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08:女教師

ローランアカデミー:

国が運営する学園といっても実際は職業訓練学校という位置づけだ。

力の有る者のみが入る事の許された場所であり、権力、財力、腕力、知力と力の種類は色々あるが、何か抜きん出た力を持ったものには出自に関係なく広く門戸を開いている。


しかしながら、力といっても優劣は存在する。

例えば貴族は権力と財力を有する。これはそのものが持っている力ではなくその者の所属する一族や組織が持つ力だ、そしてその力は腕力、知力をその所属する構成員として、もしくは財力によって手に入れることも可能なのだ。


それは逆も然り。己の持つ腕力、知力で成り上がりたい者はここで力を磨き将来の栄達を夢見る。


つまるところこの学園は、国という権力が腕力、知力という個の力を集めて育てる訓練所であり、それと早いうちに関係性をもしくは取り込もうとする貴族や豪商の次代を担うものが通う学園なのだ。




今、門をくぐった少女はどのような力を持つのだろうか?


そのローブの上からでもわかる華奢な体つきは腕力ではないだろう。


ならば知力なのか?


身奇麗な服装と美しい顔立ちからすると貴族なのだろうか?


いや、美貌という力も存在する。その美貌で有力貴族と関係を持つのが目的なのか?


(いな)


否否否否否否否否否否否否!!!


騙されてはいけない!


そこに存在するものは絶対的な暴力!


我に歯向かう全てを叩き潰し破壊し蹂躙する!


権力、財力、腕力、知力?


ふっ!


その様な些細なものなど我の前には等しく無力!


無駄無駄無駄無駄無駄無駄むだむだむぅぅぅだぁぁぁぁぁ!!!


「クロ、うるさい!」

むぎゅっと陰陽浄衣の合わせた(えり)から顔だけ出して妄想大爆発のクロ君を取り押さえる。

「むきゅぅ、はーなーせー!」


「乙女ゲームのヒロインや悪役令嬢に転生したと勘違いしている○ちがいを撲滅するのだぁぁぁ!」

「そんな人いないから!」

「クラスごと異世界転移してきて学園生活でイチャラブしている○ちがいを撲滅するのだぁぁぁ!」

「最初のとこだけ私だから!」

「リンは我とラブラブだからおっけなのだ!」

「あ、いいんだ、そこは」



「はっ! リン曲がり角なのだ。取り合えずアイテムボックスからパンを出してくわえながら走って曲がり角に突っ込むのだ!」

「なにそれ?」

「定番なのだ! はやくはやく!」

「そんなことしませーん!」


いいつつ曲がり角を曲がったところで、誰かが角から飛び出してくる。

(イベントきたぁぁぁぁぁぁ!)

クロ君なんか絶好調だよね。


ひょい! と避ける。

(ちぃ! だがまだ終らせんのだ!)


てぃ! とクロが念動力で飛び出してきた人の足をもつれさせる。

「あぅ!」

方向転換しこちらに突っ込んでくるその人をまた...


ひょい! と避ける。

ずざぁぁぁぁああ! 可愛い叫び声と派手な音を立てて転ぶその人。


「いたたたた、転んじゃった」

恥かしそうに振り向くウィン君。

(ちっ! 男の()か、紛らわしいのだ!)

「女の子みたいな声出しちゃってやっぱりそうなんだね!」

「!!! リンさん今失礼な事口に出していったよね!」

「あっ、いいましたごめんなさい」

「認められちゃったよ!」


お詫びに擦り剥いた所に回復魔法をかけてあげる。

「ふぅ、これでチャラだね」

「チャラにされちゃったよ!」


ウィン君に職員のいる建物への案内をお願いし連れ立って歩く。

「ていうか、リンさんなんで学園にいるの?」

「なんとなく」

「じゃあ、なんで職員棟に行くのさ」

「そこに職員棟があるから」

「…………」

「ごめんなさい、ギルドの依頼で来たのです」

(思わずからかってしまいたくなるウィン君)

(カーサと似ているな)

(カーサは天然だけどウィン君は意識的にキャラをつくってるところがあるよね)

(まあそうだな、風の一族なのに風魔法のスキルが無いという異端だったからな、一族内での風当たりを避けるための処世術というのも多少はあったのだろうな。風の一族だけに! ぷぷぷぷぷ!)

(おもしろーい)

(むきー!)

昔、パーティーを組んだ時は火魔法しかなかったのだけど、今鑑定してみると風魔法を習得している。

「リンさん、また――」

「良かったね」

努力によって風魔法のスキルが開花したのか、大枚を(はた)いて風魔法の巻物を買って習得したのか、それとも仲間達と迷宮探索で手に入れたのか。

いずれにしても(たゆ)まぬ努力の成果という事。祝福すべき事柄だ。




ふわりと微笑まれる。

何が良かったのか、思い当たる(ふし)は幾つかあるけど、彼女がほとんど他人に向けないその笑顔が、今だけ僕に向いてる事がわかった時点でどうでもよくなる。

「う、うん。ありがと」

僕よりずっと凄い実力を持つ彼女に少しだけど認められたような気がして嬉しくなる。

その笑顔を憶えておこうともう一度彼女を見れば、胸のとこから顔だけ出した。彼女の笑顔を独り占めしているネコ君と笑い合っている。

「あー! また失礼な事考えてたでしょ?」

「え? カンガエテマセンヨ?」

「もー!」


そんな他愛も無いやり取りをしていたら目的地に着いた。

ありがとう。と礼を言い建物へ向かう彼女に聞く。

「リンさん、依頼って?」

冒険者ギルドの依頼。しかも行き先は迷宮でなくここローランアカデミーだ。極秘の内容という可能性のほうが高い。


「別に言えないならいいんだ――」

「臨時の講師の依頼なのです」

「え?」

「しばらく光魔法を教える教員として働く事になったのです」

じゃあ、そういうことでと言い残し建物へ吸い込まれていく彼女。


女教師リンの誕生である。

「えぇぇぇぇ!?」

女の子のような叫び声がこだまする。

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