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03:彼女達

「転移!」

空間魔法の転移を唱える。

このスキルは最大レベルで転移先を四つ設定できる。現在設定している転移先は、ローラン王都から結構離れたところにある次元の迷宮入り口にひとつ、管理迷宮一層の転移魔法陣そばにひとつ、そしてここカーサの魔道具屋の奥にひとつ、あとひとつは何かあったときの移動用として未設定のままにしている。今回の転移先は当然、管理迷宮一層の転移魔法陣そばだ。


軽い浮遊感の後に景色が変化する。


仄暗い迷宮の景色のはずが、(まばゆ)(かがや)(ほのお)が迷宮内を照らしている。

先客だ、しかも全滅の危機。目に映る全てを魔眼で鑑定する。

私の転移魔法陣が消えると共に最下層行きの転移カードに床の魔法陣が反応し輝きだす。


「ふむ...」あちらはこちらに気付いていない。

(どうするのだ?)

クロが念話で聞いてくる。

クロが話せるのを知っているのは仲間だけなのでこういう場では念話を使う。


基本、他人の面倒事には関わらない主義だけど、今回の彼等は知り合いだ。

貴族街ギルドに所属するベテラン冒険者と、昔一緒にパーティーを組んだ事があるサンド君達。


「テレスさん」

テレスさんに声をかけ輝く魔法陣から一歩抜け出す。

「ええ」

何をするのか理解している彼女もそれに続き。


「二人は先に行って待っててね」

背後を振り返りつつカーサと藤原君に声をかける。

「「……」」

無言で頷く二人、理解が早くて楽だ。

私達が管理迷宮に潜っているのは基本秘密だ。魔物の素材を卸しているので公然の秘密なのだけど、他人にわざわざパーティー構成をばらす愚を冒す必要も無い。


グレーターデーモン三体程度ならば私とクロだけでも問題無いのだけど、残念ながら彼等を助ける以上、私とクロは表立って戦う訳にはいかない。

テレスさんの実力は皆が知るところだし、貴族街ギルドの冒険者という事もあるのでご同行願った。




じゃあ、さくっといこうか。


転移により消えていくカーサ達を見送った後、振り返りつつ右手を横薙ぎに一閃!

並みの者、いや並み以上の者にもその存在が認識できない糸がその指先から放たれる。


ひぅん!


風切り音が鳴る。音が鳴るとか私もまだまだだなぁ...


斬、と糸が発動途中の魔法を切断。そしてそのまま糸を咆哮中のグレーターデーモンの首に巻きつけ、くぃっと引く。


糸により、ふわりと私の体が宙に浮きサンド君達の前に移動し。

ズッ...と、切断され暴発(ぼうはつ)した炎の中で、咆哮を発していたグレーターデーモンの胴と首がズレ、崩れ落ちる。


通路を水の壁で塞ぐ。おっと、ちゃんと魔法の名前を言わないと!

「水の壁!」

ふぅ、あぶないあぶない!


咆哮していたグレーターデーモンが死んだため、威圧の効果が切れ脱力する彼等を見ながら言葉をかける。

「絶体絶命の危機でしたね?」

「にゃ~!」(雑魚共め~!)

クロがひどいことを言っている。


吹き荒れる炎を見つつ、サンド君達に回復魔法をかける。

「リンちゃん、これが(おさ)まったら一瞬水の壁解除して」

テレスさんが言ってくる。

「はい」

(解除した後、水の壁元に戻すからクロも行って来ていいよ?)

(うぬ、テレスと技比べしてくるのだ!)

とぅ! くるくる、たし! とテレスさんの肩に移動するクロ。

「あら、クロちゃんも一緒に来るの?」

「にゃ~!」

「じゃあ、どっちが早く倒せるか競争ね!」

「にゃ!」

今ここでそういう会話しないで欲しいんだけど...



水の壁を解除する。

「どうぞどうぞ」

「じゃあ、行ってくるわね」

「にゃ!」(皆殺しだ!)

「どうぞどうぞ」

水の壁を張り直す前に姿が消える彼女とネコ。


そこに残るのは、白虎の籠手が描き出す美しい白の軌跡と漆黒の毛並みが描く黒い軌跡。


だーかーらー、縮地(しゅくち)発動するの早いってこのノウキン共め!



水の壁を張り直し振り返る。

ポカーンという表現がピッタリくるサンド君達に声をかける。

「えーと、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

無言は良くありませんよ君達。


「んーと、これって噂のちょっと強い魔物が出るって現象です?」

「あ、ああ」

「リンさん、どこから現れたの?」

「久しぶりだな」

「水の壁もだけど、ヒールの時完全に何も言ってなかったよね? うっかり言い忘れてたよね?」

「リン殿、かたじけのうござる」

一度に喋んないで欲しいでござるよ。確かにヒールって言うの忘れてたでござるよ!


「どこから現れたのかは秘密で、お元気そうで何より、実は心の中で唱えてました、でござる」

一度に返事をしておく。


「わかったもう聞かないね」

とサンド君、冒険者にはそれぞれ秘密がある。自分だけが見つけた隠し部屋や隠し通路、特殊な条件で発動する転移魔法陣など自分が見つけた貴重な情報をわざわざ他人に教えるバカはいないしギルドへの報告義務も無い。

情報はお金になるのだ。ギルドは隠し部屋や隠し通路の情報等、新しいものは破格の値段で買い取ってくれる。実際迷宮の地図作成専門で多額のお金を稼いでいる冒険者もいると聞く、サンド君はそういう意味での秘密と理解しもう聞かないと言ってくれたのだ。

まあ、転移魔法で来ましたとか教えられないしね。私の知る限り空間魔法を持っている人はこの王都にはいないし今までも一人しかあったことが無い。


お元気そうは、バス君への返事。彼は一度死んだことがあり私が蘇生魔法で生き返らせたという経緯がある。


「心の中で唱えただけで発動なんか出来ないんだからね!」

とウィン君、実は女の子なのに男の子の格好をして好きな人に会う為に学園に通っている男の娘なんだってクロが言ってた。よくわからないよね!

「今失礼な事考えてたよね? 僕は普通の男の子だからね?」

心を読まれてしまいました! まさか読心術のスキルがあるのか!

鑑定して無いのわかっているけどね。


「リン殿も侍言葉に目覚めたでござるか!」

目覚めていないでござる。ちなみに彼は侍のジュノ君でござる。


「で、簡単に経緯を説明してもらえますか?」

ベテラン冒険者さんに聞く。彼は秘密裏に私の護衛をしてくれたりした事がある人でなかなかの手練(てだれ)です。

「わかった」


ベテラン冒険者説明中...




音の無い世界。


ここは魔闘技のスキル、縮地(しゅくち)を使用する事で音の速度を超え突入する世界。


周りの景色が間延びした中を駆ける。


横を見ればテレスも同じ世界を駆けている。


ニッ、っと嬉しそうに笑う。我とテレス二人だけの世界、向かう先にはグレーターデーモンが二匹。そう、たったの二匹だ!

リンが移動のついでに一匹さくっと()ってしまったのだ! ずるいのだ!


テレスに目で合図し我は右へ向かう。

ノロノロと動くグレーターデーモンの正面にジャンプしたところで、音の無い世界から抜け出る。


くるんと回転しグレーターデーモンの胸にトンと着地する。

「ガッ?」

「デカブツめ、簡単に死ぬなよ? 浸透勁(しんとうけい)獄炎(ごくえん)!」


ズンッ!

グレーターデーモンが一瞬ブレる。


くるくるくる、すたっ! といつの間に宙を舞っていたのか華麗に着地したネコが呟く。

「我が一撃は必殺なり!」


ゴゥ! とグレーターデーモンが内部から燃えあがる。

ちなみに魔闘技に浸透勁という技はあるが、獄炎などという派生技は存在しない!


「クロちゃん、それじゃあ魔石も残らないじゃない」

「うにゅ!」

テレスの後ろを見ると既に事切れたグレーターデーモンが倒れている。

「綺麗でしょ、これでも死んでいるのよ」

「むきゅ! 別に魔石などいらんのだ!」

テレスに向かってジャンプし腕の中に納まる。

「まさか同じ世界を見れるようになるなんてね」

「ふふん! 我の目指す先はこんなところではないのだ!」

「負けないわ」

「うむ! 勝負なのだ!」

笑い合う。




ベテラン冒険者説明終了。


(リンー! 開けてー!)

ぺしぺしと水の壁を叩くクロとそれを抱いているテレスさん。


水の壁を解除する。

「お疲れ様です」

ベテラン冒険者さんが話に加わる。

「テレスさん。まさか、もう倒したんですか?」

「ええ、あんな雑魚(ざこ)にリンちゃんとの貴重な時間を裂くなんて無駄過ぎるわ」

「雑魚って...えぇえ...」


「じゃあ、犠牲者がいるみたいなんで、ちょっと出口まで私達が先行して見て来ますね」

バス君がグレーターデーモンに食べられていたおそらく冒険者の足だけを目撃している。

「わかったわ」

「俺達も...」

「あー、えーと、ごめんなさい。サンド君達はあの死体が迷宮に吸収される前に魔石と売れそうな素材の採取お願いできますか、ベテラン冒険者さんは取れる部分の指導お願いできます?」

グレーターデーモンを指差す。なんか一体灰になってるんですけど?


クロ君を見つめる。

ついっと目を逸らすクロ君。まあ、別にいいけどさ。


「……了解した。俺達のやれる事をしようか」

「はい」

助かります。

(足手纏いだからついてくるなとはっきりいってやれ)

(んー、見られていると色々制限がかかるから面倒臭いだけなんだけどね)

(最初から見捨てればよかったのに、まったくリンはあまあまだな!)

(クロは辛口だね!)

(我は甘党なのだ!)

(はいはい)




街中を買い物にでも行くような気軽さで歩いていく女性二人とネコを見送る。

「なんていうか、立場が逆だよなぁ」

「だなぁ、男の面目みたいなのが粉々に打ち砕かれるよな」

「そんなの初めてパーティー組んだ時からだったよね!」

魔術師のウィンは魔法発動の触媒となる杖も持たず、さらに呪文の詠唱も無く魔法を発動するリンに昔から心の中で突っ込みを入れている。

「そうだなあ、僕達だってレベルもスキルも上がってるけどリンさんの成長は規格外だよな」

「拙者は最初から規格外だったと思うでござるよ」

刀術というユニークスキルを持った侍であるジュノはパーティーの中で頭ひとつ抜けた強さを持っている。

「あー、やっぱそう思う? 俺もそうだと思ってた」

狩人のバスは蘇生不可能なほどの、灰となってしまった状態からリンの蘇生魔法で生き返っている。その様な奇跡は光魔法の専門家である教会の大司祭でも不可能な事、当然リンからも口止めされている。バス自身もそのことを誰にも話すつもりは無い。


「ほら、口よりも手を動かせ! こんな高位魔物の素材剥ぎ取りなんて早々出来ない経験だぞ」

前々から何となく気付いていたが実際間近でみて思い知らされる実力の差に、実は一番へこんでいるベテラン冒険者。

ベテランの域まで達するとその差というのが感覚でわかるものなのだ。実際ここに転がっているグレーターデーモンの強さというのは実感できた。

しかし、にへらと笑った彼女には何も感じなかったのだ。何も感じないなどありえないこと。戦う術を持たない赤子や老人でさえも何かしらの存在感を感じるものなのだが彼女にはそれさえも感じない。

いつもはギルドの治療室や受付でしかあったことがなかったから気にならなかったことだが、この迷宮という死と隣り合わせの場でさえいつもと同じ雰囲気を纏っている不自然。


いったいどのような経験を積めば...


…………ハッ!

彼等に無言で見つめられている。

「ベテラン冒険者殿は頭じゃなく体を動かした方が良いでござるよ?」

「すまんでござる」


笑いが起こる。

緊張が解けるのを感じる。


ああ、俺達は死ななくて済んだのだ。

「ハハハッ! ほらとっとと剥ぎ取りを済ませて彼女たちを追いかけようぜ」

「はい!」

「おう!」

「うん!」

「承知でござる!」

死から開放された者達の明るい返事が返ってくる。

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