12:ある人
見つけた!
これだ、間違いない。
胸糞悪くなるカビの匂いが満ちる空間に、それは何の存在感も示さず静かにあった。
それを手に取る。
ドクンッ!
その革でできた表紙に触った瞬間、本が脈打つ。
いや、違う。これは……?
己のステータスを確認する。
おお! 目に見える速度で魔力が減っていく!
これは拙い。早く引き返さねば!
ここは、人の創りし叡智が人の歴史を刻んだそれらを納めた場所。
書架が無秩序とも取れる複雑さで並び通路を作っている。
確かここは右だったはずだ。
ここは、まるで迷路のような場所。
表の建物からは想像がつかない広大な、そして膨大な蔵書の数々。
司書は全てを把握できているのだろうか?
それならば、これの存在を知っていたことに…………!
本が無い!? そんな、まさか?
それの存在した場所へ戻ってみれば、そこはカビの匂いが漂うただの書架となっていた。
そのようなものは元から無かったかのような、よく目を凝らせば本当は存在しているかのような、いつの時代の物かわからぬ古書がただただ並んでいるだけであった。
持ち出せないという事か? 面白い!
大賢者ゲオルク・ファウストが己の全てを記したという書。
まずは準備が必要だ。
MP回復効果のある装備を集めよう。
それに魔力回復薬も必要だ。
相当な出費になるがその価値は十分にある。
召喚魔法陣の謎。
その時代に突如現れ数々の偉業を成し遂げたという大賢者。
そして世界に広がった勇者という異物を召喚する魔法陣とその儀式。
その謎の解が記されているかもしれない書。
カビ臭いその建物を離れる。
ふと、空を見上げる。
光が反射したのだろうか?
高い建物の窓が一瞬光ったような。
いや、あそこは……足早にそこを去る。
………………
…………
……
凄い!
凄い! 凄い! 凄い!
そこには、全てが記されていた。
そう、それはまるでその人の人生を覗き込むような。
神にでもなったような、それを天から見下ろすかのような。
没頭し読み進む。
知識が流れ込んでくる。己の意識と本の知識が混じりあう。
素晴しい!
もっと読みたい。
ああ、続きがある。これは誰の人生だろう?
懐かしい。
そうか、俺の人生か…………
ふと天を見上げる。
凄い!
凄い! 凄い! 凄い!
俺を見下ろす者がいる。
ああ、そうか、この本は淵なのか。
覗いてはいけなかった...の......か.........
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