼヒトノガワニタツ?」
「魔の方が人よりも戦いがいがあるからのお」
「ソレダケカ?」
「他に何がある?」
「……ソウカ、オマエハヒトカラナッタモノカ」
「応! もっと戦いたくてのお。人をやめてしまった」
魔人が、カカカッと嗤う。
「くふふ、実は我もなのだ!」
「なんと!」
「ナンダト」
「いや、ごめんなさい。気にしないで下さい嘘なんで」
何言ってるのクロ君。折角勝手に盛り上がってたのに台無しジャン!
それにキミ、ネコジャン!
「嘘じゃないのだ。冗談なのだ!」
「もー、同じでしょ、クロのおバカー!」
手の中のクロを全力で投げる。うひょ~と言いつつ宙を飛ぶクロ君。
その投擲先は、魔王。いきなり弛緩した場の雰囲気からの奇襲作戦。
「ヨワキヒトノコヨ、オマエタチハカワラヌナ」
剣を構える魔王ナベリウス。ま、無理か。
「そうだねえ」
紅い炎を纏った斬撃が宙を飛ぶクロの軌道の先に放たれる。
「奇襲はされる方が間抜けなのだ!」
そのまま飛べば紅い炎に包まれていたが、直前の宙に留まるクロ。
魔力を通す。
縦横無尽に、広大な部屋全てを網羅するように、複雑に張り巡らされた糸が、青白い輝きと共に姿を現す。
ある場所には蜘蛛の巣のように編み込まれた足場が、そのひとつ大きくたわんだ蜘蛛の巣には黒い炎の玉を周囲に漂わせるクロ。
初めからそこへ向かって投げたのだ。
「カカカッ! たまらぬのお!」
ナベリウスの視線がクロに移った瞬間走り出していたギルバートが足に渾身の斬撃を放つ。
体格に差があるならば、小さい方はワザワザ相手の防御しやすい胴や頭を狙う必要は無い。避ける事でしか防御出来ない足を狙えばいい。避けられないタイミングで攻撃できるならばそれが一番理想的な攻撃だ。
一番近い口からブレスが吐かれ。剣先で受けられぬ威力の斬撃と判断したのか、左側の二本の剣を地に突き立て防御の体勢を取るナベリウス。
三つ首による全方位監視、一番近い首から予備動作を必要としないブレス攻撃、避けることで攻撃に一瞬の隙が出来、受ければダメージにより攻撃力が落ちる。
隙が出来れば残りの二本の腕による剣攻撃が間に合い。攻撃力が落ちれば地に刺した二本の剣で攻撃を防ぐ事が可能。
タイミングを合わせるように、宙に留まっていた黒き獣が猛スピードで接近してくる。青白い糸で出来た足場をバネのように使いスピードを上げている。
右と左、正反対からのタイミングを合わせた同時攻撃。
普通なら避けられぬ攻撃を、右の頭が判断し、同時に左の頭も判断して対処する。問題の無い事。
そう思考していた正面の頭が戦慄する。
紅い、魔法陣が二つ。
否。
全体を統制し、しかも斬られるまで気づかぬ攻撃を可能とする人の子。
その瞳に映る紅い魔法陣。あれは魔眼。
静かに立っている様に見えて、ただ垂れているだけに見える手の指先は、目にも留まらぬスピードで複雑に動かされている。
目が合った瞬間。
思考が停止する。
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