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31:ゆずれないもの3

至極真っ当な提案をしてみる。

「えーと、やめませんか?」


男性教師が答える。

「何をです?」

「魔法の稽古とかいうのをです。私の教えている子達は光魔法の生徒です。冒険者になる子もいるでしょうけど、ほとんどは戦闘と関係無い職につくはずです」

「ならば、冒険者である貴女が手本を見せればいいのではないですかな?」

「なんのですか?」

「光魔法を使える者の戦い方というものをですよ!」

「えーと、手本にならないと思います」

「ハハ、ハハハハッ! 役に立たない光魔法と水魔法では戦えないと?」

だからなんで、私の個人情報を知ってるのさ?


貴女(あなた)! 貴族であるわたしの善意を無碍(むげ)にする意味をわかってますの?」

「えーと、よくわかってません」

「この、教師立会いの正式な場で我がアフターバーナー家に恥をかかせるという事は。つまり、我が家の敵になるという事ですわ!」

「えーと、それはつまり冒険者ギルドを敵に回すという事?」

「そうよ!」


「いえいえいえいえ、違います。これはDランク冒険者である貴女の個人的な揉め事。Bランク以上のギルドが囲っている冒険者とはわけが違います」

「そうなんですか?」

「そうです。Bランク以上のギルドの実力者や貴族が後見人として登録された冒険者ならば、ことはギルドまたは後見人となっている貴族との争いとなりますが、あなたの場合はまだDランクです。なのであくまで光魔法の教師である貴女個人もしくは冒険者である貴女個人の問題」


「あー、んーと」

どうしようかなぁ...

「どうしました? まさか今になって事の重大さに気がつきましたか?」


まあいいか、

「えーとですね」

懐から取り出す振りをしてアイテムボックスからギルドカードを取り出し。


ぱくっ!

「あっ!」


とぅ! とん! とととと!

「ちょっと、クロ!」

(こんな結末は却下なーのだー!)


勝手なことをいいながらギルドカードを(くわ)え逃げていくクロ君。




へらへらとした態度を取り続ける女に怒りが募る。自分の立場をわきまえていない愚か者。

学園から逃げ出す程度にいたぶるつもりだったが、その程度では足りない。

(ひざまず)いて許しを請うそれを踏みにじってやる! 絶望の底に落としてやる!

格上の家以外ならば何をしてもいいと言われている。


あの女のペットが何かを(くわ)えてこちらに走ってくる。丁度いい。

「殺しなさい」

「……」

無言で頷いた男が足を大きく振り上げ近づいてくるネコの腹を...



グチッ!  ドンッ!    トサッ!



音はこの三つ。そして室内は静まり返る。


最初の音は、

剣士が移動したかと思ったら足を振り上げ、クロの腹を蹴り何かが潰れた音。


次の音は、

ほとんど直線の軌道で宙を飛んでいったクロが壁に激突する音。


最後の音は、

壁から地面に落ちた音。



とことことことこ。

床に横たわる血塗れのクロに近づき抱き上げる。

(リン、後はまかせた、の、だ! ......がく)


「もー、汚いなぁ」

タオルを取り出し血を拭きながらヒールを掛ける。


ギルドカードはアイテムボックスにしまい。クロもタオルに包んだままフードに入れる。




立ち上がり、泣き叫びながらこちらに駆け寄る生徒たちを見。楽しそうに笑っている愚か者たちを見て言う。

「えーと、本当の戦いを教えて欲しいんだっけ?」


「おや、やっとその気になってくれましたか」

「あらあら、その汚らしい獣を殺されたのが気に障りまして?」

「綺麗に飛んで行きましたわね」

「ええ、お見事でしたわ」


「はい、それアウトー」

思わず口から出てしまう一言。


「何がですの? ホホホ!」

「アウトなのはお前の頭だろ? ハハハ!」

「死体を持ち歩くなんてどうかしてますわ!」

「光魔法の先生なら蘇生してみたらどうだ?」

「出来るわけないでしょ」

「それもそうか!」

「オーッホホホ!」

「ギャーッハハ!」


楽しそうに笑う御一行と黙ってこちらを見つめる剣士。


まったく、道化にもなっていない。


でも、まあ。


私達の敵ならば、叩き潰さないとね?




闘技場へと移動する。

「リン先生、クロちゃんは...」

「………………グスッ!」

「蘇生って、動物も寄付の額同じなの?」

「教会は人以外の蘇生を受け付けないって聞いた」

「わたし他の先生を...」

助けを呼びに抜け出そうとする生徒を取り巻きたちが阻む。


「逃がさないわよ」

「お前らもついでに痛めつけてやるよ、いつものようにな!」

「殺すのは無しにしてくださいね、蘇生と隷属の処理を出来るのは一人だけですから」


「隷属って、何を言っているの?」

「殺すって、やだ...」

「リン先生...」

「ん?」

「助けを呼ばないと...」

「なんで?」

「私達のこと殺す気です」

「そうみたいね」

「先生...」


男性教師が言ってくる。

「安心してください。今日は一日実習の予定がありませんので、闘技場には誰も来ません」

「せんせー、事故でも起きたらどうするんですかー?」

「大丈夫です。わたしが責任を持って対処しますので」

「心配いりませんわ、蘇生するお金が足りないなら我がアフターバーナー家が責任を持って立て替えてあげますわ」




私を見つめる目、目、目...

「誰も来ないのかぁ、面倒臭いなぁ...」


空につぶやく。





闘技場:

魔道具を発動すると闘技場内と外が擬似的なロックの魔法で隔離される。


魔道具を触りながら男性教師が指示を出す。

「では、時間指定で起動しましょうかね。全員中に入ってください」

「なんで、全員なの!?」

「あたりまえじゃないですか、誰かを呼びに行かれたり逃げられたりしたら困ります」

「やだ! 死にたく無い!」

「助けて!」


口々に助けを請う。光魔法の生徒をただ笑ってい眺めているゴミ達。



「あー、皆は何もしなくていいからさ、ちょっとこっち来てて」

ちょいちょいと皆を呼び寄せる。

「リン先生、でも...」

「私も戦います!」

「わ、わたしも...」

「んー? いや、邪魔だからいいよ、その辺に座って見てて」


「プッ!」

「何かっこつけてんの?」

「もしかして開始と同時に土下座でもするのかしら?」

「なにそれ、おもしろーい!」

「でも、許す気無いけどね?」

「キャハハ!」


「いやあ、さすが女性の身で冒険者になるだけあって気丈ですな!」

言いつつ魔道具を発動する男性教師。

「実にいたぶりがいがあります」

サディスティックな笑みを浮かべる。



ヴゥン!


闘技場全体が特殊な何かに包まれ外部と隔離される。


「もう、何が起きても逃げられない」


「フフフ、許してと泣き叫んでも誰も来てくれませんわよ」


「やだ....誰か助けて...」

「リン先生...」


助けを請う無能共の中、一人だけ平然と立っている女。

下賤な冒険者の意地かしら? けど、その様な些細なものいつまで持つか。

試してあげるわ! 剣士に命令する。

「死なない程度に痛めつけなさい!」

「……………………」

返事をしない剣士を振り返ってみる。


「何をしているの? 早く行きなさい!」

「……………………たすけ、て」

怯えた目である一点を見つめ助けを求める剣士。



その視線の先を見る。



ごそごそごそ、ひょこ!

(始まったのか?)

フードから顔だけ出して私の肩に(あご)をちょこんと乗せて聞いてくるクロ君。

(もー、クロさ、返り血とか浴びないでよね、汚いんだから)

(むむ、すまんのだ)

(それに、あれわざと蹴られに行ったでしょ?)

(…………ぴゅーぴゅーぴー!)

(なにそれ?)

(口笛なのだ!)

(もー)


「……………………たすけ、て」

クロの魔闘技で蹴った足をぐちゃぐちゃにされた剣士が助けを求めてくる。

「ん? 何言ってんの」

「助けてください...」

「さっきヒール掛けてあげたでしょ?」

「この全身を動かしている何かを...」

「ああ、」


くぃっ!

とここまで無言で歩くだけの動作をさせてきた糸を、全身に絡み付けていた糸を引く。



ドサッ!

今度の音は一回だけ。


剣士の頭と胴と手と足が同時に地面に落ちる音。


「なっ!」

「ひっ!」

「え? え?」

何が起きたのか理解できないが、剣士が最後にしていた会話から。

いや、会話の相手がやったのだと皆が理解する。


皆の視線が私に集まる。


「んー、そうだなぁ」


右手を上げ。


「取り合えずさ」


横に振る。


(ひざまず)け」


ひぅん! と風の音が鳴る。



斬!

すとん、膝から下をその場に残し(ひざまず)く者達。

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