74:狂乱の迷宮5
「サンドストーム!」
ヨランさんの砂嵐の呪文が、暗がりを中心に巻き起こる。
ゴン、ガンと砂と共に高速で舞っている岩がぶつかる音はするが、まるで迷宮の壁にでも当っているかのように微動だにしない。
「…………」
何かが動く気配の後、
ガアアアアァアアア!!!
ひとつの場所から同じ種類の叫び声が同時に起こり、呪文が掻き消える。
そして、静かに、足音を立てずにソレは通路の中央へ歩み出る。
確かに大きい。
魔獣と呼ばれる魔物はその名の通り、獣がベースとなっている。
大きなモノは、例えば熊などの魔物は人の倍の背丈のモノもいる。
イヌ科でも狼ならば、迷宮のボスとして湧き出たモノならば人の倍以上であったりもするが、ソレは、その六つの紅い瞳の位置が人の背丈を軽く越えている。四足歩行の獣に見下ろされる。どれほどの大きさなのか...
見る間に傷が治っていく。
いや、普通にダメージは通っていたのだ。回復力が高いからといってダメージが普通に通るならば、回復速度以上の攻撃を加えればいいだけ。
じわり、と獣の気配が濃くなる。
「オイ、攻撃は任せたからな」
「ええ、命懸けで皆を守りなさい」
前衛でその様な会話が交わされる。
音も無く、獣が跳躍し一気に間合いを詰めてくる。
「忠義の守り! センチネル!」
魔獣の必殺の一撃をラムダが盾で受ける。
ノーダメージだ!
二つの首がラムダを睨み。
一つの首がリン達後衛を睨む。
閉じられた唇がめくれ上がり、まだ閉じた牙の隙間から青白い炎が漏れる。
ズガンッ!!!
前足の鋭い爪の攻撃をラムダに防がれ宙に浮いた状態。
そして、三つの首はそれぞれの獲物を睨み据えた状態。
そのがら空きのボディにテレスの拳が炸裂する。
予想よりも硬い。
体毛自体が攻撃を受ける瞬間硬質な素材に変化したようだ。
しかし、ただの一発で攻撃を終らせるつもりは無い。
殴った手を開き硬質な刃と化した体毛を掴む。掌や指に刺さるが気にしない。
掴んだ手を引き寄せつつ、逆の手を揃え貫手で掴んだ体毛の間、肌があらわになった部分を貫く。
ガアアアアアアアアア!
怒りなのか悲鳴なのか、その叫び声と共に獣の口から青白い炎が放たれる。
「ランパート!」
ラムダの騎士スキルにより、パーティーの魔法耐性が強化される。
腹に刺さった貫手はしかし、内臓まで届いていない。
「皮が厚い!」
足で獣の腹を蹴り手を抜き間合いを取る。
「邪魔するぜ」
テレスが離れた瞬間するりとヤンが入り込み。
「土産だ」
貫手で出来た傷口へクロスボウを放つ。
ズンッ!!!
何かが獣の腹の中で弾ける。
ゴガアアアアアアアアアアアア!
三つの首から炎を撒き散らしながら滅茶苦茶に暴れまわる。
「テレスさん戻って」
私の合図と共に獣の傍にいたテレスさんが消え、ラムダ君の後ろに現れる。
「ストーンジャベリン!」
詠唱が完成したヨランさんが呪文を行使する。
暴れまわる獣の上に、十数本の石の槍が現れる。
なかなかやる。普通は二本か三本しかでない槍を十本以上とは。
ガアアアアァアアア!!!
獣の叫びと共に、石の槍が掻き消える。
「なっ!」
「おー、凄い」
獣の腹を見れば先ほどの傷が塞がりかけている。
少し傷の治り方がおかしい。鑑定をしておいたほうがいいかな。
…………
……
獣というより魔法生物でした。皆に知らせておこう。
「おそらく、魔法生物に近い魔物だと思われます。体内構造も獣のそれとは異なり、魔石の核と炎等の発生器官しかない可能性が高いです」
「物理が効き辛いと言うこと?」
「はい、魔法も効き辛いですけどね」
「めんどくせー魔物だな」
「一気に畳み込むしかないですね」
ワオオオオォォォォォォォ...
ケルベロスが、奇妙な遠吠えを始める...
ドクンッ!
と迷宮が脈打つ。
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