83:ナベリウス3
「のう、あれはわしより強いのか?」
緊張の中、聞いてくるギルバートさん。
人は他に気を取られている時や極度の緊張時、無意識に本音が出る。
「私、鑑定とか持ってないんで判りませんよ」
「ほっ! 冷静じゃのお」
抜け目の無い人だ。いや、魔人だ。
戦闘に必要な情報は出すが、それ以外までさらけ出すつもりはない。
腕を振り、指を動かす。
(クロ、四刀流だって)
(うむ、ギルバートには?)
(鑑定は教えるつもりはないから、教えないよ)
(終わったら一緒に殺してしまえば? あいつも色々危険だろう、ここなら証拠も残らんし完全犯罪が可能なのだ!)
(うーん、一応こっちもむこうも利用価値があるしさ、それにクロも楽しんでたじゃん)
(うむ、奴は一線を越えているしな。嫌いじゃないのだ)
一線とは人間をやめたこと。
(まあ、私がサポートするよ)
(うむ、まかした。所で魔王強いのか?)
(うん、今まで会った中で最強かも)
(マジで?)
(大真面目です)
(死ぬかも?)
(うーん、マトモに喰らうと一撃死の可能性有り)
(うひょ~、萌える!)
(燃えるじゃないの?)
(そうとも言う)
(けど、クロは縮地とかで防御力無いときにマトモに喰らうとホントに消えちゃうから気を付けてよね)
(うむ。縮地中に攻撃喰らうと一般人の攻撃でも死ぬけどな!)
(え、そうなの?)
(まあ、止まって見える攻撃を喰らう事は無いし、消耗するが縮地の空間内で防御をすることも可能になったのだ)
(そうなの?)
(うむ、日々研鑽しているからな)
(やっぱり、同じスキル持ってる人がいると捗る?)
(うむ、テレスも日々進歩しているのだ)
(ふーん)
いいなあ。
(リンも魔闘技を覚えれば仲間に入れるのだ)
(うーん、魔闘技は無理かなあ。縮地は使ってみたいけど)
(縮地は息が出来ないから結構苦しいのだ)
(そうなんだ。水泳で潜水しているみたいな感じなの?)
(うむ、水の中を移動している感じなのだ)
スキルによる移動技は近接系スキルに多く存在するけど、やはり格闘系のスキルが一番充実している。槍術系も多彩な移動を伴う技があるけど、それは主に槍を持った状態での攻撃技で移動技ではない。
完成した。
魔王ナベリウスを見る。
頭はひとつ、獣のような強面に紅く輝く冷静な瞳、二本の腕には剣と杖、二本の足は地を踏みしめる。威風堂々。王者の風格。
ナベリウスが杖を掲げる。
ヴン!
杖の宝玉が宙に魔方陣を展開し一瞬で発動される大魔法。
腕を振り糸を飛ばす。ひぅんと音を鳴らし糸が杖の宝玉を切断し、指を引くと大魔法を縦に割る。
ゴゥ!
炎の奔流が等しく全てを飲み込み吹き荒れる。
「光の守り」
物理防御の属性は付加せず、対象の魔法耐性を強化する。
炎の中、何処から取り出したのか両手に剣を持つナベリウス。
「では、いくぞい!」
肩に竜牙を担ぎながら炎の中へ走り出すギルバートさん。
「我も逝く」
クロが消える。
(糸が張り巡らせてあるから引っ掛からないようにね)
(うむ!)
私も炎に紛れる。
ギルバートの倍以上の高さから振り下ろされる直刀の大剣。
ステップで横に躱す。
躱した先に振り下ろされるもう片方の大剣。
「ムンッ!」
竜牙で受ける。
ズンッ。と受けた体ごと地に沈む。
ゴゥ! と横から唸りをあげて迫る大剣。躱された剣を地に叩きつけその反動で無理矢理そのまま横薙ぎに軌道を変えてギルバートを切断するつもりだ。
「でかいくせに器用な剣捌きじゃの!」
正面から受けていた竜牙の剣先を落とし、振り下ろされた剣を受け流しつつ横薙ぎの剣もまとめて受ける。
ギャンッ!
受けた刃から火花が散り、そのまま横に飛ばされ距離が空く。
魔王の踏み込み。
縦と横から斬撃を放つ魔王。
両手で竜牙を握り、上からの剣を弾き。
「強いのお、カカカッ!」
横からの剣を弾く。
楽しそうだ。
弾いた剣を追い宙に飛ぶギルバート。
「魔剣、五月雨斬り!」
魔王に降り注ぐ黒い斬撃の雨。
「オールカウンター」
二刀で全ての斬撃を受けるナベリウス。
「ほっ! 喋れるのか魔王」
嬉しそうに嗤うギルバート。
「オゴルナ、アタラシキマノコヨ」
三つの口が嗤い。炎を吐く。
「ヌゥ!」
先に首が出てきたか。と思いつつ糸で首を落とす。
ん...これは、斬ったそばから再生した。
「サカシイゾ、ヒトノコ」
首のひとつがこちらへ炎を吐く。
糸で炎を斬る。目の前で二つに割れ通り過ぎる炎。
しかし、これはよくない。高すぎる自然治癒力で糸で斬っても切り口がズレる前にくっついてしまう。
違う。これは本当の意味で斬れていないのだ。
治癒出来ないように斬るのではなく絶つのだ。それが出来ない私が未熟なのだ。
ズンッ!
何か重みが加わったように魔王が沈む。
「我もいるぞ」
長く伸びた爪を下に急降下してくるクロ。
落下のスピードに念動力で重みを加え、魔王も念動力で上から抑え込み避けられなくしている。
「ヨイゾ、クロキケモノヨ」
重みに屈したように背を丸める魔王。
「逝くのだ!」
鉄をも切り裂くクロの爪が、
ギャリ!
背から生えた交差した剣に受け止められる。
「むう!」
ギャリギャリ!
腕が生え剣に力が加わる。ハサミの要領で交差された剣がクロの爪を折りにくる。
「負けないのだ!」
「召喚!」
光となって消えるクロ。そこに下から突き上げられる二本の剣。炎のブレスでギルバートさんを吹き飛ばし魔剣を迎撃する必要のなくなった二本の剣が下からクロを串刺しにしようと突き出されたのだ。
私の腕の中に現れるクロ。
「むぅぅ、強いな魔王」
「そうだね」
ギルバートさんを回復魔法で全快する。
「すまんの」
正面を角のひとつとすると残りの二角を埋め全方向を視界に収める三つの首。
両肩から生えた二本の腕と背から生えた二本の腕。その四本で全方位からの全ての攻撃に対応する四刀流。
これが本来の姿なのか、その攻撃的な姿からは想像できない知性的な赤い瞳。
真の姿を現した王の余裕なのか、あちらから攻撃してくる気配はない。
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