55:絶対なる防御
魔眼を発動し闘技場を俯瞰する。
クロとマウラさん達は英雄であるラムダ君が守っている。
攻める方も守る方も決めて手に欠けるいわゆる膠着状態。ラムダ君の発動しているロイヤルガードで守りは完璧だけど完璧過ぎて逆に攻められないと言う状況。ラムダ君自身も積極的に攻める気が無いらしい。彼としても何か恨みがあると言う相手でもないし攻める方もローランの英雄が相手では本気で攻めるわけにも行かないというところか。
まあ、私としてはマウラさん達が守れていればそれでいい。ラムダ君が寝返るという事は無いだろうけど、最悪の事態は想定してその為にクロを付けている。特に問題はなさそうかな。
マウラさんと目が合う。
今、私がしていることの意味は彼女にしか解らない。それもただの慰めでしか...いや、これは私の気晴らしでしかない。それ以上の意味なんか無い。ぎこちなく微笑む彼女の口が聞こえないけど何か言葉を紡ぐ。
…………
……
藤原君とサンド君達はゴーン先生と生徒達と共に闘技場から脱出している。
で、アフターバーナーの人達は藤原君が当主と主力を壊滅させていったのでその死体のある場所で騒然としているだけ。指揮者、この場合は当主と主力部隊にいた隊長が一気に殺されてしまってどうすべきかの判断が出来ない状態かな。蘇生できる人を探しているみたいだけど、教会の人達は早々に引き上げていたから多分この学園には蘇生の呪文を使える人はいないんじゃないかなあ。まさか敵対している私に頼んできたりはしないだろうしね。というかあの人達は何しに来たんだろう。
テレスさんは騎士達を相手に戦闘中。といっても派手な戦闘は最初だけで今は半膠着状態となっている。魔道具を守りながらの戦いはテレスさんの戦闘スタイルと噛み合っていないし。攻める騎士達も無能ではない。
騎士のような統制の取れている集団は指揮官を潰すのが一番手っ取り早いけど頭であるズヴァール当主は戦闘に参加していない。主賓席は距離的に魔闘技の縮地を使って一気に間合いを詰めれる距離でもない。指揮官の分をわきまえている。兵と一緒に戦闘に参加するようなアフターバーナーの人達とは出来が違う。なんだかんだで有能なんだ。
それに、そこのトリンという人も無能というわけではない。
私を乗せる策も用意していたし。開始と共に行われた騎士の奇襲。それにマウラさん達にしていた隷属の首輪。少し前の私だったら全ての策を無効には出来なかっただろう。隷属の首輪などは大図書館の迷宮でファウストの書の中に取り込まれていた、魔道具を開発したエルフの人生を読み解いていなければ解除できなかった。
結構な綱渡りだ。
もし、ファウストの書の知識を手に入れていなかったらどうなっていただろう。
どうもこうもないか。ズヴァール家に隷属させられていたならズヴァールの血筋を根絶やしにするしかない。王家に隷属させられた勇者が王家の血筋を根絶やしにするしか自由になる手段が無く、根絶やしなどは実質不可能な事で隷属させられた時点で終っているのとおなじ事だ。
そう、終っていたんだ。ここに居るズヴァールの者を皆殺しにしてもマウラさん達の隷属は解けないし、不敬罪にしてズヴァール家をどうにかしてもズヴァール家への隷属の呪いが解けることはない。
ああ、解決方法はひとつあるか。死ねば隷属の呪いは解ける。
...いけない。思考の渦に嵌っている。
まあ、ズヴァールの人達はある意味有能という事を認める。それだけでいい。
そして、まだ何か手を隠している。それも解っている。
先ほどからアイコンタクトを取り合い親子でタイミングを計っている。何かの策を同時に実行するつもりだ。
それは何か。
増援?
タイミングを計る意味が無い。それに対策はしてある。藤原君だ。
生徒達を脱出させた後、出入り口に隠密で待機してもらっている。外と連絡を取ろうとするズヴァールの兵はそこで消息を絶つ。
流石に逃げ出す観客まで始末するわけには行かないので、鎧を脱ぎ捨て一般人の扮装をして連絡を取ろうとすれば抜けられる。
その場合は駆けつけた増援を藤原君に始末してもらう。先ほどアフターバーナーの兵を葬ったように。
完全な奇襲とはいかないけど、ここが闘技場という都合上外からの侵入に対する守りは容易く造られている。それこそ大人数で通れなく造ってある通路に炎の壁を張ればそれだけで終了になる。火の壁ではなく炎の壁だ。火魔法の上位である炎魔法で作られた炎の前には並みの魔法防御など何の役にも立たない。というより藤原君は既に四大魔法全ての上位魔法を使える。無駄な殺生をする気が無いなら鉄魔法で出入り口を塞いでしまうという手もある。その場合はそこにいる増援全ての者が目撃者となり鉄魔法を使えるものがいると知れわたってしまうだろうけど。ああ、わざわざ鉄魔法を使う必要は無い。土の壁で通路を塞いでしまうというのでもいいのか、それがいちばん平和的だ。
そういえば、藤原君の使った刀技。
月を模った技みたいだったけど、美しかったなあ。
おっと、また脱線している。
クロと同じように藤原君にも保険として待機してもらっているけど、増援というのはまず無い。動けないトリン。自動回復で死なないといっても精神は磨り減る。タイミングを計っている余裕などあるはずが無いのだ。
ならば何を待っているのか?
それは、もう一人の実行者が何らかの理由で今すぐ計画を実行できない状態にある。そう、たとえば死んでいるとか。
最後に殺した騎士を見つめる。ひのきの棒ではなく糸で首を落とした騎士。たしかに一人だけ群を抜いた実力を持っていた。
何をするつもりか?
うーん、おそらく絶対防御かなあ。
昔、ラムダ君が発動したのを見た事がある。発動したら攻撃が効かなくなるという特性を持つけどまったく動けなくなるというとんでもないデメリットを持つそれをどう利用するのか。
あー、そういえばこの人がさっき使った挑発。無効化してたのをトリンは気付いていなかったかも。
もしかして、自力で剣の拘束を解いて攻撃しようと考えているのかな? 根性あるなあ、というか見通しが甘いのではないのかな。
まあいい、確認しておきたかった事もある。
指を魔物に食べられた、腕を魔法で吹き飛ばされた。その様な欠損は回復魔法で復元する事が出来る。ただし、欠損部分が消失している場合に限る。
両腕、両脚を転がっていた騎士の剣で切断し、少し離れたところに置く。欠損した手足が食べられて消化されていないし腐って骨だけになってもいない状態なので、この騎士は蘇生した時手足の無い状態で生き返る。これは既に確認済みだ。
「マ、マテェェ!!! ナニシテルゥゥゥ!!!」
「ん?」
「オマエナニシテルノォォォ?」
なんか取り乱し過ぎなんですけど。
丁度いい、何をするつもりだったのか、かまをかけてみよう。
「え、この人、生き返ったら絶対防御するでしょ。だから取り合えず身動き出来ないように手足を切り離して生き返らせようと、ね」
「ナニイッテルノォォォ?」
「え、だってさっきからそのチャンス待ってたんでしょ?」
「エー、ナンノコトォォ?」
「さっき、あのおじさんと目配せしてたじゃん。バレバレだよ」
「フザケルナクソ女!!! 元に戻してから生き返らせろ!!!」
解りやすいなあ。
用意してた策はこれで全てのようだ。同じタイミングでテレスさんのほうでも絶対防御からの攻撃が始まるのだろう。
何か対策した方がいいかな...クロを...
(クロ君、クロ君応答せよ!)
(Zzzzz...)
(クロ隊員応答を...)
(Zzzzz...)
...うぅーん、まあいいかあ。
大丈夫だよね? テレスさんを見つめる。
気付いたテレスさんが、嬉しそうに手を振っている。
何かするみたいですけど大丈夫ですか?
グッ! っとオッケーのポーズをするテレスさん。何か式鬼とコミュニケーションしているみたいだ。
多分まったく意思が通じていない気がするのだけれど、それが大丈夫の自信となる。本気の戦闘の時はいつも何もいわなくても解ってくれるのだ。迷宮で何十回、いや何百回と共に戦闘をしてきている。
大体テレスさん。戦闘用の装備を一切していない。それどころか素手で戦っている。舐め過ぎです痛い目みますよと言いたい所だけど格闘家と言う人種はそういうものだと藤原君が言っていた。ノウキンというらしい。その直後それを聞いていたテレスさんにブッ飛ばされていたけど。
…………
……
では、最後の希望を打ち砕こう。
初めて味わうであろう絶望を噛み締めてもらおう。
「やでーす。蘇生!」
--------------------------------------------------------------------




