54:起死回生
「ざんねん」と、笑うこの女の名はなんといったか。
まさかこのような場でこのような演技をする羽目になるとは、まさに最大の屈辱だ。
四肢と腹を貫く剣と棒。言葉の通り自動回復が無ければ死ぬほどの痛みに顔をしかめながら昨日のことを思い起こす。
「絶対防御を使える者ですか、父上」
「そうだトリン。明日連れて行くわしの騎士とお前の騎士に一人づつ配置する」
「なぜですか?」
「相手は冒険者なのであろう? これはもしもの為の保険だ」
「保険ですか、たかが冒険者程度に必要とは思えませんが...」
「トリン、覚えておけ。なりふり構わない弱者というモノは、時に予想を上回る手を打ってくることがある」
「予想をですか」
「ああ、昔、冒険者どもと戦闘をした時だ。自分達は戦闘のプロだ。本物の戦闘を教えてやろうなどと大口を叩いていたが、我が騎士団の前に簡単に敗北してな、僧侶が一人だけ生き残った」
「僧侶ですか」
「ああ、そいつは降参する。自分だけでも助けて欲しいと武器を捨てて近づいてきたのだ。武器も持たない回復魔法しか使えない僧侶と気を抜いた時、いきなり発動したのだ」
「な、何をですか!?」
「自己犠牲の呪文だ。メガテンとかいったか」
「目が点...ですか?」
「いや、少し違うか。まあよい。自分の命をエネルギーとした大爆発だ。周りにいるものはまず助からん」
「全員を巻き込むためにわざわざ降参の演技までして近づいてきたという事ですか!」
「ああ、まさか全員を巻き込んで自滅するなど思いもしなかった、わしも油断したとはいえこのような場で死ぬとは...と思ったものだが、フフフ」
「それで、ハッ! 絶対防御ですか!」
「そうだ。僧侶の行動を怪しんでおった騎士が僧侶の正面で絶対防御を発動したのだ!!!」
「素晴らしい!」
「素晴らしいだろう!」
「アッ! まさか!?」
「気付いたか? トリンよ」
「フフフ、同じことをしてくるかもということですね」
「フフフフ、その通りじゃ!」
目を開く。助けてくれと泣きながら懇願する騎士を無慈悲に殺す女の姿を憎々しげに見つめる。
自分一人だけで戦うと言い出したときは、戦闘開始直後にいきなり自己犠牲の呪文を発動する可能性も考え一番身軽な騎士に奇襲をさせたのだが、まさか返り討ちに遭うとは思いもしなかった。そして一方的な殺戮。
激痛により逆に頭が冴える。
女が持っていた武器。いま俺の腹に刺さっているこのひのきの棒。そして女の神秘的な雰囲気をさらに際立たせている巫女のような装備。さらに次から次へと出てくる武器。これは魔法の鞄の効果を持った装備だろう。
闘技場の外で戦っている冒険者ギルドの職員という異様に強い女。強さから察するに幹部以上の上級職員だろう。そいつと気軽に話してた事を考慮すれば答えは出る。
冒険者ギルド自体がこの女を支援している。
いや、もっと別。俺の実力を嫉妬しているエリック。その子飼いの英雄ラムダがこの女の味方についている。
つまりは、そういうことか。
女に国宝級の装備を貸し出し超絶強化し。その不正に気付き抗議するかも知れない父上の兵達を足止めするための戦闘力の高いギルド職員。
器の小さいエリックの策略か。
だが!!!
俺はその一歩先を行く!!!!!
先ほどは挑発でターゲットの固定までいったが、他事に気を奪われていた隙にマジックアイテムか何かで絶対防御を発動させる前に騎士の首を落とされてしまった。
次はそうはいかない。挑発、もしくはあの女を掴んだ状態で絶対防御を発動させ動けなくする。そうすれば身動きできない女を殺すだけ。問題は俺自身があの女に攻撃しなくてはいけないという事。なぜならこの闘技場には絶対防御を発動した騎士以外俺しか生きている人間が居ないからだ。
そしてギルド職員。
挑発が効かなかったあいつには、強制的に絶対防御を発動した騎士を攻撃対象に固定する必要がある。そろそろ強制の鎖が発動出来る筈だ。
スキル:強制の鎖。挑発の派生スキル。
発動条件:一定以上の敵対心を稼いだ状態で発動できる。
効果:自分と相手を魔法の鎖で繋ぎとめる。相手を倒すか一定時間経過しない限り鎖は消えない。
あのギルド職員。一方的に攻撃しているように見えるが、よく見れば着ている服が所々切られている。つまりマジックアイテムを装備しているというわけではない。まともに攻撃さえ当てられれば倒せる。
後はそのタイミングだ。
別々では意味が無い。同時に実行しなくてはならない。
成功する確率が50%だとすると、別々に実行した場合半分の確率で失敗するが同時ならば50+50=100%となる...違う、75%だ。血が流れすぎている自動回復では流れた血までは回復されない。時間が無い...
父上に目配せをする。
コクリと小さく頷く。同じ考えだ。
ならばこちらの絶対防御を使える騎士をあの女が生き返らせた時が実行の時。
斬!
斬撃音にそちらを向けば。
「ンン!?」
死んでいる全身鎧の騎士の腕を切り落としている女。
斬!
両脚を根元から切り落としている。
「マ、」
少し離れた場所に両手両脚四本を立てている。
「マ、マテェェ!!! ナニシテルゥゥゥ!!!」
「ん?」
「オマエナニシテルノォォォ?」
「え、この人、生き返ったら絶対防御するでしょ。だから取り合えず身動き出来ないように手足を切り離して生き返らせようと、ね」
「ナニイッテルノォォォ?」
「え、だってさっきからそのチャンス待ってたんでしょ?」
「エー、ナンノコトォォ?」
「さっき、あのおじさんと目配せしてたじゃん。バレバレだよ」
父上をおじさん呼ばわりだと! いやいやそれよりだ!
「フザケルナクソ女!!! 元に戻してから生き返らせろ!!!」
「やでーす。蘇生!」
無詠唱で何の準備もせずいきなり蘇生を発動しやがって! 絶対防御のスキルが消えたらどうするのだぁぁぁぁ!!!
「ウオォォォォ! クソッ! クソッ! クソォォォォ!」
闘技場の外の父上を見る。
父上! 父上!
こちらは時間稼ぎしか出来ません。頼みます。
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