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Episode-21 ヘンケイの七つ道具

 パイオニアKの第7通信室は混乱を極めていた。なにせ管轄するエリアの通信が突如乱れ、船内で孤立してしまったのだ。


 つい先日昇進し、第13通信室長を任されることになったKOUTORII歴5年目の男はあまりの事態にパニックになっていた。


 ド田舎の星系から飛び出してきたはいいものの、異常なまでに熱しやすく冷めやすいせいで行き場のなかった彼とその部下たちは拾われた恩がある。4本の腕がちぎれるまで働いてやろうと皆勤労意欲に燃えていた。


「ヤバいヤバい! 誰か第12通信室まで走って伝えてこい!」

「了解しました! 松葉杖はいったん置いてすぐ行ってきます!」

「馬鹿野郎、骨折してる奴は安静にしとけ!」


「室長、ここは俺が行きましょうか? 脚に強化繊維とコンバータを仕込んでるんで100メートル15秒切れますよ」

「結局常識的な速さじゃねぇか!」


「室長、ユウタくんが鼻血出してます」

「小学校のあるあるやめろ!」


 ここだけの話この通信室が管轄するエリアはパイオニアKの隅なので、配備されている者たちはそれに見合うった人選になっている(あとは面接を担当したリラとミャットンがノリで採用を決めてしまったせいというのも大きい)。


 てんやわんやの大騒ぎをどう収拾しようかキャパを超えてしまった室長の耳から煙が噴き出そうとしたころ、外部からの無線が反応した。


「こんな忙しい時になんだ!」

「室長、なんかピザ届いてます」


 この時代のデリバリーピザ屋は当然宇宙にも配達地域がある。それでもここまで届けに来る根性は称賛に値するが。


「こんな時にピザを頼む奴があるか! 頼んだのは誰だ! そんなたるんでる奴はクビだぁ!」


 部下が無線でピザ屋と言葉をかわす。

「室長、なんでも夏目さんという人からのご注文だそうですが」

「ピザは人格者の食い物だ! 冷めないうちに早急にお届けしろ!」


 慌てて通信室下部のハッチを開くとどこかで見たようなロゴのデリバリー用小型宇宙船が静かに停泊した。


 CMでお馴染みの制服を着た男が降りてきた。

「どうも。ピザ荒川です。ご注文いただいたズワイガニスペシャルクォーターのLをお届けにあがりました」


 夏目が呼んだのなら無下に扱うことはできない。室長はすぐに通信室に通した。


「あぁわざわざすみませんね。おいくらですか?」

「ただ今、ピザ何枚でも無料キャンペーンをやっていましてタダです」

「バグったキャンペーンだな!?」


 広い宇宙で勝負するには色々と大変らしい。


「ではご注文いただいた夏目様にお届けしますね。どちらに行けばお会いできますでしょうか?」

「メインコクピットじゃないですかね。だいたいそこにいると思いますけど」


 ピザ屋はどこかしたり顔でうなずいた。


「なるほど。あと、牢屋的な場所ってありますか? あっ、こっちに電子サインお願いします」

「収容区画のこと? あー、それなら艦内パンフレットを渡しますよ。地図とかも載ってるんでそれ見ると分かりやすいと思います」


 室長は余っていたパンフレットを手渡した。そして残りの腕で電子サインをして寄越した。


「ありがとうございます。そうだ。皆さんにはこちらを」


 リーダーは包装紙に包まれた重みのある何かを受け取った。


「これは?」

「ホルモンです」

「ピザじゃないのかよ! 無料キャンペーンどこいったんだよ」

「ではそういうことで」


 男は一礼しピザを抱え、走り去っていった。


 その背中を見送る部下の関心は既にホルモンに。

「それにしてもあの人よくここが分かりましたね。不規則な起動の三連星を追いかけてるんだから場所なんて分かりっこないのに」

「そんなことはいいんだよ! お前ら、通信のことはあと! ホルモン食うから全員ビール用意!」


 室長が鉄板にホルモンを並べ、指から出した火で炙っていく。かなり便利な体質だが使いどころを考えるべきと言わざるを得ない。


「いやぁ俺たちいい仕事したなぁ」

「そうですね!」


 問題は何一つ改善していないが、熱しやすく冷めやすい者たちの酒盛りが始まった。




 どんちゃん騒ぎの声が遠く響いてくる。


「敵でもあそこまで喜ばれたら悪い気はしないな」

 リノリウムが輝きを放つ廊下を、壁一面の配管に見つめられながらピザ屋が疾走していた。


 腕の端末が光った。

【介さん、そっちはどう?】

「引くくらい簡単に侵入できた。なんだよピザ何枚でも無料キャンペーンって。自分の発想の乏しさとあいつらの洞察力の両方に泣けるわ。それでレイちゃんたちはどこにいるんだ?」


 ピザ屋のふりをして忍び込むというめちゃくちゃな作戦だったが思いの外うまくいってしまった。

 総長としては強行突入も辞さない考えだったので拍子抜けな部分がある。

 

【ちょっと見つかっちゃってね。なんかポケットティッシュとかラップとか置いてある倉庫みたいなところに隠れてるんだよ】

「えーっと。多分そこは用度品庫だな。すぐに向かうよ」

【助かる! よくばりクォーターのLとエビマヨのL、なるはやで!】

「いやピザ荒川はもう廃業してんだよ」 




☆★☆




「うぉっと!?」

 視界の彼方に捉えた巨大宇宙船にアプローチをかけようとしていたサガヌキ号は急遽機体を傾けてコースをそらした。

 コンマ数秒も待たずに先ほどまで機体があった地点を光の筋が貫いていく。


「何だ!?」

「分からんけどお友達って感じではないな」


 回避できたのはラグロンの神眼がギリギリシルエットを捉えたからだ。咄嗟に機動を変えていなかったら危なかった。


 ラグロンは反転し攻撃者を追う。しかし噴射炎が僅かに見えるのみだ。敵は相当な性能を備えているようだ。


「無人機か!」

「いや。動きが人間臭い。それに君のテクニックで捉えきれない無人機はそうそうないでしょ」

「急に持ち上げるなよ」


 サガヌキ号のエンジンは特注の最新鋭。それをラグロンが操っているのだから、そこから逃げることなど不可能に思われる。


 虚空から再びレーザーが伸びてきた。


「ゴミカスこらぁ! セコセコ撃ってきやがっちんちゃいや!」

「どこの言葉だよ」


 砲手の元帥が敵機をガンポッドで狙う。センサーはあるがそれでは当たらない。補助なしで撃たなければならない。


 機首を翻しさらに仕掛けるも、敵の動きがそれを上回っている。


「ちぃっ速いのぅ!」

「ここにきて面倒なのが出てきたな」


「えぇいまどろっこしい!」

 ラグロンは通信強度を最大にした。ついでにスピーカーも。


「どこの誰だか知らんけ邪魔すな! 儂らが用がるなぁそっちの親玉じゃ!」

「どこの言葉だよ」


 すると敵の動きが止まった。改めてその姿を眺めると、元帥が睨んだ通り戦闘型の最新鋭機だった。


「知らないか? それは異なこと。私は君をよく知っているぞ」

 通信に返答があり聞いたことのある声がした。


「ん? 誰じゃ? タバコ屋のカメヤマさんに声が似てる気がするが」

「桶屋京一郎。久しぶりだな」


 聞き覚えがある声がひりつくような記憶と結び付いた。そう、あれは海王星での一件。


 電波ジャックとともにモニターに映像が送られてきた。

「こうしてまた会うとは。それも古賀でも武中でも泥野でもなく元帥殿。あの3人は一先ずおいてここで君を宇宙に還して差し上げよう」

「ガラク・ベレレン……!」


「驚いているな。まぁ無理もない。しかしそれはもう少しとっておいてほしかったが」


 ガラク機が動いた。


「また撃ってくるか!?」

「いや違う!」


 ガラク機の両翼が跳ね、機体のサイドに格納されていたパーツが真空を裂いた。そしてそれぞれが腕と拳を形作る。


「おい。あれって」


 コクピット部分が内に引っ込みその下部から脚、上部からは頭が変形を伴って姿を見せた。


汎用人型機動兵機(ロボット)! かっこえぇ!」

「聞いたことはあるがここまでのレベルで実用化されていたか! うわぁかっこいい!」


 少年の心を持ったコンビははしゃいでいるが、これは穏やかでない事態だ。

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