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Episode-3 束の間のグルメ

 ホテルの敷地内に停めてあったラグロンの宇宙船は秘密裏に地球を出発した。


 元帥はどんどん遠くなっていく青い星を窓越しに眺め、思案にくれていた。前回の地球発は他のメンバーと一緒だっただけに思うところがあるということだろう。


 拘束はされていないがラグロンに見張られている状態。携帯端末(スリー・フォン)も持ってくることができず外部との連絡もとれない。なかなかに厳しい状況だ。


「もしこのタイミングで暴れて脱出しようと考えているならやめたほうがいい。ここでは二人きりじゃが部下をまだあの付近に配備しとるからな」

 儂を倒したところで無駄じゃとラグロン。


 元帥は両手をあげてみせた。 

「抵抗はしないよ。潔白を証明することだけを考えてるから」


「それならこちらとしても助かる。それはそうと、腹は減っとらんか? この近くに旨い店があっての」

「それはいい。夜食が欲しいと思っていたところだ。……ちょっと待て。連行中にいいのか? 私が逃げることも考えられるぞ」


 ラグロンは原子収縮で再び刀を出して見せた。

「あんたの荷物は調べさせてもらったが、武器は入っていなかった。それに逃げようとしたところで船もない。ならば素直に奢られたほうがあんたにとって得策というもんじゃろ。ほれ」


 ラグロンはメインモニターに火星周辺の地図を表示させた。そこに明滅するポイント全てが何らかの施設で目的の店もそのなかにあるということらしい。


「妙な信頼、光栄だよ」

「そうと決まれば星間転送口を通って飛ばすしかあるまいな」

 言うがはやいか宇宙船は星間転送口に飛び込み、強引なワープ航法に突入した。乗り物酔いに弱い艦長がいたら悲鳴をあげていたことだろう。



 さすがの星間転送口。文字通りあっという間に火星軌道上に到着した。


 地球の日本時間では深夜だが、もちろん宇宙空間ではそんなものは関係ない。飛び交う宇宙船たちはせわしない。


「ここじゃここじゃ。さ、降りるぞ」

 ラグロンが指したのは赤い暖簾のかかった宇宙船。内部は店仕様に改造されているようだ。


 店から四方へ伸びているタラップがいわゆる駐車場の役割を果たしている。二人はそこを通って暖簾をくぐった。


 店内には既に数組の客がおり、仲良く鉄板を囲んでいた。

「どうよ。ここはこの辺りでは珍しい本場オコノミ・ヤキの店でな。儂も贔屓にしとるんじゃ」

 なぜか胸をはるラグロン。思い入れがあるのだろう。


 座敷の席に座った二人は壁に貼ってあるお品書きを眺める。


「儂はブタ玉にする。あんたはどうするんじゃ。経費で落ちるから勘定のことなら心配はいらん」

「えっと、それならイカ玉で」


 店に入ってからやや食い気味のラグロンに若干引く元帥。


「トッピングは? ここのは牡蠣とチーズが鉄板じゃな。鉄板だけに」

「それで頼む」


 すぐに小型のボウルに入った具材が運ばれてきた。


「お好み焼きの面倒は儂が見る。あんたは中華そばと卵を頼む」

「中華そば? お好み焼きに?」


 元帥にとっては初めての経験だったがここは指示通りに麺に火を通すことに集中した。


「ソースと鰹節と青海苔……よし、できたぞ」

 共同作業の甲斐あって特上の一品が完成した。無心にヘラを口へ運ぶ二人。


 夢中で頬張るラグロンに元帥が唐突に問いかけた。

「そろそろなぜ私を連行するのか教えてもらえないかな」

「おかしなことを言うな。前のエイリアン事件と言ったろう」


 元帥はイカ玉の大きな塊を丸飲みしてから続ける。


「天下の宇宙連盟さんがそんな理由でこんな辺境に人員を寄越すはずがない。誰かの差し金なんじゃないのか?」


 答えに窮するラグロン。ふうとため息をついた。

「隠し事はできんな。もちろん儂があんたに興味があったというのは嘘じゃない。だがまあ、実は副議長直々の指示なんじゃ」


 ここで元帥は初めて動揺した様子を見せた。


「副議長?」

「ジュー・ジュビーさん。まあ知らんか。その手腕はピカイチでもっともっと出世するといわれているすごいお人でなぁ」


「ふうん。あっ、ミックス天ひとつ」

「話聞いてたか!?」





☆★☆





 翌朝。ホテルで一部の客が大騒ぎする事態となった。それもそのはずだ。


 目が覚めて元帥がいなくなったことに気がついたOKEYAの面々は元帥の部屋に集まっていた。

「うわあああ! げんすーい! どこ行っちゃったんすか!」

 

 他のメンバーに比べて一部の客(艦長)は先ほどから落ち着かない。ベッドの下やクローゼットの中まで引っ掻き回して元帥を探している。


「シルク、落ち着けよ。元帥が黙っていなくなるはずないだろ」

 総長は既にホテルのフロントに連絡をとって元帥がもうホテル内にいないことを確信していた。


「考えられることは」

 会計が人差し指をピンとたて解説モードに入った。


「部屋に争った形跡があるけど血が流れてない。携帯端末(スリー・フォン)はここに置いてあるのに元帥の荷物がない。他の階の客たちが何も気がついていない。よって、元帥は当初争ったものの気絶させられてどこかへ連れていかれた。もしくは」


「メガ姉、もしくはってなんだよ?」

 監察官が続きを促した。


「もしくは、元帥がやって来た相手と意思の疎通を図って一緒に出ていった」

「ホテルのセキュリティに引っ掛からないような相手と? そんなことがあるんですか?」


 庶務はこの意見には懐疑的なようだ。


 どちらにせよ彼らとしては今後の方針が掴みづらい状況であることには変わりない。


 困り果てていた彼らのもとにフロントから内線が入った。無言の譲り合いのすえ、官房長官が受話器をとった。


「もしもし?」

「OKEYAの元帥様に火星の惑星通信(プラネット)様からお電話です。よろしければこのままお繋ぎいたします」


 元帥がいないとあっては仕方ない。官房長官がそのまま用件を聞くことになった。


 受話器から中年男性の声が聞こえてきた。察するにとても焦っている様子だ。

「あー、あなた、OKEYAの元帥さんですか? わたくしは惑星通信(プラ・ネット)の広報課の者なのですが――」

「お電話代わりました。申し訳ありませんが元帥は留守にしておりまして、私が御用件を承ります」


 そういえば本来のOKEYAはこんなんだったよなとあえて艦長は口にしなかった。


「元帥さんはお留守でしたか。いや、この際聞いてくださるなら誰でもいいんですよ。単刀直入に申しますとうちの服部が姿を消しまして。探してほしいんです」


 驚いたことにOKEYAの身近に行方不明者がもう一人いたようだ。

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