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Episode-1 シンセイと新星

 ガウスの襲撃から3ヶ月経った。この事件は公には地球軍と未知の惑星系エイリアンとの戦闘と発表され、地球人から軍への支持率がいささか上昇するという結果をもたらした。


 また、船団の残骸から発見された航行記録から新たな惑星系へのルートが開拓されたことも一つの朗報といえる。彼らの探査データからも宇宙の地図の闇の部分に光が灯り、これまで太陽系とその近辺の惑星系の範囲内を飛び回ることしか許されなかった地球人はついにそれより遠くへ行くことが可能になった。


 宇宙船さえあればそんなものは簡単なのではないかと思うかもしれない。しかし、そうもいかないのだ。これまでにも外の惑星系に出ようとした者は大勢いたが機体ごと消滅したりブラックホールに飲まれたりとその全てが失敗に終わっている。どこに何があるのか分からない状況では踏み出すことすら危うい。


 宇宙連盟もそれぞれの星の文明の発展には干渉しないことを謳っているので助力を得ることができない。地球に視察にやって来た彼らの使者を迎えることはあっても、地球から彼らの本部に出向くことはないのだ。


 この大発見は全地球人に公開され、冒険家もサラリーマンも漁師もならず者もゴールドラッシュとばかりにフロンティア魂を爆発させてこれに飛び付いた。妙な形ではあるが、地球は再び新たなネオフロンティア時代を迎えたのだ。



 さて。これら一連の出来事の立役者であるOKEYAの面々は退院してからというもの、久しぶりの地球を満喫していた。


「うおおおおおお! スカイツリー超でっか! ちょっ、介さんも見てみろって!」

「落ち着け。ていうかここ最近ずっと見てるだろ」

 煙たがられる艦長はいつもの構図だ。今日は渡辺からのブルー号修理完了の知らせを受けたこともあって、彼らは徒歩でスター損保の東京支部を目指している。


「それにしても驚きましたね。もっともっと遠くの星へ行けるようになったなんて」

 官房長官がしみじみと語る。太陽系から外へ出たことのない彼女たちにとっては一大事に違いない。


「気づいてもらえないだけで本当はぼくらの手柄なんだけどなぁ。入院してるうちにだいぶ先を越されちゃいましたね」

 庶務からすると少し悔しいようだ。


 そんな彼に声をかける者が。

「いやいや、そんなことはありませんよ。少なくとも私は皆さんの活躍をしかとこの目に焼き付けましたから」

 現れたスーツの男。渡辺だ。親切にも通りまで迎えに出てきてくれたようだ。


「渡辺さん。わざわざすみません」

 ペコリと頭を下げる元帥。


「いえいえ、楽しみにお待ちしておりました。小さいですがこの建物です」

 一行は渡辺に導かれて雑居ビルへ。


「おおすげぇ!」

 ビルの屋上には修理が完了し、新品同様になったブルー号が停まっていた。艦長はその周りで小躍りしている。


「お支払いも完了していますしこのまま持っていっていただいてかまいません。桶屋さん、帰りは運転のほうをよろしくお願いいたします」


 車道で車として宇宙船を走らせる場合、当然運転免許が必要となる。このなかでは元帥しかそれを持っていないのだ。


「もちろんです。たまにはこういう道も走ってみたかったんですよ」

 宇宙空間を飛ぶことが多かったブルー号だが車道での走行にも堪える。元帥は密かに楽しみにしていたようだ。


 そして一行を怪訝そうに見つめる渡辺。


「そういえば今日は指揮官さんと諜報員さんがいらっしゃらないみたいですがお二方はどちらへ?」


「ああ、つい一昨日まで一緒にいたんですけどね。指揮官はアメリカに帰って、諜報員は火星です」

 二人がそれを希望したので、と元帥。


「なるほど。それともう一つ、これは全く関係のない話なのですが……」

 渡辺が元帥に何事か耳打ちした。


「あの二人何を話してるんだろう?」

「ぼくが分かるわけないじゃないですか」

 監察官は話に混ざりたいようだ。



 用を足した一同はもう一度渡辺に礼を告げ、直ったばかりのブルー号でホテルへと帰っていった。

 

 ブルー号の受け渡しが済んだとなればもう地球にいる理由もない。渡辺はトランクを持って支社をあとにした。つくづく忙しい身である。


 ターミナルへ行こうとタクシーを求める渡辺。そこへ誰かが声をかけてきた。

「もし、あんたがスター損保の渡辺さんかい?」

「そうですが……あなたは?」


 振り向くとそこにいたのは子ども。地球生まれでない渡辺にはよく分からないことなのだが、日本とヨーロッパ系のハーフに見えた。


(わし)のことなんぞどうでもいいわい。それよりさっきの連中について聞かせてくれんか」


 何かがOKEYAを動かそうとしている。渡辺の直感がそう告げた。





☆★☆





 地球から遠く離れたどこかの惑星。一人の男が足早に砂丘を歩いていた。長身痩躯に流れるような銀髪。このあたりではあまり見かけない地球人系だ。

 


 思いがけないことはいつも突然起こるものだ。空から人が降ってきた。もちろん地球とは異なる重力ゆえの行為だ。


「よく来た。ここの原生生物は狂暴なのが多いそうだ。でも君には関係なかったみたいだ」

 砂煙のなかから現れたのはKOUTORIIの夏目。その後ろにはリラとミャットン、ルドゥムグが控えている。


「呼ばれりゃ来るさ。こんなヘンピなとこでもな」

 男はその銀髪についた砂を払った。


「ルドゥムグは知っていると思うがこっちの二人は初対面だったか。紹介しよう、ジョサイア・マクレーンだ。少し前までは別動隊と外の惑星系に行ってもらっていた」

「ジョサイアだ。よろしく頼む」


「こ、こちらこそ」

 ペコペコと頭を下げるリラとミャットン。上司の夏目、普段から何を考えているのか分からないルドゥムグ以外のメンバーが加わることが嬉しいようだ。


 ジョサイアがルドゥムグに歩み寄る。

「旦那。久しぶりだな。あの中将に付き合わされてたと聞いたが元気そうで何よりだ」

「それはどうも。ボクも君の活躍は風の便りで聞いていたよ」

 ルドゥムグは答えつつひらひらと手を振った。


「それで……OKEYAとかいう奴らが邪魔をしてきたみたいだな。こうして呼ばれたってことはオレはそいつらを始末すればいいのか?」

「いや、夏目さんはひとまず彼らを泳がすらしいよ。そうだよね?」


 話をふられて夏目は頷いた。


「我々の目的はOKEYAとの小競り合いではない。KOUTORIIとしての理想を実現することだ」


 ただし、と付け加える。


「再びOKEYAが我々を挫こうとするならば容赦しない。ちょうどいい機会だ。ジョサイア。ここで我々に君の実力を見せてくれ」


 夏目がパチンと指を鳴らすと彼らが現れた時と同じように上空から大量の金属塊が降ってきた。

「えっ、何これは……?」

「私に聞くなっての」

 リラとミャットンが腰を抜かすなかそれは少しずつ変形し、やがて人型になった。右腕に銃、左腕にナイフを装備したなんとも凶悪そうな風貌。リラはとりあえずミャットンの後ろに隠れ彼女を盾にした。


「最近宇宙連盟で試作された人型戦闘兵器(テスター)だ。今後の宇宙連盟軍の補強に充てられる予定なんだが、これを相手取ってもらう」

「そうこなくっちゃな。こっちはいつでもいいぜ」


 起動されたテスター。ジョサイアを敵と認めたようだ。


「全部で8体。いくぞ」


 合図とともに8体が一斉にジョサイアに襲いかかった。ある者はナイフで、またある者は銃で彼を狙う。その動きは鈍重そうな見た目に相反して俊敏そのものだ。


「きゃっ……って、ん?」

 思わず目を伏せたミャットン。しかし残酷な解体ショーは始まらなかった。

 見てみると8体すべてのテスターが粉々になって煙をあげている。何があったのだろうか。


「やるじゃない。一歩も動かずに全部片付けちゃうとはね」

 ルドゥムグの目には確かに見えていた。半数は機動部分を撃ち抜かれ、半数は肉薄してから叩き斬られた。


 それを一人でやってのけた。驚愕に値する。


 夏目も満足げに頷いた。

「問題ない。実に問題ない。さすがは私が見込んだ男だ」

「今のオレは働く意欲に満ちてるんだ。次はもっと手応えのある相手を頼むぜ」


 ジョサイアの啖呵とともに機を見計らったかのように迎えの宇宙船が着陸した。

 公正取引委員会、KOUTORIIがまた動き始める。


「さて、これから最初の作戦に挑む。『我らKOUTORIIの理想のために』」

 その場の全員が復唱した。我らKOUTORIIの理想のために。

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