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04:一歩も進まない

管理迷宮を出口へ向かって歩く。同行者はテレスさんとクロ、二人とも魔闘技を習得している(つわもの)だ。

「気になっていたんですけど、テレスさんは再生のスキルで簡単な傷はすぐ塞がっちゃうから目立ってないけど、縮地の時結構傷負ってますよね?」

「ええ、なるべく避けるようにしているけど戦闘中の縮地は飛び散った武具の破片も当たれば音速で当たった攻撃と変わらないから」

「……雨の中で縮地したらどうなるんですか?」

「痛いわね」

「痛いで済むんですか?」

「目とか鍛えられない部分は開けてたら(ただ)では済まないわね」

「テレス、魔力で己を包むようにすれば傷は負わなくて済むのだ!」

「え?」

「魔力で己を包むようにすれば傷は負わなくて済むのだ!」

うん、クロ君、大事な事だから二回言ったほうがいいね!

「そうなの?」

「そうなのだ!」

「けど、私魔力の操作とか出来ないわ」

「じゃあ、気で己を包めばいいのだ!」

「いいわね、それ!」

テレスさん、魔闘技初心者のクロに教えられちゃダメだと思います。

「縮地の間は時が止まったような感覚だがこちらも呼吸出来ないし、あの空間での魔力操作は消耗が激しいからテレスも気を張る時は一瞬にしておいたほうがいいぞ」

「わかったわ! クロちゃんさすがね!」

「ふふふ、我に分からん事は無いからな!」

ふふふ、凄いね?


バッとクロがこちらに振り向く。

「じー!」

じーっと言いつつ見つめてくる。

ニッコリ笑って頭を撫でる。なでなで。



出口へ通じる道に出る。

「死体というのは、あれみたいね」

テレスさんが指差す方向に足首から下が落ちている。

「うーむ...」

悩ましい状態だなぁ......出口へ向かい糸を放つ。


…………


何も無い。足を鑑定する。

鑑定結果は貴族街ギルド冒険者の死体と出た。他の部分はグレーターデーモンのお腹の中に納まったのか足だけ残し外に逃げた後死んだのか。

いや、体の一部や死体の一部と出ていないからあれが死体で残った全てなのだろう。


蘇生というのもなかなかに難しいものがある。

あの足の他に、もし胴と頭が迷宮の外に死体として存在していた場合、足に蘇生をかけても失敗するのだ。生きるのに必要な部分である頭と胴が他に存在している限り足に蘇生魔法をかけても頭と胴が再構成される事はない。

あくまで頭と胴に対して蘇生魔法をかけないといけないのだ。しかしその場合も足がここに存在する以上食べられて存在しなくなった足首までは蘇生魔法で再生されるが現実に存在している足に関しては再生されない。


まあ、この世界にはこの(ことわり)埒外(らちがい)に存在する化け物もいたのだけど...


「リン、早くしないと迷宮に吸収されてしまうぞ?」

「おっと、そうだね.........蘇生(リザレクション)!」

生きるのに必要な部分がなくなっている場合、普通の蘇生で生き返ったときにスキルやステータスが大幅に抜け落ちてしまう。通常よりも魔力を込めて元の状態に戻るよう蘇生を行う。




「ん、うん...」

全裸の男性が目を覚ます。

「だよねぇ」

アイテムボックスから大き目のタオルを取り出し男性に掛ける。

「ここは...」

「ここは管理迷宮で、貴方はグレーターデーモンに殺されて、今蘇生されたところよ」

テレスさんが冷めた目で男性を見下ろし現状を教える。

「テ、テレスさん! どうして貴女がここに?」

「取りあえずその汚らしいものをきちんと隠せ、千切りますよ?」

「はひぃぃ!」

急いでタオルを腰に巻きつける冒険者さん、テレスさん言動が過激です!



男性冒険者説明中...



こちらもサンド君達と似たような状況だった。

迷宮が(あか)く輝き雰囲気が変化したため探索を切り上げる事にし位置的に出口へ向かうよりボス部屋を攻略して脱出用転移魔法で外に出たほうが早いと判断、奥へ進んだところでグレーターデーモンに遭遇したらしい。


問題があるとすれば...おーい! とサンド君達がこちらへ走ってくる。

「早いね」

「ああ、急いだからね。はい!」

魔法の鞄を差し出してくる。

「ん?」

「剥ぎ取った魔石と素材が入ってるから」

「ん?」

「ん?」

「んーあぁ! 私達は要らないです。サンド君達とベテラン冒険者さんとそちらのタオルの方とで分けてください」

「え? いや、僕達は何もしてないから」

「死ぬような思いと、死ぬ覚悟とか十分貰う権利があると思うよ、見てて格好良かったしね!」

「もしかしてあの場面全部見られてたの?」

「待ってくれ! グレーターデーモンの魔石と素材なんて捌けばひと財産、それこそ一生生活できる額になる。助けてもらった上にそれを貰うなど」

ベテラン冒険者さん、まじめだなぁ。

「え? あのグレーターデーモン倒したの?」

「少し黙っていろタオル!」

「え? 俺の名前タオルじゃないんだけど?」

「黙ってなさいタオル、千切るわよ?」

「あ、はい、もう喋りません」


私達は最下層を周回しているのだ。お金は既に腐るほどと言っていい額があるしグレーターデーモンの素材などはギルドに卸す分を剥ぎ取ったら後は魔石を取って迷宮に吸収させている状態だ。

「んーと、それじゃあ、サンド君達にかけた回復魔法とタオルさんに施した蘇生魔法分をギルドの正規代金で捌いた額からいただければいいです。ギルド経由で私のギルドにある口座に入れておいてください。テレスさんはどうします?」

「私はいいわ、これ以上お金が増えても使い道ないし」

「そういう訳には...」

「遠慮する余裕があるならそれで他の冒険者を救える装備や脱出用の魔道具でも買って後進(こうしん)を助けなさい」

彼等もテレスさんの言葉で納得する。サンド君達も新しい装備や道具の充実に使うらしい。


(一生暮らせるお金手に入ったなら冒険者やめてもいいと思うんだけどね。サンド君達は学生なんだしそっちに専念すればいいのにね)

(リンよ、冒険は男の浪漫なのだ!)

(じゃあ私、女だし国を買える位のお金もあるし冒険者辞めようかな)

(リンよ、冒険は男女の浪漫なのだ!)

(元々束縛されないための力を手に入れるために始めた冒険者だったしね)

(もっと強い敵と戦いたいのだ!)


(もっと! もっと強くなって俺は神を超え! 世界を手にいれ! 俺だけのハーレムを作るんだ!)

(なにそれ?)

(さあ? 取り合えず我はそういう奴等を駆逐したいのだ!)

(別に夢があっていい事なんじゃない?)

(リンよ、この言葉右に行くに連れ規模が小さくなっていっているのだ。バカなのだ)

(ハーレムという目的のために世界を創ったかも知れない神を超えるっていうのは別にいいんじゃないの? そんな欲望にまみれた小さな夢のために神をも超えるぜ! みたいな?)

(そ、そうなの...か?)

(まあ、けど、俺のハーレムに入れとか言ってくる人がいたら駆逐しようね?)

(うむ! じゃあまずフジワラを駆逐しないとな!)

(はっ! そういえば藤原君、ハーレムパーティーだぜとか言ってたね!)

(うむ、我のハーレムパーティーの付属品の分際で生意気なのだ!)

(じゃあ、クロも駆逐しないとね!)

(なん、だ、と!!!)



「で、タオル。お前も護衛の依頼だったんだろ。対象は上手く逃がせたのか?」

「……ああ、俺を生贄にして逃げていったな」

「なんだそれは!?」


そう、グレーターデーモンに遭遇したまではサンド君達と似た状況だったが、その先が少し違った。

その護衛対象者、先制出来るから勝てると言い放ちタオルさんの制止を無視して攻撃を仕掛けたのだ。

ギルドが護衛をつけるレベルと判断された冒険者の攻撃だ、当然効くはずも無い。出口へ向かっての逃走劇が始まり。来た道さえも覚えていない冒険者を先導していたタオルさん、出口近くまで来たところで突然背後から攻撃され足を負傷し走れなくなる。


「無言で走り去っていってな、さすがに殺意が湧いたが護衛対象者を攻撃するわけにもいかないからな」

命がけでグレーターデーモンと戦って死んだそうだ。

「誰だ?」

「いや、それは言えない。ギルドには俺が報告する」

ベテラン冒険者ともなれば少し調べればすぐに護衛していた者など突き止められるのだが、変なところで筋を通すタオルさん。まあ信用商売でもあるし当然か。


(大変だね)

(だな、ギルドの依頼など受けるから痛い目を見るのだぁぁぁぁあ!)

(クロ君)

(どうせそいつらは貴族だったのだろう、下種(げす)どもめぇぇぇえ!)

(ちょっと)

(リンはそんな依頼受けちゃダメだぞ?)

(わざと言ってるでしょ?)

(なんのことだかわからんなぁぁぁぁあ!)

(そんな前振りしたって請けないよ?)

(なんだってぇぇぇぇ!)

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