Episode-13 前線とカクセイ
KOUTORII襲来の知らせはジンノによって臨時ニュースとして伝えられ、途端に三連星は天地が逆転したかのような大騒ぎになった。無理もない。かつてない規模で敵が大群を率いて攻めてくるというのだ。
パニックになりながらも諸々の準備を進める星の民たちを尻目にラグロンは思案に暮れていた。元帥はというと呑気にカップ麺をすすっている。
「うーむ」
「どうした?」
元帥を連行するためにはるばる派遣されてきたラグロンであるが、自らが戦いの渦に呑まれるという経験はなかった。
成り行きに任せてここまできてしまったが一切の迷いもないといえば嘘になる。
「もしかして緊張してるとか?」
いたずらっぽく茶化す元帥。
「そ、そんなわけなかろう!」
ラグロンは古いタイプの分かりやすさを発揮した。
モンゴル湯麺のスープを飲み干した元帥はダストシュートにカップを放り込んだ。
「わりと昔のことなんだが太陽系を中心に大きな戦いがあってな」
昔話をするなんてどっちがジジイか分からんとぼやこうとしたラグロンだったが、それを口にしないだけの分別はあった。
「開拓者と呼ばれていた地球人と来寇者、そして干渉者が三つ巴で揉めていたことがそもそものきっかけなんだが」
「ふん、地球人類が調子に乗った結果じゃな。地球で大人しくしていれば良かったものを」
「まあまあ。最初は星の所有をめぐって小競り合いをしていただけだったんだが戦いがエスカレートしていって……」
来寇者らの地球総攻撃に至ったと語る元帥。
地球から宇宙に飛び出す者は多くとも地球そのものの防衛はあまりにもお粗末だったと歴史学者は誰も彼も口を揃えている。それほどまでに絶望的な状況だったのだ。
何もかもが消えていく。それは奪われる恐怖より無へ帰する恐怖だった。
「ひとたまりもなく地球人涙目敗北でおしまいちゃんちゃんというわけじゃろ」
ひらひらと手を振るラグロン。
「いやそれだと地球滅んでるから。っていうかあんたも地球人じゃないのか」
現に地球は今も無事だ。もちろんなんとかなったということ。テレ東以外の全てのメディアが悲観に暮れるなか、立ち上がった人々がいたのだ。
人を惹き付ける何かを持っていた兄とそんな彼をとにかく慕っていた妹。伝説とされる開拓者兄妹を中心に開拓者たちは総力を結集し、地球に残った者たちとともになんとかこの危機を乗り越えたのだ。
「来寇者の大将が星盗りなんて呼ばれてるそりゃもうヤバい奴で、今でも時々地球が無事なのが不思議に思うことがあるくらいなんだ」
同じ規模の侵略がもう一度行われたら今度こそ地球人類は最後の日を迎える。その危機感から地球にはできうるかぎり最新鋭の防衛システムが構築されるようになった。
「つまり何が言いたいんじゃ。絶対勝てるから心配するなとでも?」
元帥が長々と話すのでラグロンは飽きてしまったようだ。
いつの時代も教訓めいた話は必ず落ちを必要とする。今回もその例に漏れない。
元帥はいたずらっぽく笑った。
「勝つときも負けるときも終わってみればあっさりってことだよ」
「おい!」
戦う前から負けることを考えてどうする、とラグロンは言いかけて止まった。
そう、これはあくまでも任務のうちだ。組織のため、星々の進歩と調和のため全うしなければならない。そう思いつつもラグロンは元帥への警戒をにわかに強めていた。
☆★☆
総長は血の塊を吐き出した。鼻血と口内の出血で、感じることのできる鉄分のキャパを彼の体はとうに越えている。
「し、師範。さすがにやりすぎじゃないですか」
この空間に迷いこんでからというもの、ずっと師範と試合を続けている。それはもはや死合とすらいえる代物だった。
どんどん技を決めてくる師範に対して総長はここまで一太刀もいれることができていない。力の差は歴然だった。
「大丈夫だ。ここではお前は何があっても死なない。今までの攻撃をお前が現実で食らっていたら軽く100回は死んでるだろうな」
「何が大丈夫なんですか」
あの無限増殖ですら残機99までと定められている。それだけ文字通り死ぬほどの痛みに晒される辛さは言葉にできない。
ご都合主義に満ちた夢の中ゆえに、痛みは引くのだがまたすぐに痛めつけられるので痛みのための回復と錯覚してしまう。
「もう慣れたけど……」
出血はぴたりと止まり満身創痍の体が一気に軽くなる。不老不死を体現しているかのようで総長は若干の気味の悪さを感じた。
半ばやけくそで総長はもう一度師範に立ち向かったが、ここで師範が待ったをかけた。
「ここまでだ。現実のお前がじきに目を覚ます」
「よし! ナイスむこうの俺」
回復込みとはいえさすがにしんどかった。
「師範、どうしてここまでボコボコにしてくれたんですか?」
してくれた、のアクセントを強調する総長。
「私にも分からん!」
「分からんのかい!」
もし総長が猛禽類並の視力をもっていれば、師範の肩口が総長の攻撃によってミリ単位で解れ糸が露出していることに気がついただろう。師範は当然そのことを知っていたがあえて口にしなかった。
「懐かしいなぁ」
これまでもやがかかっていた道場の外にはかつて総長が住んでいた街の景色が広がっていた。
荷物をまとめ(といっても持ち物など最初からない)、総長はいつの間にか現れた道場の玄関から外へ出た。そして振り返る。
「師範、いや父さん。また会えるよな?」
OKEYA総長としてではない。どこにでもいるような少年、猫峰銀之介として彼はそう口にした。
「死人に無茶を言うな。まあお前が死んだら会えるかもしれんがもし本当に死んだら地獄で今度こそ三枚におろしてやる。二枚でも可」
「中骨をはずすか残すかの差じゃねぇか!」
銀之介のツッコミは師範にではなく父へのものだった。
だがまあ、と師範は言葉を続けた。
「現にこうして会ってるんだ。1回起きたことならいつ2回目が来てもおかしくないだろ?」
総長はベッドで目を覚ました。枕元には花に紛れて漫画本が置かれていた。艦長からの贈答品だろうか。
「ひっ!」
意識不明の重症患者が突然息を吹き返したことで腰を抜かしている看護師に一礼し体の具合を確かめる。問題なし。
何故か溢れていた涙を拭い、きれいに畳まれていたいつもの服に着替えた。
師範との会話で自分が冥王星の病院に担ぎ込まれたこと、そしてOKEYAのメンバーが散り散りになっていることを彼は直感で理解していた。
「あの特訓は意味あったんかねぇ」
脳内で師範が『分からん!』と大声を張り上げた。思わず苦笑いしながら立てずにいた看護師を助け起こした。
意気揚々と病室をあとにする総長。ちなみに彼の奇妙なまでの回復劇はしばらくの間この病院一のゴシップになったという。




