10:ユートス
怒髪天を衝くという言葉があるけど。
「子供ではないか!!!」
その叫びと共に一瞬学長さんの髪が逆立つ。
ふむ...
魔眼で鑑定する。
名前:ユートス・ファウスト 種族:人族 性別:男 年齢:66
レベル:50
HP:200/200 MP:300/300
STR:70 VIT:65 DEX:50 MND:90 INT:200
スキル:(魔法)火魔法4、雷魔法1
(自動)MP回復、統率
わーお、雷魔法を習得している。
一瞬光ったように見えたのは雷魔法が少し発動したからか。
レベル50でMP300とINT200か、MP回復と統率はレベルが無いぞっと、装備しているアイテムに付いている特殊効果みたいだ。
私の装備している聖魔の糸にもHP回復とMP回復が付いている。さすがに学長ともなると代々受け継がれる凄い装備みたいなのがあるんだね。
強さのランク的にはAランクといったところ。十分凄い実力を持っている。
当然、鑑定した事は気付かれない。
Aランクで風魔法の上位である雷魔法まで習得している人をこの程度といっては語弊があるのだけど、日々魔物を相手にしている私からしてみれば雑魚というかなんというか、まあ遠慮しても仕様が無い。
ぷにぷに! 背中をぷにぷにしてくる肉球がある。
(リン! 我の雑魚レーダーに反応があったのだ!)
(クロ起きたのね、まだ挨拶が終ってないからフードの中に居てね)
ぷにぷに! ぷにぷに! ぷにぷに! ぴこーん!
(取り合えずこの雑魚共をシメて学園を乗っ取るのだ!)
(乗っ取ったって意味ないじゃん。面倒なだけだよ)
即死級の魔物とか魔王とかを見ているからか、怒鳴られても怖いとかそういう感情はまったく湧かない。
「冒険者のリンです。ギルドからの依頼で参りました」
紹介状とギルドカードを提示する。
私の一切恐れていない様子に目を見張り。
「ムッ! 肝は据わっているようだな」
紹介状を受け取り中身を確認する学長さん。
しばらくの沈黙の後。
「ディ……ディ……ディ……」
何となく予想がつく。ここでの体裁を整えるためのAランク昇格のでもあったのか。
「Dランクではないかーっ!!!」
叫びと共に学長さんの髪が逆立つ。
(ディ...ディーランクのことかーっ! 純粋な怒りによって彼は覚醒したのだ!)
「ぷっ」
思わず噴き出してしまう。
隣のゴーンさんとユートス学長さんが一斉にこちらを見る。
ばっと、横を向いて視線を逸らす。あぶないあぶない! ギリギリセーフ!
「今、笑ったな?」
アウトでした。ピキピキという怒りの表現が似合いそうな顔で聞いてくる学長さん。
「ワラッテマセンヨ?」
鋼の平常心で言いつつギルドカードのある箇所を指差す。
!!!
怒りの表情が、驚きに変わり、そして怯えになる。百面相といっても過言ではない変わりよう。
学長さん、恐るおそるこちらを向き口を開く。
「あ、貴女様は...」
その先を言う前に差していた指を自分の唇に持っていき。
「しぃ」と言う。
黙る学長に目線でゴーン先生が居る事を伝える。
「ゴーン君、案内ご苦労。職務に戻りたまえ」
威厳のある声でゴーン先生に出て行くように言う。
「あ、はい。失礼します」
自分が居ては都合が悪い事を察して早々と部屋を出て行くゴーン先生。
扉が閉まったとたん続きを言おうとする学長さん。
「貴女様は王族の...」
「聞かれて答えるとでも?」
先を封じる。
そう! さっき指差したのはギルドカードの後見者の項目。
後見者がつくはずの無いDランク冒険者にローラン王家の後見がついている。
何を意味するのか?
そもそも、王家が後見についたという話自体事態滅多に無いという話しだ。
ということは、ローランの血筋なのではないか?
自分は今この学園を経営しているローランの血縁者に何を言ったのか?
まさか、丁度良い依頼があったから視察のために冒険者に扮してここに来たのではないか?
確認させない事で、疑問が不安になり恐怖へと変貌し暴走する。
(リン、悪辣だな!)
(ふふふ! 計画通り!)
(これでこの学園は我々の物だな!)
(いらないけどね!)
「えーと、気にしていないので依頼内容の詳しい説明をお願いできますか?」
ニッコリと微笑む。
「は、はい!」
(リン、雨と無知と言う奴だな!)
(うん、飴と鞭ね)
(そうともいうのだ!)
依頼内容は、光魔法のスキルと素養を持った者達への指導。
スキル持ちには実践の手解きを行い、素養を持った者には才能の開花の手助けをすること。
「先任の方は失踪したとの事ですが?」
「はい、現在も行方不明でして...」
ん?
情報が矛盾している。
「学園の施設は自由に使ってもいいのですか?」
「はい、こちらの道具に魔力を登録していただければ教員用のカードを発行いたします。それを使用していただければすべて自由に使用できます」
ふむ...
魔力の登録ね。
(トップを掌握したと思ったらいきなりきな臭いな、どういうことだ?)
(さあ、情報の共有がされていないだけか、何か裏があるのか)
魔力は、波長を変えて登録しておく。
魔道具については製作者の一族と知り合いだ。しかも錬金が5というトップクラスの凄腕さん。登録魔力を別人として登録する方法というか裏技も教えてもらった。
登録された魔力波動専用で魔法を発動できなくする魔道具の存在も知っている。
効果範囲が極端に狭いため実用性はそれほどないが、使い方によっては相手を無力化できる非常に危険なものだ。
目の前にあるものが正にそれ。
しばらくすると、ノックの後に年配の女性が入ってくる。
「こちらが教員用カードになります」
と手のひらに収まるサイズのカードを渡される。
「リン様。学園での生活等に関して詳しくはこの者に聞いてください」
「リンさま...?」
学長の言葉に年配の女性が困惑している。
「その件は内密にお願いします。リンでいいです。よろしくお願いします」
学長にはローランの件は内密にするように釘をさす。
「はい、よろしくお願いします、リン...さん」
私の呼び名はリンさんになるようだ。
失礼します。と挨拶をし部屋を出て行く冒険者。
「……王族関係者か、扱いづらい者を寄越してきたな」
冷めた視線で出て行った扉を見つめる。
だが、都合よく本人が秘密にする事を望んだ。
つまり、知らない者からすれば一介の冒険者に過ぎない。
ギルドカードを見たところ持っているスキルは光魔法4と水魔法4のみだ。Dランクの冒険者としては破格の強さだがそれだけだ。
争いに敗れ王家の本流から外れた貴族もいる。その者達には秘密裏に伝えるのも良いだろう。
なによりも、あの様な血筋によるものか判らぬが才能だけの子供に勤まるような仕事ではない。教会から派遣された者も逃げ出すような状況だ。
一日も持たないかもしれない。それはそれで問題ない。
もしもの時は……魔道具を見る。
冒険者ギルドのウィリアム。
下級貴族出身の分際で国策を決める会議にまで顔を出す厚顔無恥。
王族には手を出せないとでも踏んでいるのだろうが...
先ほどまでの表情は嘘であったのか?
扉を見ていた視線を窓へ移し、そこから見える学園を見下ろす。
先ほどの冒険者、いや、少女が歩いているのが見える。
ちっぽけな存在だ。
今、ここから高位魔法である雷の矢を放てば、簡単に絶命するだろう。
少女に杖を向ける。
パリッ!
杖の先に雷が宿る。
雷に打たれる姿を思い描きクッと喉が鳴る。
暫く少女を眺めた後杖を降ろす。
雷で死んだとなれば犯人が特定されてしまう。
放っておけば学園が殺してくれる。
学園を眺め...暗く嗤う。
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